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イントゥ•ザ•奥入瀬 その③ 鳥類鳴き声聞き分け修行

5月の中旬ごろ、おいけんの理事長である河井大輔さんと調査にでていました。
河井さんは、野鳥図鑑を執筆するほどの、鳥のスペシャリスト。小学5年の時から野鳥を愛し続けてきた、生粋のバードウォッチャーです。先日の調査では、そんな河井さんから鳴き声で鳥の種類を判別する方法をレクチャーしてもらいました。今回はその模様をご紹介。

鳥類の世界に入り込みたい

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↑奥入瀬で最もよく見かける鳥のひとつ、カワガラス (写真はおいけんの方から提供していただきました)

森の中を歩いていると、鳥の声が耳に入ることがしょっちゅうあります。奥入瀬に来る前から、「鳥の鳴き声だけで鳥の種類がわかるようになりたいな〜。なんかカッコいいし」とぼんやり思っていました。                                                                        しかし、奥入瀬に来ていざ鳴き声の聞きわけの特訓を始めてみると、この世界の厳しさが段々と分かってきました。鳴き声で鳥の種類を判別するのは、樹木の同定の数倍難しい………!(とぼくは思う)主な理由は3つ。


①「さえずり」と「地鳴き」の違い

河井さんから鳥類についての基礎知識を教えてもらうまで、ぼくは「鳥がさえずっている」という表現と、「鳥が鳴いている」という表現は同じ意味だと思っていました。しかし、実際にはこの2つは違う意味だったのです。

「さえずり」というのは、繁殖行動や縄張りの主張のために発される声のこと。鳥たちにとって、さえずりのタイミングは彼らの人生における重要ポイント。そのため、さえずりは遠くまでよく届きます。
一方、「地鳴き」は鳥たちが日常会話で発する声。鳥も人間と同じく声を使ってコミュニケーションをとっていて、人間が話す言葉の一つ一つに意味があるように、鳥の鳴き声の一つ一つにも意味があるそうです。

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↑キビタキ。まだこいつの鳴き声はマスターしていない………(写真はおいけんの方からの提供)

河井さんは、「人間の場合も、歌うときと普通に喋るときでは声の質感が変わるよね。鳥たちのさえずりと地鳴きの違いも、それと一緒」という説明をしていました。奥入瀬を知り尽くしたネイチャーガイドの説明はやっぱりすごく分かりやすい。ぼくもこれぐらいシンプルで理解しやすい説明がぱっと出来る人になりたいなあ。

っがしかし。分かりやすかったのは河井さんの説明だけでした。
いざ聴き分けようとすると、「さえずり」と「地鳴き」のややこしさに発狂したくなります。同じ種類でも、初心者が聞くと、さえずりと地鳴きがまったく別のものに聞こえるのです。

特にひどかったのがウグイス。
有名な「ホーホケキョ」は「さえずり」で、こちらは分かりやすいのですが、彼らの地鳴きは「ジャッジャッジャ」。全然違うやんけ。地鳴きのときに「これはウグイスです」と言われてもなかなかしっくりきません。そして、しっくりこないから音が覚えられない。こうなるともう負のスパイラル突入です。鳥が鳴く前にこっちが泣きたくなる。

②聴くモードに入ると鳥たちが黙りこくる

「あ、いま鳥鳴いたな。なんの種類だろう」と思って耳を澄ませた瞬間に鳴き声が止む…
これ、結構よくあります。
河井さんによると、鳥は、自分の鳴き声が人間に聴かれていると察知すると、鳴くのをやめることが多々あるそうです。「声を発する」というのは、自分の居場所を敵に教えてしまう可能性もある、非常にリスキーな行為。だからこそ、彼らは自分の声が誰に聞かれているのか、にまで注意を払うのです。

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↑ゴジュウカラ。鳴き声は聞くけれどなかなか実物は見れない。写真を見てこんなモフモフだったんだ!と感心してしまった。
(写真はおいけんの方から提供)

