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十和田湖の魅力〜ブナ林に抱かれた巨大なカルデラ湖 ①遠景編

14キロの長さに及ぶ奥入瀬渓流は、十和田湖東岸の「子ノ口(ねのくち)」というところから始まります。奥入瀬渓流と十和田湖は繋がっており、文字通り「切っても切れない関係」。距離の近さゆえに、1回の旅行で両方に訪れる観光客も非常に多いです。
僕自身も、普段の調査のホームグラウンドは奥入瀬渓流ですが、十和田湖には頻繁に遊びに行きます。青森に来てからの数ヶ月で、何回十和田湖に行ったか、もう数えられません。

今回の記事では、そんな十和田湖の魅力を2回に分けてお伝えしたいと思います。

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↑秋の十和田湖。

十和田湖の概要ざっくり

十和田湖は、青森県を代表する観光地。旅行ガイドや旅番組で取り上げられる機会も多いので、名前をご存知の方は多いと思います。

十和田湖は、十和田火山の噴火によって誕生したカルデラ湖。十和田火山そのものは、約22万年前から活動しているのですが、現在のカルデラは、6万1000年前〜1万5000年前のあいだに発生した大規模な噴火の過程で生じたものだとされています。

カルデラ湖は、水深が深くなる傾向があります。十和田湖もその例に漏れずで、最深部は327m。あべのハルカスや横浜ランドマークタワーがすっぽり沈んでしまいます。日本では3番目、世界でも17番目に深い湖です。

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↑十和田湖は、八甲田山の南に位置する。湖面標高はおよそ400mで、山の上にある湖。湖の中央を秋田県と青森県の県境が走っている。(地図の出典は国土地理院「電子国土」より)

深さだけでなく、平面規模も巨大です。十和田湖の周囲は、約46キロ。車で走っても1時間以上かかります。面積は61㎢で、山手線の内側とほぼ同じ。

これだけの巨大な湖なのにも関わらず、十和田湖には大きな川が流れ込んでいません。十和田湖外輪山のブナ林に蓄えられた雨水や雪解け水が、沢や地下水脈を通って湖に流れ込み、水がめを満たしているのです。
深さ300mの湖を満タンにしてしまう、ブナ林の保水力の高さに脱帽です。

選ばれし絶景

多くのガイドブック・パンフレットで、十和田湖は「絶景スポット」として扱われています。
ただ、僕は十和田湖の景色はそんじょそこらの絶景とは格が違うと思っています。

十和田湖は標高600〜1000mに及ぶ「外輪山」に取り囲まれており、展望台はその山腹・頂上に設けられています。発荷峠(はっかとうげ)、御鼻部山(おはなべやま)などが定番パノラマスポット。

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↑外輪山で最も標高が高い御鼻部山からの景色。十和田湖南岸にある御倉半島・中山半島を望むことができる。

十和田湖・奥入瀬をこよなく愛した明治時代の紀行文作家、大町桂月はこんな言葉を残しています。

「山は富士、湖は十和田湖、広い世界にひとつずつ」

ぼくはこの言葉に大いに共感しています。

正直、絶景スポットなんていうのは日本中に腐るほどあります。見晴らしの良い景色は、標高が高い展望台に行けば簡単に見られるし、湖のパノラマスポットだって、広い日本、探せばたくさん見つかるでしょう。
なのにも関わらず、なぜ大町桂月は上記の言葉を残したのか。

やはり、十和田湖の景色は特別なのです。

なぜ十和田湖の景色は特別なのか?

深い深いブナの樹海のなかに、突如深さ300mの巨大な水がめが現れる。よくよく考えると、これはなかなかシュールな状況だと思います。
夏に外輪山の展望台に行くと、濃紺な湖が、明るい緑色の森に取り囲まれている光景を鑑賞できます。色のコントラストがすごく強い。一面に広がるブナ林の絨毯の一部がえぐり取られ、そこに無理矢理紺色のピースがはめ込まれました、といった印象。
この、いい意味でアンバランスな感じが、十和田湖の景色の魅力のひとつであり、十和田湖の自然が上質であることの証でもあります。

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↑十和田湖南岸、旧瞰湖台からの景色。カルデラの巨大さが実感できる。

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↑十和田湖の水は、とっても濃いグレー。風がない日には、トロトロのシチューのような穏やかな水面がどこまでも広がる。

湖岸ぎりぎりまで深い森が広がっている、というのが、十和田湖の大きな特徴のひとつです。

日本に湖は数多あれど、天然林に取り囲まれた湖、となると数が限られてきます。
霞ヶ浦や琵琶湖は田園地帯や街に囲まれているし、白樺湖や山中湖などの山間の湖も、岸辺は別荘地やリゾート地として開発されています。
純粋に、森だけに囲まれた湖って、意外と少ないのです。

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↑十和田湖(上)と河口湖(下)の航空写真。河口湖の周囲には広い市街地が広がっているが、十和田湖の周りはほとんど森だけ。湖岸に数カ所の集落が点在するのみ。(航空写真は国土地理院「電子国土」から引用)

しかし十和田湖の場合は、休屋、宇樽部などいくつかの集落を除くと、湖岸はすべて上質な天然林。
カヌーで湖にこぎ出せば、それを実感できます。

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上の写真は、十和田湖南岸の岸辺の森です。湖にはみ出すくらい、樹々の枝葉が旺盛に茂っています。湖岸が田畑や別荘地に変わってしまっている湖では見れない光景です。
「カヌーを漕ぎながら樹を鑑賞する」というまことに贅沢なアクティビティを楽めるのも、十和田湖ならではです。

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↑ウダイカンバの枝でできたトンネルを通過‼︎これ、大木が多い天然林が湖と近接しているからこそできること。あ〜、極上。

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↑湖面に張り出したウリハダカエデの枝。

十和田湖では、深い天然林と湖が連続的に繋がっているのです。言い換えれば、森と湖の境界が保存されている。だからこそ、濃い緑にグレーの湖、というコントラストの強い絶景が生まれる。森と湖が開発地によって分断されているところでは、そういった景色は見れないでしょう。

十和田湖を上から眺めたときの「シュールさ」は、この地独特の自然の深さが生み出したものなのです。大町桂月も、きっとそういう点に惹かれたのだと思います。

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↑十和田湖の周辺には、こんな感じの樹海が広がっている。この中には、魅力的な巨木が大勢お住まいなわけでして……。発荷峠にて。

十和田湖の景色を見たときに、ただ単に「あー、綺麗」と思うだけ、というのは非常に勿体無い。
巨大な湖が深い深い天然林に抱かれている、というシンプルかつ極上な景色は、手付かずの自然が残された十和田湖だからこそ見られる、特別なものなのです。それを実感しながら景色を鑑賞すると、味わい深さも変わるのではないでしょうか。

②「湖畔編」へ続く

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