Tully’sとの出会い。

大学院生とは孤独なものだ。
朝はコンビニしか開いていない時間に登校し、
夜はコンビニしか開いていない時間に帰宅する。
朝、電車に乗ってつり革をつかめば、
「今日はあの試薬を使ってあの実験をするから、
研究室に着いたらあの器具を組み立てて…」
と、その日1日のスケジュールを勝手に頭の中で組み立て始める。
そんな生活に土日も祝日もない。
給料をもらうどころか学費を払っていて、
この生活で何が報われているのかさっぱり分からなかった。

人間味のない生活に私が壊れるのに、半年もかからなかった。

そんな生活の中、私は予備校に通うことにした。
当時から公務員になりたかったのだ。
本当は院生でダブルスクールなんてしてる暇はなかったし、
実際、教授にバレたときめちゃくちゃ怒られて、
「別に公務員って修士号いらないよね。大学院辞めたら?」
とまで言われた。アカハラ以外の何なんだろう。
こんな状態になってまで研究職じゃないとダメと言ってくる
神経が信じられなかった。

予備校は水道橋にあった。
予備校に通うなんて初めての経験で楽しくもあったが、
もちろんとても大変でもあった。
上記の通り、精神的なバランスを完全に崩していて
まともに勉強なんてできる状態ではなかった
(主治医からは「就職は諦めろ」と言われていた)。
おそらくは、普通の健康状態の方でも大変であることが
できるわけがなかった。
だから、水道橋に毎日のように通ってはいたけれど、
私の気持ちは沈みっぱなしで、
何か間違えば、総武線に飛び込んでしまいそうな状態だった。

絶望的な気持ちの中。
水道橋を歩いていて見つけた、スタバみたいなコーヒー店。
ジャズの流れる店内で、店員さんが楽しそうに働いている。
「こんにちはー」の掛け声に、どこかホッとしていた。

気が付くと、予備校に行く前に必ずそのコーヒー屋に
立ち寄るようになっていた。
そして、ふと、こんなことを思うようになった。
「大学院の生活が終わったら、こういうお店でバイトしたいな。
こういう、血の通ったお店で。」

それがTully’sとの出会いだった。

1年後、私がTully'sでバイトを始めてから出会った正社員の方がいた。
中途採用だったらしい。
お互い、「どうしてTully'sなのか?」という話になった。
その正社員の方は
「前職の空き時間によくTully’sに来ててね。
こういうお店で働きたいなー、って思ったの。」
とおっしゃっていた。
ああ、なんだ同じじゃん。みんなTully’sファンなんじゃん、と思った。

水道橋のTully’sはだいぶ前になくなってしまった。
(確か駐車場になってたと思う)
あのやさぐれた院生生活や水道橋への予備校通いがなければ、
Tully’sでアルバイトすることもなかったのかと思うと、
何だかとても不思議な感じがする。
もう二度と戻りたくはないが、とても大切な思い出。

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