『セラピスト』という“セラピスト”

出会ってしまった。

ノンフィクションライター・最相葉月さんの『セラピスト』が図書館の棚に並んでいたのを見つけたとき、そう思った。

誰でも本と出会った時、それが平積みであれ棚差しであれ、その本が光を放っているかのように見えているはずだ。久しぶりにそんな本に出会えた。

出会ったのは図書館、しかも単行本だったので持ちづらいと思い借りずにその場でスマホを取り出し、アマゾンでKindle文庫版を購入した。Kindleは気になったセンテンスを抜き出しておくことができるので、紙の本に直に書き込むのが嫌いな私にぴったりなのだ。だいたい、本を読むのはたいてい電車の中で、電車が混んでくると文庫本すら広げるのが困難で、皆スマホを持つようになった分、本の分のスペースが確保しにくい気がしている。Kindleならスマホで読めるからちょうどいい。そして、文庫版のあとがきと加筆があることを購入後に知って得した気持ちになった。

本書は最相さんが「カウンセラー」という存在、心理学に学派が存在することに疑念を抱きながら始まる。ところが登場人物がどなたも強烈だ。すでに故人である河合隼雄の講義、その後を引き継いだ河合俊雄、そして中井久夫と錚々たるメンバーに取材していく。「このことを調べるのなら、あなたも自分のことを知らないと」と言われ、自身も箱庭療法や風景画を描くクライエントとなる。そして、ジャーナリストとして、人としていかにフィルタをかけて物事を見ているのか、筆者だけでなく読者も気付かされるのである。

ほんの10数年ほど前まで存命だった河合隼雄が心理学者であり、村上春樹と対談本を出していたなといった程度しか知らなかったのだが、この方が日本の心理学の歴史においていかに巨木であったかを思い知った。

このまま河合隼雄に、ひいてはユングに傾倒して勉強していくのもいいのかもしれないが、フロイト派の言い分も知らなければならない気がして、どうやったら満遍なく勉強することができるのかを探っている。やっぱり放送大学あたりがいいんだろうか。

「◯◯を始めようかな」と思っていろいろ調べている時が一番楽しく癒やしになる。『セラピスト』というセラピストが私を少し元気にしてくれたのであった。

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