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壮絶な戦い

夕焼けより朝焼けが好きです。

コバルトブルーの絵の具に水を多く含んだピンクとオレンジが混ざって鮮やかになり、町が太陽に染められていく。

それをぼーっと見ていると、あっという間に時が経ち、地獄の30分が始まります。

「はよしーや!」

母は鬼の形相で怒ります。
私は与えられた30分でご飯を食べ服を着替え歯を磨き、朝の準備をしなければならないのです。
朝焼けをぼーっと見ていた頃が遠い昔のように感じます。
あの時の自分を恨みたい。なんで昨日のうちに用意していないんだろう。
何度後悔しても戻らない過去を憂鬱に思いながら最終ラウンドの歯磨きをします。
歯を5分以上磨く主義の私は弟にいつも「はよ磨いて!」と怒られます。そうです、弟も遅刻する思いで生きているのです。
情けない姉がある私は謝りながら靴を履き全力で走ります。
すると、母が追いかけてくるのです。
「はよ走り!」
呪いをかけるように叫びます。
何が母をそこまでさせるのか、何かに取り憑かれているのか、詳細は定かでありません。
ただ、薄汚いエプロンをつけたまま追いかけてくるので、周りの目が恥ずかしく、それから逃れるために必死で走ります。
そんな暇があるのなら仕事の日を1日でも増やせばいいのに。

そんな毎日を送る私にも穏やかな時があります。それはピアノを弾いている時です。
ピアノは私にとって永遠の相棒であり恋人であると感じてます。今はリストの「ため息」を弾いています。

私の愛する朝焼けのような美しい色のある音を奏で、トーストを焼き、庭の花達に水をあげ、優雅で誰にも追いかけられることない朝を迎える、それが私の密かな夢です。
きっとそんな朝は幸せで、考えるだけでわくわくします。
いつかコーヒーの似合う素敵な大人になれますように。

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