渋谷系の楽曲を起源ジャンルで分類する

動機

 作曲はコード進行を指針として進められるのに、編曲はまったくわからなくて作業の手が止まることがよくありました。アマチュアの人でも編曲がすごいけどリファレンス曲がもろにばれてしまいオリジナリティを出すことの難しさを感じています。編曲の上達は耳コピすることであるというのは疑いようがないのですが、何曲か耳コピしてからオリジナルで作ろうとすると何もでてこないことがよくありました。そもそも耳コピしてもなにをやっているか聴き取れなかったり、その音の出し方がわからなかったり、わかるけど打込みで表現できなかったりなどが問題としてありました。

 音楽ジャンルごとに編曲パターンを貯めることで、目的の曲やアイディアに沿った編曲が引き出せるのではないかと考え、作りたい音楽ジャンルである渋谷系をその起源ジャンルで分類することにしました。

 メリットとしては①編曲の指針となる、②説得力のある編曲、③楽曲分析の高精度化、④ジャンル複合アプローチによる新規性の獲得、が挙げられると思います。意識的か無意識的かいずれにせよみんなやってるのだろうなという気もします。この先どんな曲がリリースされようとも、どんなジャンルがもてはやされようとも、「なるほど、アレとアレの複合で、AメロはアレでBメロはアレで作ったんやろな~」と思える器量を習得したいです。

編曲と音楽ジャンル

 音楽ジャンルと編曲は密接に関係していると思いました。というよりは、曲のアレンジが音楽ジャンルそのものというのがおそらく真実な気がしています。メロディラインにはジャンルという概念はなく、編曲によってそのジャンルになるのだと思います。メロディにもジャンルはあるよって言う奴はたぶん刷り込みです(有識者求む)。コード進行の決定は作曲サイドではなく編曲サイドの作業ととらえる方が正解で、作曲でコードが付せられていても編曲時にリハモする可能性があるからです。

作品のオリジナリティについて

 個人的に面白いと思った記事[1]を見てください。

 評論家と芸術家の違いは「何に注目するか」だと思います。
 評論家は、評価対象の「共通点」に注目します。一方、芸術家は創作物の「差異」に注目します。映画評論家の作る映画が面白くないのは、共通点だけを真似して肉付けを変えても、傑作の劣化コピーにしかならないからです。だからこそ、芸術家は肉付けの方法に──差異と差別化に腐心します。
 どちらの視点が優れているという話ではありません。
 評論家の視点のままでは、細かい差異を見落としてしまいます。芸術家の視点のままでは、大切な骨組みに気づきません。モノ作りの現場で活躍している人は、大抵、評論家と芸術家の双方の視点を持っています。

 共通点と差異という見方は一理あると思っていて、オリジナリティのある曲にするにはまず共通点を知ること、そのうえで差異を意図的につくることが必要です。リファレンス曲がばれるのはオリジナリティの最初の段階である共通点を踏襲した結果と言えます。しかしながら、渋谷系の楽曲をそのままリファレンス曲とするには個性(差異)が強すぎると思っていて、ジャンルの粒度を細かくみてリファレンス曲を選定した方がオリジナリティに近づくと考えています。

音楽ジャンルの起源と継承について

 歴史的に、音楽ジャンルはそれまでにあった別の音楽ジャンルの影響を受けて発生していると考えられています。影響を受けたジャンルは発生したジャンルの起源ジャンルであり、発生したジャンル(派生ジャンル)はそれらを継承した音楽であるといいます。派生ジャンルは起源ジャンルの音楽的特徴を編曲に含んでいるので、作りたいジャンルはその起源ジャンルをリファレンスとした方がオリジナリティに近づけます。これは渋谷系に限らず音楽一般に言える性質なので、今後の音楽活動に対する正しい認識であるとワイは信じています。

渋谷系、アキシブ系の解釈

 これに限りませんが、音楽ジャンルの解釈はまちまちなようです。一応渋谷系について調べてみると一橋大の博論に以下の記載がありました[2]

厳密にジャンルの特徴が定義されているわけではないのだが、述べられていることの共通点として、①渋谷のレコード・CD 店でよく売れていたことから「渋谷系」という名前が付けられたこと、②ポップスやロック、ジャズ、クラブミュージックなど様々な音楽ジャンルを内包しているジャンル横
断的な音楽ジャンルであること、が挙げられる。

 ざっくり渋谷系はたくさんの音楽ジャンルを継承したジャンルと思っていいと思います。

 一方アキシブ系は、Wikipedia[3]でも同じような解釈ですが、ニコニコ大百科[4]の方が適切そうなのでこちらを引用します。

アキシブ系とは、渋谷系の音楽のスタイル(フレンチポップ、スウェディッシュ・ポップ、ラウンジ・ミュージック、エレクトロなど)を踏襲・導入したアニメソング・ゲームミュージック・アイドル歌謡の1ジャンルである。

 ざっくりアキシブ系は渋谷系を継承したジャンルと言っていいと思います。ジャンルの継承関係でみれば「起源ジャンル→渋谷系→アキシブ系」となり、起源ジャンルで分類する趣旨とは関係なさそうなので、ここでは渋谷系とアキシブ系は特に区別をしません。

