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アーノルド・シュワルツェネッガーのサインが家にやってきた話

大学を卒業してからというもの英語を読んだり、聞いたり、話したりする機会がめっぽう減ってしまった。

かつては電車に乗るたびに血眼になって英単語帳をみていたのに、今ではスマホしか見ていない。

英語のことなんて、過去形や現在完了形で何かしらの単語が例外的に変化するぐらいしか覚えていない。

まあ、システムエンジニアという職業柄、ソースコードなどで英語を見かけることはあるが、コミュニケーションというよりかは仕事で使うものなので「英語」とは別物に思える。ただの文字の羅列にしか思えない。

僕がどう見えているかはわからないが、こう見えても、僕は英語が得意科目だった。

中学から英語にどっぷりハマり、一時期は大学も英文科のようなところに入ることも考えたほどだ。(だが、実際は経済学部に進学した。)

留学なんてしたことがないくせに、ただ異国の言葉が読み取れるということだけで変に鼻にかけていただけかもしれない。

でも、英語に触れている時間はとても楽しく、長文をスラスラと読めた時はとても嬉しかった。
そして、それ以上に、英語を使って海外の人とコミュニケーションをとれた時はなんとも言えない高揚感があった。


突然だが、僕の家にはアーノルド・シュワルツェネッガー(親しみを込めて、以下シュワちゃんと呼ぶ)のサインが眠っている。

正確にいうと2007年当時、つまり、シュワちゃんがカリフォルニア州知事として在任中だった時のものだ。

「サインください」という手紙を送りつけて、半強制的にもらったものだ。ありがとう、シュワちゃん。

きっかけは、中学2年生の頃の英語の授業だった。

たしか「海外の有名人に手紙を書いてみよう」とかいう授業だった気がする。英語での手紙の書き方やマナーを学びつつ、有名人に書く想定にすることによって生徒のやる気もアップするという、なんとも一石二鳥な授業だ。

もちろん有名人に書く「想定」なので、先生も生徒も本当に手紙を送るとは思っていない。

ただ1人を除いては。


そう、僕だ。

「今日は海外の有名人の方に手紙を書きましょう」という先生の一言と同時に、誰に書こうかフル回転で考えていたため、その「想定」の話なんて耳に入らなかった。

クラスのみんなはいろんな有名人に手紙を書いていた。

ダニエル・ラドクリフ、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、ミラ・ジョヴォヴィッチ、エマ・ワトソン…

どれも超がつくほどの有名人だ。

ほとんどの人が、
「こんにちは、私は日本の中学生の◯◯です。
よろしくお願いします。
〜〜〜という映画をみて好きになりました。
これからも頑張ってください」
という教科書の例文通りの文章を書いていた。

それでいいのだ、だって本人には送らないから。

大事な事は授業中に手紙を書き終えて、エアメールの記載方法を学ぶことだ。
すでに例文があるなら適当に言葉を変えて完成させてしまえば授業の目的は達成したことになる。


しかし、僕は違った。

「あまりにも有名どころを行き過ぎると、もしかしたら読んでくれないかもしれない。
「でも、僕が好きじゃない人には送りたくない。」
「出演スケジュール的に今空いてそうな人を探した方がいいのか?」
「そもそも有名人って映画俳優以外でもいいのか?」

いろんなことを考えつつ、選んだのが「アーノルド・シュワルツェネッガー」だった。

当時、「ターミネーター」にどハマりしていた僕は彼の大ファンだった。特にターミネーター2が大好きで、主人公のジョン・コナー(エドワード・ファーロング)とシュワちゃんの絆が深まっていくプロセスには涙なしでは見られない。

しかし、友達にシュワちゃんの映画の話をしても「よくわからないや」とシュワちゃんに対して失礼極まりない言葉であしらわれていた。
そのため、競争率は低いと見た。

実際、シュワちゃんに書いている人は僕だけだった。

あとは本文。

自己紹介から始まり、なぜシュワちゃんが好きになったのか、映画のどのシーンに感動したのか、これからも俳優・州知事としてのシュワちゃんを応援し続けること、できればサインをもらいたいこと…

様々な思いを手紙に集約し、渾身の一作を完成させた。
たしか、B5用紙2枚分だったと思う。
もちろん授業中には終わらなかったので家に帰ってからも書き続けた。

先生に提出するときに「住所って何を書けばいいですか」と聞いたところ、

「もしかして本当に送るつもり?」

と先生が、それはそれは目を丸くして聞いてきた。

「え、違うんですか?」

「…わかりました、送りましょう。ただみんなには内緒にしておいてね。いろんな人が送りたいって言い出したら私も大変になっちゃうから。」

せっかくの生徒の頼みだ。先生も無碍にしたくなかったのだろう。
僕の熱意の大勝利だ。


しかし、事はうまくいかなかった。

先生はカリフォルニア州議会議事堂あてに送ったらしいのだが、後日そのまま返送されたらしい(ここら辺の事情は忘れてしまった。確か住所が間違っているかなんかだったと思う。)

そこで在サンフランシスコ日本国総領事館あてに送ることにした。

よほど生徒の手紙をシュワちゃんに届けたかったのか、この時はもはや先生の方が熱心になっていた。良い先生に出会ったものだ。


そしてしばらくして。
先生も僕も手紙を送ったことを忘れていた時。

学校から帰ると、僕の家に大きな封筒が届いていた。
差出人は英語で書かれてるし、正直言ってその時は誰からきたのかわからなかった。それくらい、手紙の存在を忘れていた。

恐る恐る開けてみると、中にはシュワちゃんのサイン入りの写真(書斎の前で州知事っぽく座っているもの)と手紙が入っていた。

たしか
「お手紙ありがとう。
あなたのように私を応援している人がたくさんいるからこそ、私は毎日頑張ることができます。
これからも応援よろしくお願い致します。
あなたにも栄光があらんことを」
的な内容だったと思う。

写真の右隅には黒のサインペンで書かれた正真正銘のシュワちゃんのサインがあった。

すごい!!!!
シュワちゃんからの手紙!!!!!
言うこと為すこと全てがかっこいい!!!!

翌日、僕は喜びのあまり、サインと手紙を持って先生のところに行き、2人とも手を合わせて喜んだ。なにかしらのダブルスでオリンピックを制したぐらいには2人で喜んだ。

この時から英語がとても好きになった。

精一杯書いた文章が、好きな人に読んでもらえて、その人から返事が返ってくる。日本語だったら当たり前かもしれないことが、こんなにも嬉しいことなのかと改めて実感した瞬間だった。
赤ちゃんが、自分の言葉が通じて嬉しがるようなものに似ているかもしれない。

文通でもいいから、会話でもいいから、世界中の人ともっとコミュニケーションができるようになっておきたい。

それからというもの、英語を必死に勉強するようになった。
駅で行き先がわからないような雰囲気を出している海外の人を見かけると積極的に話しかけるようになった。
大学でも英語しか話さない授業をいくつか取った。

ありがとう、シュワちゃん。
これからも応援しているよ、シュワちゃん。

ということで、また英語を勉強してみようかなと思う。
まずは英単語帳を買うことからかしら。

将来的にカリフォルニア州に行って、州議会議事堂を拝ませてもらうつもりだ。

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