舞台「未来記の番人」感想諸々

タイトルの通りの感想文です。私的推測や解釈が多分に含まれます。

舞台「未来記の番人」を何度か観た、戸塚担のオタクです。思いの丈だけはぎっしりこめましたので、よかったら読んでいってやってください。

今作は、私が観たなかでは大幅な演出の変更はありませんでしたが、所々細やかに変化していく舞台で、その気づきを楽しみながら観劇していました。

原作既読で臨んだため、初見では(天草四郎を守るってなんだよ?!)といった驚きはありましたが、複数回観る機会があったことで舞台の構成は単純明快で、例えるなら王道の少年漫画の展開なんだな、と思いました。

幕が開いた途端に勢揃いで並び立つ登場人物たちが見える時点でもう少年漫画のアニメのオープニングなんですよ。名前が下手上手に表示されるところなんてワクワクしかしません!


颯爽と現れた、明るいけれどトラウマ持ちの主人公・千里丸。

千里丸の幼なじみでクールな二枚目、士郎左。

神秘的な雰囲気を纏い、千里丸の初恋相手となる、守られるだけではないヒロイン、紅羽。

紅羽の導き手であり、良識ある大人の代表・道啓。

見るからに悪役強キャラの剣客・蔵人。

そして最後に悠然と現れる真の敵・ラスボスの天海・・・。

と思ったらひょいひょいっと現れ雰囲気をぶち壊す完全に三枚目の泉屋。


上記では登場人物を絞りましたが、そんなこんなでワクワクオープニングが終わって。

いかにも凄惨な、島原の乱の情景。千里丸の悪夢。戦の熾烈さが伝わってきます。

千里丸が背後から斬られ、桜が駆け寄る。そして士気を上げるかのように皆で里の衆の三カ条を唱える。このとき負傷して痛みで苦しいはずなのになお復唱している千里丸の表情がつらくて・・・どれだけ里の衆の三カ条が重く、千里丸たちを縛りつけているのかとゾッとします。

すれ違いざま、天草四郎が千里丸に向けた

「生きろ。ただひたすらに。生きるのだ!」

この言葉。千里丸にとって、仲間たちの死が何より強烈であるはずの記憶の中に残り続けているということは、千里丸が何かを感じた言葉なのだと推測できます。作中、彼からこれといって語られることはありませんが、印象深かったのは確かです。それは観客側としても同じだと思います。


ところで話はだいぶ前後してしまうのですが、最初の千里丸と士郎左が刃を交わし、互いに微笑み合うシーン。これって、再会後頑なに態度を崩さなかったあの士郎左が、死して、千里丸と最後の最後に心を通わせた、あの笑顔を想起させませんか?

島原の乱のシーンの地続きではなく、二人の心の繋がりを表しているやりとりのように私の目には映りました。


さらに脱線いいですか、いいですね、はい!

桜と紅羽。二人のヒロインの名前と意味について。

桜は名前の通り春の桜。誇らしく華々しく咲き、惜しまれながら散っていく花。

散る、は死の表現の定番ですよね。花びらが散っていく光景はどこか物悲しく美しい。

紅羽。くれは、は紅葉とも書けます。

染み一つなく青々しかった楓、紅羽が、千里丸と出会いほのかな恋心によって紅葉していく。書いていてようやく楓、楓か!ってなりました笑 まあそんな感じで、ヒロイン二人は対照的な意味があるのかなーと考えてみたり。


本編に戻ります。印象に残っているところをぽつぽつ。


島原の悪夢から目覚めた千里丸に、士郎左は「またあの夢を見ていたのか」とすげなく声をかけます。千里丸は能天気そうですが、悪夢のことを事細かに士郎左に語るようには思えないんですよね。桜のこともありますし。だから天草四郎に告げられた言葉を士郎左は知らないでしょうし、士郎左も島原の乱で負った衝撃(命の恩人の天海様にとって自分は異能の千里丸を守る駒、盾でしかなく、いつ死んでも歯牙にも掛けぬ存在であること)を絶対に千里丸に悟られたくない。正直ブチギレですよね、里の仲間たちを喪い、自分は価値がないに等しいのだと思い知らされた存在と、時間は空いたとはいえ行動を共にする。私ならキレてます。

