もう何も
「では、私のしつけが悪かったわけではないんですね」
そう言って母は嬉しそうに泣いていた。
私の目の前で。
何かから解放された喜びに
体を震わせて泣いていた。
「だからもう、ご自分を責めるのはやめてくださいね」
白衣を着た初老の男性は
母に優しく微笑みながらそう言って
今度は私に顔を向けると
「では、またお薬出しておきますからね」
あれから母は私の機嫌を伺うのをやめた。
出掛けたい時に出かけ
食べたい時に食べ
観たい時に観る。
変わっていく母を見ていた。
部屋の中
何も変えられない私が
減らない薬に涙を落しても
もう母は私を見ない。
ありがとうございます。