「春夏秋冬の秋」 気付かされる季節

 金木犀は自分の力で増えることができないらしい。ソースはTwitterなのでどこまで本当かわからないけれど。

自分で増えることができないはずの金木犀が日本の至る所に花を咲かせるのは、金木犀を望む人が植えて増やしたからだという話らしい。
そうだとするならなんて幸せな花なんだろう。。だって金木犀は皆望まれて生まれたということだ。人間の中には望まれずに生まれる人もたくさんいるのに。
あの甘い香りで人間を惑わせて増えているのではと考察した人もいるようだけれど、私は少し違うような気もしている。
自然への親しみが薄くなって久しい都会人さえ振り向かせるあの香りは、金木犀からの便りだ。「ありがとう、今年も元気に生きています」と私たちに伝えてくれているのかもしれない。

 そんな呑気な想像に耽っている間に季節は巡った。数日自宅から出ないでいるだけで、外はまるで別世界のように変化すると知っているのに、毎年目まぐるしい変化に戸惑ってしまう。
日に日に下がる気温。と思えば思い出したように夏の名残を連れてくるのでタチが悪い。
昼が短くなり、夜は長くて寂しい。自分の真ん中を冷たい何かが通り抜けていくようでなんだか切ないような気分になってしまう。
もう少しすると落ち葉が風に飛ばされる音が聞こえるようになる。正直私はあの音を聴くと納骨堂で骨を拾ったことを思い出すのだ。生物は死ぬとこんな乾いた音になるのかと思うと恐ろしくなる。
読書の秋やスポーツの秋などと何かに熱中するのは、よくわからない寂しさや鬱々とした気分を一瞬でも忘れようとしているのかもしれない。

 秋はあまり好きではないけれど、普段何気なく受け取っているもののありがたさを不意に感じたりする季節でもある。
家に帰ると「おかえり」と言ってくれる人がいること。換気扇から漂う知らない家の夕食の匂い。
ティーカップから上がるツヤツヤとした暖かな湯気と香り。フカフカのベッド。
季節はとどまらず流れていくけれど、私が大切に思うものはちゃんとある。変わらずにとはいかなくてもそこにある。それを感じる度ホッとして、とりあえず明日も頑張ろうかなと思う。

 後一月もすれば季節は冬になり、クリスマスだお正月だと慌ただしくなるのだろう。秋は忙しい冬の前の小さな休息でもあるのかもしれない。

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