とはいえ、その怒りと悔いがあったから士郎左は上を目指した。必死に心を押し殺して。でも千里丸と行動している間ずっとブチギレてるとしたらあまりにも救いがなくて悲しいので、ほんの一瞬でも千里丸や桜との楽しかった記憶をなぞる時間が士郎左にもあったらいいな。それはそれで泣いてしまいますけど。

千里丸が悪夢を見たことをまるでごまかすように、そもそも任務ってなんだっけ?と戯けるのも今考えるとちょっと泣けてきますね。情緒を保て。

いざ移動、の前に千里丸が五重塔にいる紅羽を千里眼で見つけたとき、目を細めてどこか恍惚と眺める表情は、まだ恋ではないけれど、千里眼として物理的に見えるものとは別の何かを見ているようで。悪夢からの吉夢、だと言葉がおかしいかもですが、夢から夢へ繋がった気もします。


太子未来記を手に入れるため四天王寺に向かった千里丸と士郎左。

千里丸はちんぷんかんぷん。士郎左と道啓の会話を少し距離を取って聞いているときの逐一の反応が好きです。え? なにそれ、どういうこと?と言葉にせずとも表情で物語ってる。ここに限らず横顔の演技好きだなあ。

士郎左はずっとイケメン。そして声がいい。


話がつかず、仏敵退散!とまさかの天変地異を起こし雷を千里丸に落とそうとする道啓様ですが、士郎左がすかさず千里丸を突き飛ばして難を逃れます。が、このとき間に合わず千里丸に雷が落ちても、異能の力は異能には効かない、とのちに紅羽が語ってるわけで、千里丸がピンピンしてたら道啓様めっちゃビビりますよね。話が破綻してしまうので考えるなよ、と思いつつ道啓様たちがびっくり仰天する姿は面白そう。


太平記を黙々と読んでいる士郎左の横にキュッと座る千里丸の、「寄るな」「いいだろ別に」のやりとりはただただ可愛いです。二人ともね。でも、友達との楽しい悪ふざけのような、士郎左曰く変な言葉を吐く千里丸に里の衆の三ヶ条を言うように促す士郎左はやっぱりキレてますね。お姉さんは悲しい。自分の意志とは関係なく強制的に復唱させられてしまう千里丸も・・・。そこからの、千里丸から語られる二人の親友エピソード(柿の話)は、現在は上背があって朴念仁の士郎左が幼い頃は千里丸を頼りにしていたことが如実に分かりますし、千里丸は今でも士郎左の兄貴分でいたい、頼りにしてほしい、と暗に言っているようで、ギャグシーンなのにちょっと胸が詰まりました。


再び脱線しますごめんなさい。

士郎左が読んでいる太平記で語られている楠木正成は、兜の中に摩利支天の小像を複数籠めていたそうです。摩利支天は陽炎を神格化した存在で、武士の間に信仰があったとか。たまたま、陽炎って日本刀は本当に存在するのかな?とググってたらそんな情報が出てきたので、士郎左の刀の由来ってこれかーーーー!と膝を叩いたよって話でした。


上に四天王寺について報告に行く士郎左に置いてけぼりにされる千里丸。

なんとなく腰掛けていると、なにやら賑やかな声が聞こえてくる。私はここの千里丸・・・というか戸塚くんの無言の演技が毎回の楽しみでして!なんだァあいつら。ん? なんか雲行きが怪しくなってきたな・・・やっぱりそうかよ!という感情の流れが表情だけで脳内アフレコできるレベルで聞こえてくるんですよ!そしてその辺の棒で、(国唯一の南蛮絞りで商いをする)泉屋を狙う刺客を撃退する時の長物使いがとても戸塚くんに似合ってて。もう少し後、千里丸が苦悩するシーンでも槍を扱うんですが、いやマジのマジで今度槍使いの役来てーーーーー!!!!ってなりました。戸塚くんに槍を結びつけたことがなかったので嬉しい発見でしたしはちゃめちゃ興奮しました。刀がダメってわけではないです、念のため。殺陣が公演を増す毎にキレッキレになってくの、堪らない。


まだ紅羽にすら出会ってないのに何文字費やしているのか・・・


というわけで南蛮絞りを扱う銅吹所でなんだかんだあって火災が発生します。

飛び出してきた傷だらけの巽に、まだ中に妹が!と言われたらそりゃ千里丸だって助けに行きますよ。そして火消しに必死な職人たちの背後で、ゆらりと紅羽が舞い出し、青い強風が火をかき消していく。神秘的な光景。その姿が千里丸だけには見えていた。

