内申点、内心気にしてる。2【小説】

目を閉じると、そこは数字の世界が広まっていた。静かな音が余計に不思議な世界を引き立てる。来てよかった。一生に一度の体験。

第一章 父の行方・彼女の遺言

同級生の葬儀が終わった。俺は山岡真二。学校以外で制服を身に包んだのは久しぶり。内田の同級生である。今は遺骨を持っている。何で死んでしまったんだよ。うちけん。もっと剣道を一緒にやりたかった。死因は転落死。雨で足を滑らしたらしい。ベランダから落下した。馬鹿な奴だよ。そう思っているはずが涙が溢れてきた。

親戚の人混みの中から、健介の母が俺の所に来た。渡したい手紙があるらしい。

「健介に言えなかったことが書いています」

と言って茶封筒を渡された。


家に帰って読んでみた。その手紙の内容は健介の父がインドに修行していることだった。自分の父親がどこで何をしているのかを健介は知らなかったのか。健介は音信不通と言っていたが、母は知っていた。何で言わなかったのだろう。疑問だ。

手紙は二枚ある。桜田の葬式にも出席した。桜田の父親からも手紙を貰った。本来なら渡すはずの同級生が亡くなってしまったからと俺にくれた。手紙にはこう書いていた。

拝啓

この手紙は内田くんに渡して下さい。

急にこんな手紙を貰って驚いているよね。この手紙が届いているということは亡くなっているんだね。私。実は心臓の病気で少ししか生きられないの。内田くん、10年くらい前に私がペットになりたいという話し覚えてる?最近の放課後、話した時に私の事を心配してくれている内田くんは優しいよね。10年前の河川敷で見た夕日に照らされる貴方の横顔。あの時から、内田くんのことが好きだった。生きている間に伝えれなくてごめんね。

桜田優

第二章 奪い合い

読み終えた手紙を机に置いた。部屋を見渡すと一枚の写真に目が止まった。桜田と内田と俺のスリーショット写真。修学旅行の時のものだ。そういえば健介と喧嘩したこともあったよな。つい最近のことだ。あれは修学旅行の時。同時に桜田に告白することを打ち明けた。当然、喧嘩になった。枕を投げ合い、先生に怒られた。結局二人共、告白することが出来なかった。

今となってはいい思い出。この手紙を読む前から薄々気が付いていた。桜田は内田の事が好きだということを。奪い合いみたいなもので桜田を傷つけたくない。俺が引くべきだったのかな。なんだか意地になってしまった。これが青春なのかな?

手紙、大切に机に閉まっておこう。

第三章 旅立ち

桜田と内田の死から五年が経った。俺は大学生になった。大学の講義では外国語を積極的に学んでいる。アルバイトをしながら貯金を貯めている。一人旅が趣味だ。日本のほとんどの都道府県に行った。ほとんど制覇した俺は海外に旅立ちたいと思った。どこに行こうか迷う。一応、パスポートを取った。

旅行雑誌を見ている中で思い出した。とっさに部屋の机の引き出しを探った。やっぱりあった。大量の紙が重なっていた所から見つけ出した。残っていた。二枚の手紙。海外と言えば内田の父がインドで修行をしていることを思い出した。会いに行こう。修行している地域も書いている。

数日後、空港に向った。ネットで取ったチケットで飛行機に乗った。機内でインドと言えば中学校の時の数学授業を思い出した。数字の起源はインドだということを習った。窓の外を見た。これから未知の世界に旅立つんだな。異国の地に旅立ってどうなるか分からないけど、なるようにしかならない。

第四章 出会い

ニューデリー空港に付いた。現地の人に声を掛けて、車で案内して貰った。数分後、ラクシュミーナーラーヤン寺院の近くに来た。ここの近くで内田の父、内田暁人が修行をしている。場所のありかを探す手掛かりは、この手紙だけ。詳しい場所は示されていないが、この辺りで修行しているらしい。

