青に包まれて
*このお話は単品でも楽しめますが、「一歩 後編」の友達のその後になっております。友達についてより詳しく知りたい方はそちらもお読みください。また、「友人」でも登場しております
コバルトブルーの海
どこまでも広がる雲ひとつない青空
見渡す限りの蒼い花
優しい風に乗って花びらが、淡い青の服が、少し伸びた友達の髪の毛がゆらゆらと舞う
この景色を黙って見つめる瞳もゆらゆらと揺れていた
始まりは突然訪れた
仕事休みの日に彼と家でゆっくりしていると、僕の携帯に久しぶりに友達から連絡がやってきた。友達から連絡がやってくる事は珍しく、少し驚きながら確認すると
[振られた]
[遊びたいから今度一緒にどこか行こうぜ]
との事だった
いきなり何の話かよくわからなかった僕は友達に電話をかけた。どうやら、僕達が仲直りしたあの日から友達も何か変わろうと、前から気になっていた人に告白したらしい
その結果が連絡としてやってきたのだ。だが、振られたという割には全く泣いたり落ち込んだりしておらず、いつも通りで不思議な感覚になった
「ふ〜ん、俺も行きたいけどまあこいつなら大丈夫だろ。行ってきなよ」
「君も来ていいのに」
「今回はパス。昔からの友達なんだろ?割り込めないって」
「そっか。じゃあお土産話持ってくるからね!」
「はは、そりゃ楽しみに待ってるわ」
そんな事があったのが2週間ほど前
そうしてやってきたのは、海の見える大きな公園。この時期、ここにはネモフィラの花が咲き誇り、絶景場所として有名だ
春を彩る花の一つとして有名なネモフィラ
この公園全体に広がるネモフィラの蒼と、澄み渡る空の青、果てしなく続いているコバルトブルーの海
荘厳な青のグラデーションがとても美しい。そんな幻想的な世界の中に僕達はやってきた
「綺麗なもんだな。わざわざ遠くまでありがとな」
友達がまっすぐ見つめる瞳の中にも綺麗な青い花が映り込んでいた
「大丈夫だよ。でも本当に綺麗だね。彼もやっぱり連れて来ればよかった」
「てっきり俺は来るもんだと思ってたから最初はちょっと驚いたぜ。まあ信用されてるって事だもんな」
「ねえ!せっかくだから二人で写真撮ろうよ!」
「俺はいい。目に焼き付けとくさ」
「え〜。まあいいけどさ」
いつも通りの友達の笑顔、話し方。振られたとは思えないくらいの反応にずっと不思議な感情が拭えない
ただ、そんな所をわざわざ深掘りするのはよくないと思い聞けずにいた
二人でゆっくり歩きながら広い公園を散策する。遠くに聞こえる波の音が優しく吹く風の音と合わさって美しいアンサンブルを作り出している
少し歩いた先にある小高い丘の上には小さな白いカフェがあった。青の世界に馴染むようなその白い建物は見事に風景に溶け込んでいた
二人で中に入ってメニューを見る。いろいろなデザートがどれも美味しそうだ。苺のケーキセットやフルーツを盛り合わせたパンケーキ、パフェなどどれも悩ましい
「悩むな〜」
「俺はケーキセットにするわ」
「え!決めるの早い!あ、ねえそれ僕も少し貰っていい?」
「いいよって前までなら言うんだけどな。そういうのは彼との時だけにしときな」
「む〜….まあ仕方ないか。じゃあパンケーキにしよ」
注文してテーブルの側にある窓から広がる絶景にまた目を奪われる。また、心地よい陽射しが差し込んできて眠気も刺激してくる
そっと友達を見ると、友達も窓の外を眺めており横顔がなんだかまるで知らない人のように見えた。ふと、光の反射で耳に青いピアスが付いている事に気付いた。優しい風が彼の少し長くなった髪と共にピアスもゆらゆらと揺れている
「ピアス付けたんだ」
「ん?ああ….。うん、似合うかと思ってな。イメチェン」
「痛くなかった?」
「少しだけな。まあ慣れたら大した事なかった」
そんな会話をして少しするとケーキセットとパンケーキがやってきた。お互いに舌鼓を打ちながら食べる
ふと一人で少し考え込む
ピアスも付けて、髪も少し伸ばして、服装もちょっとイメージを変えて。なんだかまるで、新しい友達の姿を見た気がしている
振られたからなのか、それとも…..昔から変わりたかったのか
追加で頼んだホットコーヒーの湯気で瞳をみることを遮られた
それからカフェを出てお土産を買ったり、ネモフィラの写真を撮ったりとゆっくりと過ごしていた。大きく笑ったり、はしゃいだりはしなかったがそれでもこの落ち着く空気が絶え間なく僕と友達の間に流れていた
夕暮れ時になり、海を見下ろせる場所にやってきた。そこにあるベンチに二人で座る。前方に広がる青い海は昼間とは違い、夕焼けの赤が程よく混ざり合い違う雰囲気を見せていた
「…..友達としてしか見れないんだってさ」
ポツリと友達がそう呟く
「俺の一世一代の告白もまあ見事に粉砕ってわけ」
「そっか。優しい人?」
「おう。仕事の同僚なんだけど、よく話してたしご飯も一緒に食べたし……何がいけなかったんだろうな」
そして空がアッシュピンク色に染まる。たまにしか見れないヴィーナスベルトだ
「特別だったんだけどなぁ」
優しいピンク色の空の下、好きになった時の事、ペンを借りた思い出、友達の中でのその人の存在は大きかった
無表情だが話せば話すほど、友達の気持ちがネモフィラの甘い香りと共に伝わってくる。瞳の奥が少し涙で滲んで見えるのはきっと気の所為ではないんだろう
僅かな沈黙。駆け抜ける風の音、波打つ海の音が静かに音楽を奏でている
「実はさ、こんな話をする以外にもここに来た理由があってな。お前はネモフィラの花言葉って知ってるか?」
「え?う〜んと、確か可憐とかだっけ?」
「流石。正解だ、まあ他にもあるんだけどな」
「全部は知らないな〜」
「じゃあ他のは秘密だ」
「なんで〜、教えてよ」
「はは、自分で調べてみるんだな」
そう言って二カリと笑った友達の顔をピンクと青が包み込む。今日初めて見た笑顔に少し胸を撫で下ろすのを感じた
「…..」
「ん?どした?」
黙り込んだ僕に疑問を持ったのか首を傾げて聞いてきた
「僕からも豆知識。意味知ってる?
March winds and April showers bring forth May flowers」
「え….。な、なんだって?」
突然の英文に少し困惑している
「3月の風と4月の雨が、5月の花を運んでくる」
「へ〜、俺は知らなかった」
「ふふ、これもね、直訳じゃない意味もあるんだよ」
「マジか。….もしかして、それは」
「自分で調べてみてね〜。ねえ、やっぱり写真撮ろうよ。一枚だけでもさ」
「….そうするか。よし!」
二人でくっついて仲良く写真を撮る。ピンク色の空は終わりを迎えそうで、遠くからは綺麗な星空がこちらにやってきていた
悲しみも不幸も、きっといつか
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