倒れる紅羽に駆け寄り、彼女が五重塔にいた女だと気づく千里丸。「見えていたこと」を話せば動揺する彼女に、絶対にその能力を他人には話さないこと、自分も異能であることを打ち明ける千里丸の声のトーンは少し低くて。おそらく、異能についてやはり明るみにしてはいけないのだと再認識して無意識にショックを受けつつ、その次のシーンに繋がる、里の仲間たちとは違う仲間の存在に喜ぶ複雑さが滲んでいるような声です。

千里眼を持つことを証明する場面の千里丸と紅羽、そしてアドリブの巻き添えを喰らう巽のシーンはホッとしますね。紅羽が初めて笑って、千里丸が「笑った。お前、笑うと可愛いな」と千里丸も笑うシーン、少女漫画だったら渾身の大ゴマ。からの、千里丸による初恋ダンス。もうこれは仕方ない。だって紅羽可愛いし!士郎左には隠してる千里眼がまた使えるようになってることを迷いなく言える相手に出会えたんだもん!

初めての感情に戸惑いながら踊る千里丸も可愛い、可愛いの渋滞。大渋滞。江戸時代にはない振り付けを思いついてしまっても無理はないですなにせ可愛いので。胸を・は・な・れ・な・い!!!

・・・からの士郎左の「ご機嫌だな」の落差が気持ちいい。というか士郎左と合流するまでの間ずっと初恋ダンス状態だった千里丸、やっぱり可愛いな?


千里丸が浮かれている間、士郎左は士郎左で真面目にお仕事をしていました。天海様との会話。事務的なのに、背景に天海様の大きな手とその上に立つ小さな士郎左の映像が目に見えるようです。士郎左は自分のいる場所が天海様の近くになりつつあるのだけを認識していて、大地がまさか天海様の手のひらだとは気づいていない。握り潰そうと思えば握りつぶされてもおかしくない場所なのに。士郎左は生真面目が故に、自分の力が発揮できるであろう天下泰平の道に盲目的になっている。というか、必死になろうとし続けたんでしょうね、自己暗示のように。天海様が求める異能を捕まえることで異能ではない自分の心を保つ・・・つらすぎる生き方です。寝ぐらへ戻ってみれば千里丸はあんなだし、皮肉も言いたくなります。私だったら割と本気で殴ります。そうしない士郎左は偉い!世界一イケメン!


四天王寺に再び挑む千里丸と士郎左。

煙に巻こうとする道啓たちを、士郎左が機転を利かして動揺させます。士郎左に千里眼の力が戻っていることはバレてないと信じてた千里丸が、士郎左の指示で異能を発揮するしかない状況に陥る。千里丸が驚くのはもちろんですが、この時の士郎左の心境ってどんな感じなんでしょうね・・・。結局異能の力がないと存在意義がないのか、と自身を憐れむ心はなかったことにして異能の力を使わせる。縋るしかないんですよ、上忍になろうと下忍の千里丸に・・・。天海様ほんと鬼だな。


紅羽の風を操る異能により四天王寺の外に吹き飛ばされてく士郎左。残った千里丸。千里丸が異能だと知った上で、異能力を使うとどれだけ体力を消耗するのか、多用すれば死に至りかねないこと、紅羽がしばらく動けないであろうことを語り、道啓は千里丸に問いかけます。

命の恩人である天海様になにも考えなくていい、と幼い頃から言われ、信じ、その言葉に今も囚われ続けている千里丸は、道啓の示唆することを噛み砕けない。だって考えなくていいと言われてきた。考える方法がわからないからわかるはずがない。この苦悩の中で黒子が持ち付きまとう鬼火?はいくら心の槍で追い払っても消えない。天海の呪い? けれど、火は消えてましたよね? あの銅吹所では・・・!


