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父をしのぶ 鉄火丼

お盆なので父をしのんでみる

雑多に思い出すとろくな事にならないので(笑)、食べ物に限定。

ろくでもない思い出につながらない想い出がひとつ、


あざやかな鉄火丼。


専業主婦の母が毎日食事を作り、外食に連れて行ってくれることは全くない家だったので、とても珍しい出来事だった。

おそらく、何かの事情で、母と他の家族がいなかったのだろう。よく覚えていないが、本当に珍しく、父と私だけだった。母としては、何か作って食べろと父に言ったのかも知れないが、父は近くの店に私を連れて行った。このチャンスにおいしいお酒を飲もうと思ったのだろう。

そこは開店したばかりのお店で、他の客はいなかった。

ほぼ外食をしたことがなかったから、幼い私にとってお寿司とは、家で母が作るちらし寿司の事で、メニューを見ても意味が分からなかった。

そして、意味も分からずに頼んだのが「鉄火丼」という不思議な名前だった。おそらく、マグロのお刺身も食べたことがなかったのではないだろうか。出てきたのは鮮やかな真っ赤なマグロの赤身の鉄火丼だった。

幼い私は、どうしてこれを「鉄火丼」と言うのだろうと不思議に思った。

当時、「丼」と名前がつくものといって思いつくとすれば、親子丼やカツ丼みたいなものだったろう。しかし、そんな事を父に尋ねることもなかった。

父はいつものように酒を飲み、店の若い主人と会話を楽しんでいた。

帰りがけに、金の話にしか関心のない父が、店が開店したばかりだから利益度外視なんだろうと、最初の2年くらいは利益を上げないんだろうとそんな話をしたのを覚えている。

まだ小学生だったろうか。


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