ボサノバを継承した渋谷系

 ボサノバという語はドラムのリズムパターンのことを指すことが多いかと思いますが、音楽ジャンルを指して使っても誤用ではないと思っています。ボサノバも、実はラテンとブラジルで微妙に違うらしいです[5]。自分の中では両者含めてボサノバ継承のものが最も典型的な渋谷系だと認識しています。

 「虹の朝に」はラテンのボサノバを継承した渋谷系の曲だと解釈しました。

ラテンのボサノバの例

 ボサノバ継承の曲としては「あなたしか見えない」「恋とビキニと雨予報」などがあります。シンリズムさんもこれらと同様かと思います。

 Nagase Junというキャラが歌っているバージョンの「アイノヨカン」という曲がブラジルのボサノバを継承した渋谷系にあたると解釈しました。

ブラジルのボサノバの例

 ブラジルのボサノバにはフルートがよく合いそうです。渋谷系とは少しずれますが同じジャンルの曲としては「Blessing」「Motto!」などが挙げられます。ラテンボサノバは細い(文化的)、ブラジリアンボサノバは太い(民族的)イメージがあります。前者は北川勝利氏が、後者は田中秀和氏がよく使っている傾向にある気がします。

シャンソンを継承した渋谷系

 ボサノバに次いでよく聴く渋谷系だと思います。「恋するみたいなキャラメリゼ」はこれに該当すると解釈しました。

シャンソンの例

 とてもフランスっぽい印象を感じました。Aメロでベースが1小節ずつ下降していく部分やピアノ、アコギ、スネアなど軽い編成になっています。ドラムのハイハットまたはリムショットで刻みつつアクセントにスネアを使用します。あとピアノやアコギでリズム体兼和音を担わせます。スネアの音色が木製のシェルか鉄製のシェルかで若干違うらしいので[6]、耳コピ時にしっくりこないときは変えてみるといいかもでした。

 シャンソン継承の曲としては「リカバリーデコレーション」「キラーチューン」「Shine!(俺妹ED)」「この世界はすばらしい(アイカツ)」「Hachimtsu doki 」などが挙げられます。

ゴスペルを継承した渋谷系

「Sweet Sweet Girls' Talk」はゴスペルを継承した渋谷系であると解釈しました。

ゴスペルの例

 力強いピアノの中低音サウンド。この曲については他にブルースみやフランスみもほんのりと感じます。

 ゴスペル継承の曲としては「ドラマチックガール」が該当すると思います。

シャンソンとゴスペルを継承した渋谷系

 基本的にボサノバかシャンソンを継承していれば典型的な渋谷系になりそうです。

「ドラマチックマーケットライド」

「グッドラックライラック」

 グットラックライラックはこれに加えてテクノポップでアレンジしていると思います。

スウィングジャズとサンバを継承した渋谷系

「わがままキャラメリゼ」

スウィングジャズの例

サンバの例

 サンバのグルーブでスウィングジャズしてる感じ。ホーンセクションの裏打ちやハイハットによる進行感が継承されている印象があります。

シャンソン、ラテンのボサノバを継承した渋谷系

「Puzzle」

「町かどタンジェント」

シャンソン、ブラジルのボサノバ、ディスコを継承した渋谷系

「えがおのマイホーム」

ディスコの例

 シンセドラムのキックでディスコのビートを作りその上にフランスとブラジルのハイブリットなサウンドを乗せたような印象。ディスコでも何種類かパターンがありそうで、こちらも別途まとめてみたいです。

サンバ、カリプソ、ゴスペルを継承した渋谷系

「8月のマリーナ」

カリプソの例

 メロとコードだけでいくとゴスペルっぽい曲の展開で、上昇クリシェとかaugはサンバ由来の響きだと思います。

カントリーミュージックを継承した渋谷系

 これを渋谷系と呼ぶかどうか自分は疑問ですが、渋谷系ととらえてる人が少なくなさそうなので一応取り上げました。強いて言えばアキシブ系。

「オトモダチフィルム」

カントリーミュージックの例

 同じジャンルの曲としては「人類みなセンパイ!」「恋(星野源)」が挙げられると思います。

パンクロックを継承した渋谷系

「à la mode」

パンクロックの例

 渋谷系の曲をバンドアレンジした印象です。

結論-渋谷系の楽曲を作編曲するために何をするか?

 渋谷系の起源ジャンルとしてボサノバ、シャンソン、ゴスペル、サンバ、スウィングジャズ、ディスコ、カリプソ、カントリー、パンクロックなどを挙げました。それぞれのジャンルでなるべく奇をてらわずに典型的な曲をいくつか作ってみるのが編曲の練習として良いかと思いました。各ジャンルのアレンジが身についてきた段階で複合して使ってみるなどをすればすんなりいけるのかなあという気がします。

 生楽器系のアレンジがほとんどでしたが、近年はk-popやダブステップ(ワブルベース)、Future Baseといったシンセサウンドのジャンルが目立ってきた感じで、こちらもキャッチアップしていきたいところです。学びが深かったのでリンクを張っておきます。

参考

[1] 共通点と差異
https://rootport.hateblo.jp/entry/2015/04/03/020139

[2] 論文
https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/29121/com020201700703.pdf

[3] Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%96%E7%B3%BB

[4] ニコニコ大百科 

[5] ラテンのボサノバとブラジルのボサノバhttps://ameblo.jp/spiceongakuhonpo/entry-12001230812.html

[6] スネアのシェルの違い
https://www.youtube.com/watch?v=qjo3Jy74FNQ



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