しかし、こちらが聴くモードに入ったことを、彼らはどうやって察知するのでしょうか。耳をすましたとしても、こちらの行動が劇的に変わるわけではありません。ぼくたち人間が「聴くモード」に入ったことを鳥が感知できるような目印はほとんどないのです。
やはり、ヤツらはなんとなくの雰囲気を読んでいるのか。野生の勘の鋭さが身に染みて分かります。

しかし、聴こうとして耳を傾けた瞬間に黙りこくられるなんて、ぼくのような初心者からしたら結構つらい。鳥たちよ、なにも悪いことはしないから鳴き続けて、同定の練習に付き合ってくれませんか?

③耳を使うことに慣れていない

今までぼくが長いこと付き合ってきた樹木たちは当然のことながら鳴きません。だから、樹木の同定をするときに頼りにするのは見た目、手触り、匂い。樹木観察において、耳が稼働する機会はあまりないのです。慣れていないからこそ、耳で種類を同定する、というのがなかなか大変。
「鳴き声を記憶して、次に同じ音が聞こえてきたら種類を当てる!」というような脳の回路がまだ構築されていないので、鳥の鳴き声が聴こえても「これが初めて聴く鳴き声なのか、以前聴いたことがある鳴き声なのか」の判別がぼんやりとしかできない。
植物だったらぱっと見て初対面か再会なのか分かるんだけどなあ……

……とまあこんな感じで、鳥の鳴き声の聴き分けには苦労しております。
河井さん曰く、「どんな鳴き方で鳴くのか」で判別するよりも、それぞれの種類の鳴き声の「音質」を捉えるのがよい、とのこと。

鳥は自由自在に鳴きまくります。自分が覚えた鳴き方とは違う鳴き方で鳴くことも多々ある。でも、どんな鳴き方になっても、「まろやかな声」「軽やかな声」というような、鳴き声の音質は変わらないのです。音楽をやっている人や楽器演奏を趣味にする人は、この「音質を捉える」力に長けていて、鳥の世界に転身しても種類ごとの聴き分けをすぐにマスターしてしまうんだとか。

小学校の音楽会でリコーダーをめちゃめちゃなメロディーで吹いたり、キーボードを始めて半月で挫折したりと、消しカスのような音楽遍歴の僕には、いまのところ音質を捉える能力は皆無です。まだまだ鳴き声聴き分け師になるには程遠い。修行がんばらないとなあ………

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↑キツツキの仲間、オオアカゲラ。
(写真はおいけんの方からの提供)

とはいえ、鳥の聴き分け修行はただ大変なだけのものではありません。むしろ楽しさの方が大きいです。

植物を同定しているときは、案外作業が単純です。彼らは動かないので、同定の材料集めがかなりスムーズ。目を凝らして外見の特徴を捉え、図鑑を開くという作業さえこなせば、だいたい同定は完了してしまいます。

しかし、鳥の場合は違う。彼らは動物なので、我々人間が期待する行動をしてくれるとは限りません。前述したように、鳴き声を聴こうとした瞬間に黙りこくってしまったり、全然聞いたことがない鳴きかたで鳴かれたり。同定の材料集めにけっこう手間がかかるのです。だから、「あーー!今回のやつ同定できなかった!」みたいな感じのハプニングがよく起こります。
こうしたハプニングが多いからこそ、たまにしっかりと鳴き声を聴け、同定できたときの喜びがめっちゃ大きくなる。1回1回の鳥との出会いが貴重だからこそ、その出会いが強く印象に残るのです。
さほど苦労せずに同定を終了させられる植物の世界では、この感じは味わえません。

まだまだ苦労している状態ですが、少しづつ着実に、鳥の世界へと足を踏み込んでいきたいと思います。彼らのことを知った上で改めて森を見てみると、また違った視点で森という環境を捉えられるようになるはず。それを目指して、明日も森で耳をすまそう。

最後に、美しい野鳥の写真を何枚も提供してくださったおいけんの皆様、ありがとうございました。

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