久米郁男他『政治学 補訂版』(有斐閣、2011年)

■概評


政治学の初学者の方は読んで損はない教科書というべき本


■紹介される基本的な単語(一部)

〇消極的自由と積極的自由(第3章 自由と自由主義)


→権力に対する自由(私有財産の保障など)と内心に対する自由(表現の自由など)が未分だった古典的自由主義に対し、バーリンが区別した自由観。消極的自由はある人が決定することに外部からその決定に干渉を受けない自由であり、積極的自由は選択に対し自らが主体的に決定できる自由を指す。後者は外部からの干渉を否定しないため自由への強制が発生しうるとバーリンは危惧した。


〇正義の第二原理;格差原理(第3章 自由と自由主義)


→政治哲学者ジョン・ロールズが著書『正義論』で示した社会的規範の一つ。無知のヴェールによって自分が何者かわからない状態でならばどのような規範でもつ社会を望むかとしたときに、マキシミンルール(最小値を最大にする)から、最も恵まれていない人が救われるような規範を望む。それが格差原理である、という考え


〇福祉国家の3類型(第4章 福祉国家)


→福祉国家の異なる3つのタイプ。その区分けの指標として「脱商品化(労働力が商品のように売り買いされる対象としてみられる要素を失っている)」と「階層化指標(福祉政策が広く平等に行き届いているか。各人の階層や職種に応じた給付が行われた結果、格差が固定化されているか否かの指標)」を用いる。

 社会民主主義モデル→脱商品化が進み、階層化指標が低い。スウェーデンなど

 自由主義モデル→脱商品化が進んでおらず、階層化指標が高い。アメリカやカナダなど

 保守主義モデル→脱商品化が進み、階層化指標が高い。ドイツやオーストリアなど


〇権力(第5章 国家と権力)


→個人の意図に訴え、その行動を変えるもの、といえる

 明示的権力→反抗に対し力をもってその行為を変えさせるなど、観察可能な現象を起こす権力。ヴェーバーやダールなどが想定していた物理的権力(武力)が挙げられる

 黙示的権力→反抗の意志など関係なく、その行為を行わせようと影響を及ぼす権力。世論操作や洗脳が挙げられる。特にルークスの三次元権力観で、利害関係すらも表出されないよう誘導させるような権力の使用といった考えが代表。


〇公共性(第6章 市民社会と国民国家)


→公的の定義は難儀であるが、一般的にはメンバーの全員に共通しており、またメンバーがアクセルできなければならないため公開されていることという意味を持つ場合が多い


〇アファーマティブ・アクション(第6章 市民社会と国民国家)

→社会的に弱い立場のものに雇用や教育において一定の優先枠を設置すること。これに関して、反対の立場として「逆差別」との声や、逆に個人をその属する集団の一人として扱うためかえって人種というカテゴリーを固定化させてしまう恐れがあるとの意見がある。一方で賛成の立場として差別の解消や優秀な人間を育て少数派の立場の向上につなげること、そして多様性ある現場で学ぶことがマジョリティにとっても多大なる教育効果がある、という意見がある。


〇リアリズムとリベラリズム(第7章 国内社会と国際関係)


→アナーキーである国際関係において対立する思想の立場。リアリズムはホッブズ的な観点に立ち、国際関係で集権的な主体が存在しないため、各国は自国の利益追求のため動き、対立が常態となり、協力は難しいとする立場。国際関係の安定と自国の防衛のためにパワー(軍事力)を最大に重視する。リベラリズムは逆に国家を自国の利益を追求するものと必ずしもみておらず現代の国際交流などの現象を踏まえ相互利益などの観点から協力は可能と考える立場。


〇主権国家(第7章 国内社会と国際関係)


→主権と領土と国民を有する国。主権とは16世紀の思想家ボダンによると、国家の絶対的・永続的な権力と定義される。そこでは自国より上位の権力主体(教皇など)を認めず、各国は主権を持つ者同士として平等に尊重される。ウェストファリア体制で確立された概念。


〇勢力均衡(第7章 国内社会と国際関係)


→リアリズムの代表的な考え。各国のパワーのバランスをとることで支配的大国の出現を防ぎ、それにより各国の安全が保障されるというもの。


〇安全保障のジレンマ(第8章 国際関係における安全保障)


→自国が敵国に対し安全保障を増大させようと軍事費を積むと、それが敵国の脅威になるため敵国は更に軍事費を積むことになる。それがかえって自国の安全保障を損ねること。囚人のジレンマの応用ともいえる。


