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『漢方小説』を読んでみた

第28回すばる文学賞受賞作。18年前の作品で、仕事も恋愛も疲れちゃった……、なんて時の処方箋という触れ込みで、コロナ禍の今読むのにいいかなと思って手に取ってみた。

以下、ネタバレ含みまーす。

がんばり屋さんほど共感!? 

主人公の川波みのりは、脚本家。元カレの結婚のショックがきっかけかわからないけれど、時期を同じくして激しい胃痛に苦しむ。

そんなところから話は始まる。

どの病院に行っても「異常なし」で、薬を飲んでも効かない。行き着いた先は漢方を処方してくれる東洋医学系の病院。その担当医がイケメンで……、というよくある(?)展開で、担当医との恋愛モードに発展するのかと思いきや。

何も起こらない。

きっとこの先には、きっとこの先にはという期待でぐいぐい読ませる要素もあるのだけれど、思わせぶりらしいこともなく、担当医の頭に10円ハゲを見つけて、それを口にしてしまう程度で、二人の仲は進展しない。

登場人物それぞれにやんわり「何か」を抱えている

非現実的な「え〜、そんな過去が」とか「そんな秘密が」ということもなく、日常のきっと多くの人(自分も含めて)がもっているであろう「もやもら」を登場人物それぞれが何とはなしに抱えている。

それは概して、他者に届かない、届けることに怯えてしまっている「想い」。激しくすれ違うのではなく、ゆる〜くすれ違う感じがリアルで、登場人物たちがよく行く居酒屋に同席して、何気なく会話を聞いてしまっているような距離感。それが心地よくてさらりと読める爽快感がある。

中医学がストーリーに生きている

主人公、みのりがなぜセルフ・ロデオマシーンのごとく胃を痛めるのか、その理由を「胃」だけではなく、体全体を通して治していく過程が、説教臭くなく淡々と描かれているのも、「教えてやるぜ」感がなくて好き。

西洋医学を否定するわけでもなく、東洋医学の優位性を説くわけでもない距離感が、繰り返すけれどほんと心地いいのである。

最後に一文

「とっておきのことは、ヘタに口に出さないが一番だ」

これに尽きる作品。

作者/中島たい子 出版社/集英社 39W×15L×133P 章立て/あり(1〜7のナンバリング 1章あたり20P前後)


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