さて場面は変わって、銅吹所の空き地で蔵人に竹刀で痛めつけられている巽。巽が放火犯なのだと疑われているらしい。千里丸は何事かと前へ出ます。ここの拷問シーン、巽の心境を考えるのもつらいのですが、蔵人の声と動きが怖くて、コイツ只者ではないな?!ってなります。が、今度は兄を痛めつけられてブチギレの紅羽が強風を巻き起こして男たちを吹き飛ばしていく。しかし全快ではない紅羽は力尽きて。駆け寄る千里丸に近寄るなと鋭く叫ぶ。お前が仏敵だったのか。

千里丸の境遇を知らない紅羽にしてみれば、間違いなく千里丸は嫌悪の対象です。でも、千里丸は一度、わからないけどわからないなりに考えた。わからないけど、紅羽の存在は不思議ととても大きくて追い風になった。紅羽はそれどころじゃなかったけども、巽は先に見抜けたんでしょうね。お兄ちゃんなので。だから千里丸に紅羽を任せることを選んだ。自らの異能力で士郎左たちの動きを止め、ふんじばってシコを踏む。拘束の縄を解く!ここの巽、力強くてカッコイイんだよなぁ。拘束からの解放で一幕が終わるのがまたなんとも憎い演出ですね。


ようやく前半が終わりました・・・こんなはずでは・・・


気を取り直して二幕!

千里丸と紅羽が銅吹所から逃げ延びた先は、紅羽の父親も眠る、墓標のない異能たちの墓。紅羽は、自分の異能は守るためだけに使うものだと道啓に学んだこと、それが自分の信念になったことを語ります。同じ異能である千里丸はどう考えているのか。ここでまた天海様の呪いが千里丸を阻む。千里丸はあんなに明るく振る舞うのに、自分ではなにも考えられない。わからないまま生きてきた。信念がないのは操り人形と同じだ! と紅羽は辛辣な言葉を投げかけますが、同時に救いの言葉をくれます。

「過去は変えられないけど未来は変えられる! お前はただ逃げているだけじゃないか!」

しかしそれは同時に、島原で自分のせいで散っていった仲間たちが、一度は自分を呪い封じ込めた異能・千里眼を、時を経て解放してくれた(と千里丸は思っている)ことへの裏切りなのではないか・・・。トラウマ、悪夢が甦り、千里丸は錯乱してしまいます。島原の記憶の中で一等に色濃いのは桜ねえちゃんの死だったからでしょうか。千里丸の脳内では桜が現れ、手を取り踊り始める。

このシーン、桜がやたら艶かしく踊るほうに気が行きがちだったのですが、私はこう考えます。

・桜は絡繰師の暗喩で千里丸は操り人形。桜が妙に色っぽいのは千里丸の知る桜ではないから。

・最初は十数本もの糸で自由を奪われ意のままに操られ踊る千里丸。動きは滑らかでも彼の意思は含まれない。それが、ゆらゆらと黒子たちに浮かされていく間(苦悩の時間)に糸がほつれ出し、少しずつ身動きが取れるようになる。

・桜の記憶とともに、ふと天草四郎の言葉に対する引っ掛かりが頭を掠める。「生きろ」と。しかし、操り人形は生きてはいない。生きるためには人間にならなければ。天草四郎が人間になる気づきを与える要因として、観てるこちら側としては謎の出演をした、とか。

・そうして糸を断ち切るため暴れ、暴れ抜いて激しいダンスになっていく。考えることのできる人間に、変わる・・・

みたいな感じです。

士郎左に見つけられ、紅羽と触れ合うことで得た気づきを話す千里丸の活き活きした声、胸の高鳴りを隠そうとしない姿は人のかたちをしている。けれど、士郎左にとって目的遂行のためには、千里丸は考えることを知らぬ人形でなくてはならない。残酷ですが、士郎左にも事情があるわけで、この辺がねーーーー!すれ違いはよそでやれ!!!って感じなんですけど、まあ皮肉を言いたくなるのもわかるぜ士郎左・・・貴方はそういう男だもんな・・・なのにお前のことはお見通しだとか言う・・・


異能の紅羽を求める士郎左に、自分を殺してから行け! と捨身の千里丸の声に応えるように現れる蔵人。そんなに死にたいなら俺が殺してやる。

ここがね、痺れるくらいかっこいい、蔵人が。正体を明かすのは別に今しなくてもよかった気もするけど、悪役はまあそういう生き物です。

自分が公儀隠密であること、二人の任務は自分が引き継ぐこと。二人を犬に例え、犬は犬らしく這いつくばっていればいい、と。悪役節全開。

ずっと天下泰平のためだと信じ、身を粉にして尽くしてきた天海に騙されていたことがショックで、咄嗟に動けない士郎左と、食ってかかるように「ふざけるな! 俺たちはちゃんと命を受けて・・・」と返す千里丸の対比は面白いですね。千里丸は、天海によって張り巡らせられていた糸を断ち切れたから動けたかのような。

士郎左は本来の力を発揮できなかったのでしょう。千里丸たちは蔵人に追い詰められていきます。が! そこで現れる、守られるより守りたいヒロイン紅羽様!