〇新現実主義(ネオ・リアリズム)(第9章 国際関係における富の配分)


→経済的相互依存の深化が逆に国家の安全保障を脅かし得ると考え、その市場や資源をめぐり争いの原因となると考える立場。経済をハードパワーとみなす。また国益について相対利得を重視しており、互いに利益があってもその利益に差が生じることが争いの原因となると主張する。ウォルツが代表的論客。


〇敏感性と脆弱性(第9章 国際関係における富の配分)


→コヘインとナイによって主張された概念。経済相互依存の関係において、敏感性とは一国の経済的変化が他国に与える負の影響のことで、アメリカと日本との関係などが脆弱性の高い例といえる。そして脆弱性とは経済依存を打ち切られた際に、それの回復にかかる費用のことを指す。日本とサウジアラビアの関係でサウジアラビアが石油輸出を止めれば日本に大きな影響が生じることから日本はサウジアラビアに大きな脆弱性をもっているといえる。


〇変換型議会とアリーナ型議会(第10章 議会)


→議会の異なった在り方。変換型議会はアメリカが典型で、委員会を中心に議員が投票人の欲求を立法に変換するというものである。議員が中心に働く一方で、委員会中心となり執政部全体の結束力が失われる。アリーナ型議会はイギリスが典型で、閣僚ポストに多くが就任する与党議員と野党議員が一同に会して争点に対し議論を行う場としての議会である。執政部がまとまって強くなる一方で、与野党の攻防が激しくなり議会での討論が形式的になりがちである。


〇NPM(第12章 官僚制)


→ New Public Managementの略。行政に民間の手法を参考に、その類似する点を導入し、効率を高めるという実践運動の総称。例を挙げると、イギリスにおいて行政の一部の業務を強制的に競争入札にし、行政も参加者として民間と競わせた。またPFIと呼ばれる手法では民間委託から一歩進んで公共資本(施設など)を民間に借り出すことも行われた。


〇官僚制の逆機能(第12章 官僚制)


→明確な権限の配分、職務の階層的構造、一般的な規則による職務執行といった官僚制の効率をあげる特徴によって逆に発生する問題のこと。一般的な規則による職務執行から繁文縟礼(規則が細かすぎ、煩雑な手続き)が、明確な権限の配分からセクショナリズムが、職務の階層的構造から管理化(組織内の緊張による能率の低下)が発生しうる。


〇国際レジーム(第14章 国際制度)


→アナーキーな国際関係における特定の政策領域において各国の利益が収斂するような明示的または暗黙的な原則や規範、意思決定手続きの総体。リアリズムの立場によると国際レジームは覇権国家によって形成されたもので、覇権国が衰退することでレジームもまた存続することができなくなるとした。一方リベラリズムの新自由主義制度論においてはゲーム理論におけるしっぺがえし戦略を持ち出し、相手が協力すればこちらも協力すると利益が増大すると説明し、レジームを遵守することのメリットを説いた。また構成主義においては各国が国際レジームを利益によるのでなく、他の多くの要因によってそれらが遵守されると考えた。例えば知識共同体が政府に与える影響は大きく、政府は単純な国益でない外交をとるというもの。


〇共有地の悲劇(第14章 国際制度)


→ある村の共有地の放牧地において、農家は自分の利益のため多くの牛を放牧する。しかしそれをすべての農家が行うと、放牧地はやがて荒れ果てる。このように各人が個々に利益を得るのに対し、その費用は全体にかかる。しかしそれを個々人が負担する必要がない。そのため全体の利益が減少していくというもの。


〇アリソンの政策決定モデル(第15章 政策過程) (第16章 対外政策の形成)


→政治学者アリソンは政策決定に関し三つのモデル、合理モデル、組織過程モデル、組織内政治モデルを提示した。

合理モデルでは、組織を一人の人間と見立て、その目標から行為や結果の予測、評価や再選択に至るまで、その効用を最大化させるよう行動すると考えるモデルである。

組織過程モデルは、組織は複数の下位組織からなる連合体であるとして、下位組織はあらかじめ決められた手順に従いルールに基づいて遂行することから、組織の決定をルールが適用された結果とみるモデルである。そこにおいては、組織は過去の決定を繰り返す、下位組織同士で相互に矛盾する決定を下す、重複する決定を下すといった特徴もみられる。

