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好きな人と過ごすよりマシな時間

「初めまして、春雨つくしです。よろしくお願いします。」

人の顔が見れないから名前を覚えたところで、一致しない。誰だか覚えられない。

人がミスをするたびに、私のミスが霞むから安心した。

そんな私ももう大人。
自分の技量関係なしに、おかしいことはおかしいと言えるし、荒波を立ててまで発言すべきことかを判断できるまでになった。

私は絶対に死ぬと思っていた。だから全部捨てたし、ギターだって壊したかった。壊せなかった。
だから私はギターのことを「呪い」と呼んだ。
こいつに費やした時間のせいで、私は何者にもなれなかった。歌やギターが上手くて一体何になるんだ。
好きなことしかできなかった。死にたかった。

あれ、

何も持っていない元気になってしまった私、
盛大に自信を失っていた。後遺症だ。

音楽だけは自信がある私が路上ライブをしていても、もっと自信持って!とよく言われた。よくわからなかった。

路上ライブで稼げることを知った。1日1万円以上稼いだ。
私ができなかった、仕事ができる。音楽で。

音楽に縋った。美容に縋った。彼氏に縋った。手放せなくなった。

嫌なことを忘れられるようになった。その代わり、
良いことも忘れやすくなった。

指紋のついたギター、来週の口約束、1000円札に紛れる1ドル札、お下がりのオールインワン、買いたての氷、再生停止ボタン、
忘れたくない。振り返る時間をつくっている。

好きな人と過ごす時間よりマシな時間

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