81歳のファーストピアス

「あたしもピアスをしてみたいけど、この年になって耳に穴を開けるなんてちーっと恥ずかしいしなぁ〜。他人に笑われるよなあ〜」

クニちゃんは私がピアスをつけているといつも羨ましそうにそう言うのだ。

田舎暮らしのクニちゃんはオシャレが好きだけど、ちょっぴりシャイなおばあちゃん。

もうすぐクニちゃんのお誕生日がやってくるというある日のこと。
私と子ども達でクニちゃんのお誕生日プレゼントを何にしようか相談していた。

毎年毎年　とても悩む。

どうせならクニちゃんの欲しいものが良いのでは？ということになり、息子が「ピアスにしよう」と提案した。

すぐに私達はスマホで「ピアス　年齢　老人」と検索してみる。

「70歳でピアスの穴を開けました」
「ピアスの穴は何歳で開けても問題ない」
検索結果を確認し即決定。



いよいよ81歳の誕生日当日だ。

「友達に気が狂ったか？って言われるなー」と笑うクニちゃんに
「そんなことないよ！カッコいいと思う！年なんて関係ないよ！」
と私達は大盛り上がり。

先ずクニちゃんの耳たぶに息子がマジックで印をつける。

クニちゃんは少し緊張した様子で手鏡をのぞいてコクンとうなずいた。

何だか私達もドキドキしてきた。

息子はドンキホーテで買ってきたピアッサーを取り出し手慣れた手つきで

パチっ！

一瞬のことだ。


クニちゃん、ついにピアスデビュー。

「わーい！」皆で拍手した。

クニちゃんの大好きな紫色の小さな石のファーストピアス。

クニちゃんの大きな耳たぶに　ちょこんと可愛らしく光ってる。

「痛くも何ともねー。」
「こんなに簡単に開けられるならもっと早く開けちゃえばよかった～～」

と嬉しそうにニコニコ顔で何度何度も鏡をのぞいているクニちゃんの姿はまるで少女のよう。

私たちが10代で経験したのと同じドキドキとワクワクを81歳でも味わうことができるなんて
ステキなことだ。

今日はクニちゃんのピアス記念日。

人は幾つになっても少しの勇気と行動で
変わり映えしない日常が特別なものになる。

81歳がクニちゃんにとって幸せいっぱいの年になりますようにと祈ろう。

ファーストピアスの穴はトラブルもなくすっかり落ち着き、今ではクニちゃんも私達と同じように、その日の洋服や気分に合わせてピアスを選び毎日オシャレを楽しんでいる。

ショートカットのクニちゃんの顔が明るく華やかになった。


苦労も多かったというクニちゃんの人生。
ようやく訪れた穏やかな日常がまだまだ長く続くといいなと心から願う。