組織内政治モデルは、組織を役職に就いている人間の集合とみる。彼らがそのもつ権力を最大限に行使し、各々の目標を最大限に叶えようとする。つまり、組織の決定は駆け引きの結果であるとするモデル。

また、このアリソンの三つのモデルは政府自体にも応用され、国際社会における国家政府の意思決定の分析においても使用される。


〇新制度論(第17章 制度と政策)


→アメリカにおいて政治学は社会中心主義をとり、もっぱら社会が国に要望を入力し国がそれを出力する関係であると分析してきたが、そうでなくフォーマルな組織である政府の機関や政党が政策決定に大きな影響を与えるとする立場。主に歴史的制度論と合理的選択制度論に大別される。


〇自由民主主義(第18章 デモクラシー)


→自由主義は私的所有権の不可侵を原理の一つとしており、ブロジョワジー的な思想であり、一方の民主主義は多数を背景に決定するため多数の暴政を引き起こす可能性があった。また私的財産の制限を目指す社会主義運動もあり、この二つの思想は緊張関係にあった。その後J.S.ミルなどの近代政治哲学において、民主主義は自由という目的を実現する手段となる思想として展開され、また一般有権者が極端な社会主義を目指さないことが明らかになっていき、この二つの思想は合体し、自由民主主義体制として確立された。


〇行動科学革命(第19章 投票行動)


→20世紀に確立された心理学的手法(行動科学主義)が政治学分野に広く普及したこと。そこでは社会現象を、その現象を起こす最小単位となる個人にまで還元し、その意思決定などからパターンを分析して、一般的な法則を発見しようと研究された。


〇アーモンドとヴァーバによる比較政治文化研究(第20章 政治の心理)


→国民の持つ政治文化がデモクラシーを成功させるという因果関係を見出そうと比較世論調査を行った。そこで政治参加などの入力機構と行政機関への信頼という出力機構などに対して抱いている心理学的態度の分析を行った。そこから「参加型政治文化」「臣民型政治文化」「未分化型政治文化」という三つの類型に分けた。参加型政治文化は入力機構と出力機構に国民が肯定的な態度を持っている類型である。臣民型政治文化は出力機構を肯定的に捉えているが入力機構に対し信頼を抱いていない、権威主義的な類型である。そして未分化型政治文化は明確な態度を示していない場合である。

 こうした研究は文化決定論であるとして、政治が文化によって決まり可変性がない見方であるとして批判を招いた。


〇限定効果論(第21章 世論とメディア)


→メディアが世論に強力な効果を与えるという強力効果論に対して、エリー調査によってメディアが世論に与える影響力は小さいことが示された。


〇ゲリマンダー(第22章 選挙と政治参加)


→アメリカでゲリーという知事が自分の党に有利なように選挙区を区割りしたことから、恣意的な党派的選挙区割りのことを指す。


〇利益団体(第23章 利益団体と政治)


→共通の利益を、それに属する一部または全員が実現するために組織された団体。利益を追求しようと活動している点で利益集団と異なる。また、その中でも政党や行政に対し自分たちの利益や理念のための政策を取り入れようと働きかける組織を圧力団体と呼ぶ。


〇デュヴェルジェの法則(第24章 政党)


→小選挙区のもとでは二大政党になり、比例代表制のもとでは多党制になるという法則。後に日本の中選挙区制を踏まえ政治学者のリードによって、選挙区の定数よりも1党多い数の政党が政治に関わると提唱された。


■紹介される少し専門的な単語(一部)

〇投票のパラドクス(第1章 政策の対立軸)


→P、C、Lの政党があるとき、各政策の対応に対する魅力度について
政策a:P>C>L、政策b:C>L>P、政策c:L>P>C とする

C党とL党の関係で政策a、bでCが上であるからC党を選ぶ

次にP党とC党について政策a、cでP党を選ぶ

しかしP党とL党を比べるとb、cでL政党が勝る

政治的対立が多元化するほど私たちの投票行動が難しくなる


〇競合性と排除可能性(第2章 政治と経済)

競合性
→ある人が消費することで、他人の消費を妨げるか。有限な財に対する消費の性質。


排除可能性
→人々が消費することを妨げうるか。誰もが使えるか否か。


私的財
→競合性:有、排除可能性:有(所持物)


料金財
→競合性:無、排除可能性:有(インフラ)←自然独占


共有資源(コモンズ)
→競合性:有、排除可能性:無(池の水や魚) ←共有地の悲劇


公共財
→競合性:無、排除可能性:無(公園)  ←フリーライダー問題


〇ウィレンスキー(第4章 福祉国家)