士郎左と蔵人は吹き飛ばされていきます。何度も何度も可哀想に・・・

紅羽は異能力を連発したせいで倒れてしまいますが、そこから立ち上がると戦場における女神(マリア様)のイメージなのか、舞台中央でピンライトで照らされ、激しい戦のなかで祈る像の役割をします。そこから暗転して紅羽として意識を失っていたところに千里丸がやってきて、まだ明確には言葉にできない紅羽への想いを、身体の感覚に例えながら吐露していきます。このシーンは、千里丸のもどかしい気持ちが、公演が後になればなるほど声に熱が孕んで表現されるので、すごくドキドキしました。あ、キュンキュン、が正しいか。声と心が揺らいで、切なくて苦しい、初めての「わかりたい」感情。勢い余って、お前のことを思うとおしっこちびりそうになる! いや! ちょっとだけちびったー! と素直に言っちゃうのが千里丸の憎めないところですね。そりゃ紅羽もほんとかよってなりますよ、さすがにおしっこを持ち込まれちゃあな・・・

紅羽が起きていたとは思いもよらず、とんでもなく恥ずかしい千里丸は紅羽に自分のことをどう思ってるのか問います。もう完全に中学生、いや小学生レベルの切り返しです。小学生でももっとオトナなやりとりをしてそうなもんですが、紅羽は紅羽で恋を知らない。そんなもんだから、清水の舞台から飛び降りる気分で想いを打ち明けても千里丸はいいお返事をもらえません。でも意識させることは成功してるから! よかったな!

二人の心が変化し出したのを、銅吹所の隙を突いて逃げてきた巽にいちゃんは知りません。どころか食事を取りに行ってくれます。良い人すぎる。幸せになってほしい。

それから、巽の提案で巽と紅羽の実家に向かうこととなる巽と千里丸。「行こうぜ?」とキメ顔する千里丸は紅羽にいいとこ見せたい、の下心丸見えでいっそ清々しいです。

軽やかにステップを踏みながら、部屋の隅から隅まで探索する巽と千里丸。途中でねずみさんとこんにちはして手をペチン、ってしたり、二人して物音にあらら! とコミカルな動きをするのが可愛らしくて、ここだけ教育番組みたいです。ちょっと前まで桜とあんなにムーディーなダンスをしていたのにダンスカンタービレ容赦ない。

そうして探索した結果、千里丸が千里眼でかすかに色の違う部分を見つけます。それを剥がすと現れる南蛮絞りのイメージ図。心を読める異能の父が泉屋の先代と協力しあっていたことが判明して、巽は興奮を抑えきれません。信じていたものが本当だった喜び。ここも天海様と千里丸・士郎左の対比になってるのかなと邪推して勝手にしんどくなったりして。普段は喧しいのに、無言で先代の手紙を見つける千里丸の背中がどこか物悲しく見えてしまう・・・

ともあれ、その手紙を巽が確認したところ、ジャストタイミングすぎる泉屋が紅羽を人質にしてやってきます。泉屋は短刀を紅羽の首に近づけていますが、一般人なので千里丸の敵ではありません。すぐさま泉屋を取り押さえ、目の前に巽が手紙を広げる。最初は疑っていた泉屋が、筆跡から手紙が本物だとわかり、先代の天の声をなぞるように目を上下に動かしながら手紙を読む姿は、私の中ではベストシーンの上位に入ります。すごく必死な表情から滲み出る泉屋の心境の変化が手に取るようにわかる。素敵な演技ごちそうさまです!