人が多い。何度もぶつかりそうになる。この人混みの中で辿り着けるのだろうか?目まぐるしく動く中でポツンと一人歩く。人が沢山いるのに孤独な感じがする。

「あっすいません」

ぼーっと歩いていると一人の修行僧とぶつかった。思わず日本語が出た。

「日本人?」

その人は僕の事を日本人かと聞いてきた。相手も日本人なのか。異国の地で同じ国籍の人と巡り合えて安心した。もしかして。

「内田さんですか?」

その人はキョトンとした。この反応からすると本人のようだ。

「そうですが・・・」

怪しげな顔をしていた。本人だった。やっと見つけた。

「俺、内田健介の友達の山岡です」

俺自身の事を話した。日本から貴方に会いに来たことや妻から渡された手紙を読んで来たことや五年前に息子が亡くなったことも。見つけた喜びでペラペラと話した。

「そうですか・・・」

すべての話を聞き終わるとそう一言言って、ある場所に案内してくれた。大通りの道を外れて、裏路地に入った。急な坂道が続く。古い建物の中に入ると、そこの壁には沢山の数字が書かれていた。ここは・・・?

第五章 数字の神秘

中に入るなり、内田暁人は

「目を閉じて、壁を触ってみて」

と言った。言われるがままに俺は目を閉じて壁を触ってみた。冷たい。

目を閉じると、そこは数字の世界が広まっていた。静かな音が余計に不思議な世界を引き立てる。来てよかった。一生に一度の体験。

なんだか数字の神秘に触れられたような気がした。

内田さんに会えてよかった。なぜ修行僧になったのか詳しく聞いてみた。

サドゥー(※日本語で修行僧)になる前は日本でサラリーマンをしていた。ある日、数学の神秘に触れてみたいと思い、インドに行った。最初は、グルに弟子入りして修行を始めた。それから、生活が安定してくると妻に手紙を送るようにした。息子には秘密だった。妻に内緒にしてくれと頼んだ。理由は息子が受け入れることが出来ないような気がしたからだと言う。

嫌味上司がいる会社での仕事中、ふと中学校で数字の起源はインドだと教わったことを思い出したらしい。俺と同じだ。職場から離れたい思いで、決心したらしい。何かを変えたいが為に衝動的な行動をした。いつの時代でも教わることは同じなんだなと思った。

第六章 頼み事

その日はホテルに泊まった。次の日、空港で帰国手続きを取った。短い旅だけど初めての海外旅行だった。本来なら内田と一緒に行きたかったな。あいつ、数字の神秘に触れたいと言っていたから。そして、父親に合わせたかった。

そう思ったって亡くなった人は帰って来ないだな。思い出は心の中に閉まった。世界は広いなと感じた。今まで、ちっぽけな空間で生きてきた。インドに旅立って大きな世界を感じた。いつかまた行きたいなと思った。

少しインド観光をして、出発時間の一時間前に空港に着いた。内田の父が見送りしてくれた。「さようなら」の一言を言って日本に向った。


数時間して日本に着いた。二日しか旅行していないのに宇宙から帰って来た感じがした。空港には桜田の父親と内田の母が居た。どうしてここに?

「頼みたいことがあるんだ」

俺は、二人からとあるお願いをされた。

第七章 繋がっていたい

自転車で河川敷まで来た。二人の思い出の河川敷。言われた通りに二人の遺骨を持って来た。そこら辺の木を集めて、重ねて、ライターで火を付ける。燃えていく。二人の遺骨を同時に火の中に入れた。白い煙が上がる。その煙をじっと見つめていた。桜田の父親から遺骨を同時に燃やして欲しいと頼まれた。二人同じ世界に舞い上がれると信じて。

俺、二人の分まで生きるから。まだまだ狭い世界で生きていた未熟な人だけど、生きていかないといけない。それは運命であり、使命であるから。ドラマチックな言葉を思い浮かべて、空を見上げると星が俺をそっと照らしていた。

いつまでも内心、気にしてるから。

〜作者からのメッセージ〜
この作品は「内申点、内心気にしてる。」の続きの話です。最初にそちらをお読みください。主人公の友達が、主人公になり話を進めていきます。珍しい構成です。物語はフィクションですが、インド旅行中に出て来る空港や寺院は実在します。旅した気分になれると幸いです。前回は中学生の設定でしたので、一人で旅行に行ける五年後を描きました。執筆途中で感じたのは今回の話とタイトルが合致していないなと思ったことです。私はこの小説が沢山の人に読んでもらえるか、内心気にしてる。

植田晴人
偽名。久しぶりの連続作品。アイディアが思いついたらすぐにメモをします。