→福祉国家について統計的に研究を行った結果、政治的体制などよりも経済の発展水準と福祉の進展度合いに相関性があるということを明らかにした。

しかし先進国の中での福祉発展度の違いについて説明することはできなかった


〇フーコーの権力観(第5章 国家と権力)


→権力が社会の構造自体に存在するという見方。権力を受ける側がその構造内で自分を構造の中の一員、いわば主体として自律的に行動するよう仕向けられること。学校などで先生がわざわざ指導しなくとも、模範的な生徒は自律的な生徒像を目指そうとするが、こういったものが典型といえる。


〇日本における公と私(第6章 市民社会と国民国家)


→日本は古来より、公家や公儀といったより上位の権力に関係あることを指すことが多く、そこに中国の公の概念と近代ヨーロッパ以降の「パブリック」の概念が加わり複雑な定義となっている


〇ホブスホーム(第6章 市民社会と国民国家)


→国民国家の建設とは近代以前の国家領域内の身分や文化の差異を同質化することであるとし、標準語の制定や国旗などの政治的シンボルなどを掲げ、その内実が与えられた。歴史家のホブスホームはそのことを伝統が「発明」された、といった。


〇三つの分析のレベル(第7章 国内社会と国際関係)


→国際関係やその現象を理解する上で、分析する分けられる三つの段階。指導者などの個人レベル、国内状況に関する国家レベル、そして国家同士の力関係といった地政学的である国際システムのレベル。


〇構造的リアリズム(第7章 国内社会と国際関係)


→ウォルツは三つの分析のレベルの内、国際システムレベルを重視する。ここでの見識が他二つに対し制約を与えていると考える。そして国際システムがアナーキーである以上、各国は安全保障のためにも戦争の原因を生み出す。こうした立場を指す。ただしこの立場はヴェントにより国際システムが国家などに制約を与えると分析を行っている一方で、国家や個人が国際関係に与える影響を考慮していないと批判を受けた。


〇議会審議の粘着性(第10章 議会)


→法案が野党の抵抗によって成立しにくいかどうかという概念。日本においては日程に関して全会一致の原則があり、また二院制をとっており、そして会期不継続を原則とする年間複数会期制をとっている。そのため野党の抵抗が法案成立に影響しやすい環境であるため、粘着性が高いといえる。


〇グローバル・ガヴァナンス(第14章 国際制度)


→国際社会のほとんどすべての構成メンバーの活動を制御するための取り決めとされる概念。国際レジームの代替概念であり、国際レジーム論においてはアナーキーな国際関係における国家の特定の領域での問題をとりあげてきていたが、各国の問題をこえるグローバル・イシューというべき人権問題や環境汚染問題などが登場してきたことを踏まえ、問題を多角的にとらえると同時に非国家主体を国際社会における行動主体として加え込んだ。


〇歴史的制度論(第17章 制度と政策)


→新制度論の一つ。類似する環境にいながらも同様の政策に対し別々の反応を起こす国々を分析し、その理由をフォーマルな国家構造に求める立場。理由の一つが拒否点で、ある政策を実現する過程においてそれを阻む憲法や法律のことでありこれらが結果を左右する。また選挙制度や新たな政策を受け入れられる制度や機関が存在していたかなども挙げられる。従来は社会的条件が同じであれば国は違えども政策は収斂すると考えられていたが、そうでなく制度の違いによって政策に差異が生まれると分析される。こうしたことから規範の拘束力を重視する分析も存在する


〇合理的選択制度論(第17章 制度と政策)


→ゲーム論的に制度を理解する立場。ここでは主に四つの特徴があり、一つは政治アクターは合理的であり、利益を最大化するよう行動するということ、二つ目は演繹的に計算を行う。つまりあらかじめ目標を定め、それをもとに議論を組み立てる。三つめは変数節約的である。つまり、現実の雑多な現象から重要な要素を抜き出し、それが制度に与える影響を分析するということである。そして最後にその記述は主に数式である。ゲームのルールをあらかじめ前提にする点から、歴史的制度論と同じく規範や制度の拘束力を重視する立場といえる。


〇情報コスト(第19章 投票行動)


→どの政治家が自分の政治的欲求を叶えてくれるかを反映しているかを知るための情報を得るコスト。特定政党の支持者が発生するのは、自分の政治立場に近い政党に毎選挙時に投票すると考える限り、情報コストが大きく削減されるからと考えられる。