場面は変わり、四天王寺。僧たちのただ事ではない声は、蔵人の襲撃によるもの。未来記を奪いに来たわけですね。どこまで飛ばされて戻ってこられたんだろう・・・という疑問は横に置いといて、大ピンチです。応戦する甚啓、道啓。数珠は刀に絡められるほど強固ではありますが、力の差で負け、道啓の首が飛びかねない事態に。ピンチすぎますが、甚啓は宝である太子未来記をぶん投げるわけにはいかない、と頑なに拒否ります。さすが肝が座っている・・・

と、そこに千里丸、巽、紅羽が駆けつけます。仏敵の千里丸に警戒する道啓たちに、千里丸は我らの敵ではなく仲間です! とすかさず言える巽、頼りになる~!幸せになってほしい(2回目)

蔵人と対峙する千里丸。力の差が歴然なのはすでに体感している。どうやったら倒せるのか?

と!!そこに!危機的状況を覆す、蔵人の刀を弾く苦無の音!ただの石ころかもしれないけどそんなことはどうでもいい!士郎左の登場です!待ってました!!少年漫画一番の激アツシーンですね。作画の気合と集中線がすごいやつ!!!

千里丸と離れている間、士郎左は士郎左なりに考え、苦悩し、彼もまた操り人形から生きる人間になっていた。完全に蔵人の失策です。これだから悪役は・・・

蔵人VS千里丸・士郎左の始まりです。士郎左がフルパワーで戦える!このシーンの殺陣は共闘なのもあって観てる方も力が入ります。しかし蔵人もひと筋縄ではいかない相手。しっかりと士郎左の背中を斬ってから退場していきます。

そして、ラスボスらしく天海が複数人の配下を連れて現れる。

士郎左は、ずっと信じ尽くしてきた天海に、生まれて初めて疑問を投げかけます。人を傷つけてまで得る天下泰平とはなんなのですか、と。けれど、天海は最初から自分の欲望にしか目を向けていませんでした。結局彼にとっては異能であろうとなかろうと自分が国の頂点になれればそれでいいのです。江戸時代初期であんなに長生きなだけ運がいいのだろうのに、欲望に溺れる醜いジジイです。明智光秀ではないと信じたい(諸説あり)

天海の配下たちとの戦いは続きます。スローモーションとなって、道啓たちの会話を背にして。

千里丸は右脚ふくらはぎを斬られ重心を崩しながらも、千里眼を使い、背後にいる敵の攻撃を防いではきり抜ける。島原のときのようにまた背中を斬られてもけして倒れない。ここで注目すべき点は、千里丸は右脚が斬られて以降、ずっと右脚を重く引きずるような、かばう動きになっているところだと思います。こうした、些細かもしれないけれど徹底した殺陣の演技が他にもきっとたくさんあるんだろうな、と思うと、殺陣に詳しくないのが残念でなりません。

やがて、すでに大きく負傷していたせいなのでしょうか。士郎左は天海の配下たちに囲まれてしまいます。「しろぉ!」そんな千里丸の呼びかけに「来るな!」と強く言い放つ。そして、四方八方から刀を突き刺される・・・。士郎左の目の見開き方がリアルで、流れる汗とも相まって絶望感が押し寄せてきます。ああ、死んでしまうのだ、と。せっかく「人間」になれたのに。

千里丸は瀕死状態の士郎左に駆け寄り、抱き起こします。

「ようやくわかった・・・間違っていたのはお前じゃなくて、俺の方だった」

千里丸の持つ異能が羨ましかったこと、自分にも異能があればと思い続けたこと。そして、千里丸に絶対に触らせようとしなかった士郎左の誇り・・・魂そのものの名刀陽炎を千里丸に手渡す。俺の魂をつれて生きてくれ。

千里丸は最初は動揺を見せたものの、しっかりと名刀陽炎を士郎左から受け取ります。その瞬間、士郎左の肉体からは魂が抜けてゆき、千里丸の腕からも抜け出ていきます。ここの千里丸の表情がもう・・・。

