『猫について』全て君が教えてくれた

 我が家の猫は気まぐれで人の言うことなんてまるで聞かず一つもこちらの思う通りにならない。飼い主には太々しい態度なのに、知らない人がくると途端に警戒モードになる。なんて可愛いやつ。
名前はアクアという。去年の3月に生まれたラガマフィンの女の子で、誕生石のアクアマリンから名付けた。
どんな良質なぬいぐるみだって霞んでしまうふわふわの毛並みは白混じりの灰色。手足の先は靴下を履いているみたいに白い。瞳は青色でなかなかの美人さん。
お耳は三角で、薄いフェルトのような触り心地。肉球は肉まんの外側みたいにモチモチしている。鳴き声は聞くだけで口元が緩んでしまうほど可愛い。
猫を飼うということに関して、私は最初かなりの不安を感じていた。動物と暮らした経験がないためにイメージがつかなかったというのもあるし、神経質な性格ゆえ、言葉の通じない生き物にペースを乱されそうで恐ろしかった。
結局、私の心配は半分くらい現実になった。
うちに来たばかりの頃は食事の回数が多かったので長く家を離れられなかったし、ある程度大きくなった今も旅行なんかは気を使う。定期的に爪切りに連れて行かないといけないし、部屋の中は毛だらけになるし、変なものを口に入れないようにある程度片付けをしなければならない。仕事中でも食事中でも構わずやってきては些細ないたずらをする。
けれども、そういう生活を苦に感じなくさせる魔力が猫にはあったのだ。私はアクアと暮らすようになってから与えるだけの愛情が存在すると知った。
撫でようとした手をつれなく避けられようとも、勢い余って爪を立てられようとも、うんちをぶら下げたままベッドに乗られようとも、お気に入りのニットに穴を開けられても構わない。明らかに私より旦那の方が好きそうに見えても関係ない。私は都合のいい女でいいのだ。ごくたまにこちらを見てくれればそれでいい。
人間の咀嚼音はできれば聞きたくないけれど、アクアがカリカリとフードを食べる音は幸運を連れてくる。今日も元気だねーとほんわりする。
全部好きになれる。全部許してあげる。たとえ君がどう思っていても。
どんなに微妙な態度を取られようとも、少なくとも嫌われてはいないと思う。警戒心が高く人に媚びない猫が、私の前で無防備にお腹を見せて眠っているのだから。
誰とでも仲良くできるわけではないけれど、心を許した相手には我儘な部分だって見せちゃう。そういう一筋縄ではいかないところがとても好きで、自分にも通じる気がして嬉しくなる。完全に肉球の上で踊らされている気がするけれど気にしない。
フワフワの毛並みを撫でて、可愛いねーと話しかけていると、この子はいつまで元気でいてくれるだろうかと思う。
アクアをペットショップから連れ帰るとき、私は全部を覚悟した気でいた。この子の人生を人間のエゴで歪めることと、いつか失ってしまうこと。
でも本当は少しもわかっていなかった。毎日健やかに成長する姿を見るたび、なんてものを自分の内側に入れてしまったのかと思う。
後悔するつもりはない。だからいつかアクアが虹の橋を渡ってしまっても生きていけるように、幸せをたくさん溜めておこう。悲しいけど会えてよかったと心から言えるように、全力で一緒に幸せになろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?