〇業績投票(第19章 投票行動)


→有権者は争点でなく政権担当者の過去の業績の善し悪しを判断し、それを基に投票すること。ミシガン大学での選挙調査から有権者は争点に対し投票しないことが分かり、選挙において有権者は合理的に投票しないという仮説が存在していた。それに対抗し行われた調査である。この意味で有権者は合理的に投票を行っているといえる。


〇フレーミング効果とプライミング効果(第21章 世論とメディア)


→限定効果論に対し、メディアが与える強い効果論が再燃された際に用いられた概念。フレーミング効果とは、人々がある争点を理解する際に、何らかの枠組み(フレーム)によって理解しようとする傾向があり、その枠組みをメディアによって構築されてしまう効果である。プライミング効果とは、メディアによって現政治の議題を設定されるだけでなく、それが重要であるかどうかの情報まで判断基準を設定されてしまう効果である。どちらとも受け手が情報コストの削減を行うという点で一致している。


〇アナウンスメント効果(第21章 世論とメディア)


→選挙の前にメディアが情勢を報道することで、実際の選挙結果に影響を与えることをいう。一つがバンドワゴン効果で、選挙前に有利とされていた候補がより多くの投票を得て勝利することを言い、アンダードッグ効果はその逆で不利とされていた候補が多くの票を得ることをいう。真逆のようであるが、どちらとも有権者が合理的に判断した結果といえる。つまり、バンドワゴン効果は小選挙区制で発生することが多く、勝利するのが一人だけのため、有利とされる候補を確実に勝たせるために票が増す。一方アンダードッグ効果では、中選挙区制で有利な候補者が勝ちが確定したとされ投票率が下がりその分、不利とされていた候補者に票を入れて勝たせるようにすることから、以上の現象が発生していると考えられる。


〇政治参加の合理的選択モデル(第22章 選挙と政治参加)


→有権者が投票によって得られる見返りをRとし、自分が投票することで影響が生じると考えられる確率P、政策への期待B、選挙に出向くコストC、そして選挙に対する市民としての義務感をDとする。このとき、

R = PB – C + D

の関係が成り立つ。PBについて、政策への期待Bに、それが自分の投票で影響を与えるかの値Pで、その期待値を積算する。そして選挙に出向くコスト(時間など)を引いて、そして義務感を足す。これによって得られたRの値が、+ならば投票に出向き、マイナスならば投票にはいかないのが合理的市民の行動となる。


〇多元主義(23章 利益団体と政治)


→社会は多種多様な利益団体で構成されていて、公共政策は彼らの競争や調整、対立の中で生まれるとする立場。

 ここにおいては利益団体が利己的な活動を行っても一定の条件下であれば公共の利益は実現されると考えられる。一定の条件とは、一つにどの利益団体も支配的にならないよう対抗権力によるバランスがとれていること。二つ目に各個人が利益団体に重複して加入していること。そして三つ目に潜在的な利益集団が存在していて露骨な利益活動をすれば対抗権力になり得ること、が挙げられ得る。

 またこの多元主義に対し、コーポラティズムは利益団体は階層的な構造となっており、その中でも全体を統制する頂上団体が存在し、彼らが代表して対立、競争することで個別的利益と全体利益が調和すると考える立場もある。


■感想


 本書は政治学を研究する学部生・初学者向けの本となっている。序章含め全25章で政治の各トピックを満遍なく説明される。基本的な概念や著名な政治学者の研究が丁寧に説明される一方、囚人のジレンマに対する「しっぺ返し戦略」といった少々発展的な概念も取り扱っている。

 この本の独自のポイントを述べると「本人-代理人」の関係を軸に政治における多くの事象を説明している点がある。有権者たる本人と代理人たる議員の関係から始まり、主権国家を議員の代理人として国際社会におけるアクターとして論じたり、否定的に見られがちな政党における派閥も、議員を本人・派閥を代理人として議員が派閥を利用し自身の要望を叶えている(知名度を得ることなど)といった説明がなされている。政治におけるマイナスに受け止められる現象も、代理人を利用する本人からみると合理的な行動であるということだ。ただただ政治概念の見本市というだけの本から一歩進んだ説明がなされている。

 ある話によると、公務員試験の政治学の問題を作成する際に当本が参考本として使用されているらしい。国家公務員などを目指す方は読んでおいても損はないのではないかと思う