二人は行き違いがあったけれど、きっと根っこの部分では繋がっていました。

士郎左は初めて柔らかく微笑みながら、千里丸に冗談を言うような口ぶりで話しかけます。

「最後に言い忘れていたことがある。(修行を抜け出したとき取って分けてくれた)あの柿は渋柿だった」

「うそだ、お前はうめえうめえって」

「気を使ってやったんだ」そして、千里丸がなによりも求めていた言葉をここになって告げるのです。千里丸は「かけがえのない真の友」だと。置いて行かれる千里丸は切なげに呟きます。「早く言えよ・・・」と。人の目がなかったらばしゃばしゃに泣いてしまうくらい、優しくて温かくて、悲しい。二人があの頃のように、仲睦まじく笑い合ったり冗談を言えるときはもう一生来ない。千里丸はまた置いて行かれた。けれどけれど、今度は紅羽が千里丸の手を取る。未来記が収められた木箱を抱えながら、刀と刀の戦場で、まるで風に舞うように二人で戦う。紅羽の手が離れていっても、千里丸の心には結びついている。千里丸は士郎左の魂を手にし、天海に立ち向かう。士郎、力を貸してくれ。

老体のどこにそんな胆力があるのか、天海に圧されていく千里丸。けれど、皆の声が、自分を呼ぶ声が聞こえてくる。千里丸、千里丸、千里丸

「千里丸!」

紅羽の美しくとおる声が、千里丸の背中を押す・・・!さあ、覚醒のときです。

「させるかーーーーー!!!」

反撃は瞬く間の出来事でした。天海はとどめを刺され、道啓は天海の目の前で太子未来記に雷を落とす。それでも天海は這いつくばりながら、執念で震える手を伸ばす。千里丸たちは身動きせずただその光景を眺めている。未練にすがりつく声を上げながら、天海は赤い背景に溶けて、死ぬ。この余韻は忘れられません。

暗転。改心した泉屋は誓います。これからは皆と協力して南蛮絞りの技術を磨いていきたいと。そして巽も嬉しそうに手を取るのです。見えてないけど、きっとそんなやりとりだと思います。

また、暗転。千里丸は旅立ちを決意し、士郎左の魂・名刀陽炎を手に、まずは島原に士郎左の魂を連れて行くと道啓たちに話します。途中から増えた、斜めに背負った緑の風呂敷には竹皮に包まれたおむすびが入っていたりしたら可愛いですね。

ひとつ頼み事がある、と道啓。すると可愛らしい町娘然とした着物の紅羽がやってきました。紅羽を連れてってくれ。それが道啓の頼み事でした。

「いつまた公儀隠密が異能を狙ってくるかわからないからって、道啓様が」

紅羽はハツラツと話しますが、「お前がそう言ってほしそうにしてたからな」と道啓は茶目っ気たっぷり。千里丸はピーンと来ました。ってことはつまり、紅羽は自分と一緒に行きたいってことか! そうなんだな! 実にハッピーな脳みそです。でもそれは勘違いではないらしく・・・?

ところで、未来記とは結局なんだったのか。 千里丸の疑問に、そんなことはどうでもいい、とさらっと返す道啓。これには千里丸でなくても、ここまでずっと未来記で2時間引っ張ってきたのに?!とメタ発言もしたくなります。

しかし道啓は、だが、新たな未来記も生まれた、と断言します。それは千里丸と、紅羽の胸にあると。どうもしっくりこない千里丸が紅羽の胸を触ろうとするところも、今までの千里丸を見ていればいやらしさはかけらもない。可愛い子どものおままごとみたいです。紅羽の「バカッ!」は最高に可愛かった!

「行って参ります!」

千里丸は曇り一つない晴れやかな声と表情で紅羽と旅立ちます。

最後の最後、橋の上で手が重なり合い微笑む千里丸と紅羽には天下泰平の世が待っているのでしょう。ハッピーエンドは最高に身体にいい・・・。


余談。

私は、士郎左の魂を島原に連れて(置いて)くる、と千里丸が決めたことがつらかったんです。ずっと連れていけよ魂をよーーー!ってしばらく思っていました。でも、そうじゃないんですよね。

士郎左はもう生きていない。心のなかでは生き続けるとしても、どうしたって過去なんです。未来はないんです。未来に進む千里丸の道筋にいない存在。

しかし、千里丸は未来記を手に入れました。まだ表紙の絵もないであろう可能性の書物を、です。いづれその未来記にはたくさんの色鮮やかな感動や葛藤、新たな人々との出会いが刻まれていくはずです。

だからこそどうか、最初の一ページにこう記されていてほしいのです。

かけがえのない真の友、早瀬士郎左。そして里の仲間たちに捧ぐ、と。

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