033
芳明の風景 巡礼
「なんなんだ・・・」
わけがわからなくて、もうどうしていいのかわからなくなってしまった。このファイルの最後に、彼女ははっきりと記している。僕のもとへ帰ってくると。
僕と一緒に生きていくことを決めたんじゃないのか? じゃあ、どうして、きみは消えてしまったんだ。気づいたって、なにに気づいたんだよ。帰ってくるんだろう? 僕の待っている、僕の家へ。
どれくらいロビーでうなだれていただろうか。もう僕は何もわからなくなって、どこに行く気力もなくて、なにをしていいのかわからなくなって、ただただ彼女の無事を祈っていた。
「頼む、僕のもとへ。無事に帰ってきてくれ」
僕はもう一度彼女のファイルを最初から読みはじめた。一文字一文字をかみしめるように、彼女の歩いてきた道をともに歩くように。彼女が無事であることを祈りながら。
神さまの光かと思うほどのまばゆい光が真っ青な空をきらめきで染めた。
光に魅入られたたくさんのいのちは、一瞬にして終わりの時を迎えた。
人だけではなく、動物や植物、地球上の数え切れない生命が、蒸気のように消え去ってしまった。
声を出すいとまさえなく、息絶えるいのち。
かろうじて生き残った人は塀を乗り越えて、周囲を押しのけて一目散に走り去る。
どこへいけば安全なのかなど、誰ひとりとしてわかってはいなかったけれど、ここではないどこかへと逃げ込むために、人々は走りつづけた。
木々が燃える。
家が燃える。
人が燃える。
壊れていく建物、消えていく人々。
自然が長い年月をかけて慈しみ育んできたものが、一瞬にして燃えつきた。
人々は黒い涙を流し、生き残ったことを神に恨むことになる。
あの日僕らが沖縄で見た、世界の最後の光景がリアルに浮かんできた。山が燃え、家が燃え、人々は叫び、血の涙を流し、あらゆる生命が死に絶える。放射能は世界を包み、やがて地球は・・・
「どんなことがあっても、きみを守りつづけると誓ったのに。今、きみを守ることができないのか?
だったら、なんのために生きているんだ。僕は・・・」
永遠に思えるほどの時間、苦しさに涙を流しつづけた。彼女を想って、彼女の抱えてきた想いを抱いて。
苦悩の果てに僕をとらえたのは、満月の光の中でほほえむ彼女の姿だった。
「ねえ、芳明。想像できる?」
そうか。そうなんだ。
ほんとうに世界が僕らの想いでできているのだとすれば、僕らは想うとおりの未来を選択することができる。
ほんとうに生きたい現在を創りだすことができるんだ。
きっと、そうだ。きっと。
僕が恐れを捨て去れば、恐れは僕を傷つけることはできない。
僕が心配を捨て去れば、心配は僕を喰い潰すことはできない。
そうだ、そうなのだ。
戦争なんていらない。
宗教なんていらない。
世界の終わりなんて信じない。
僕はそんな未来を選ばない。
大切な人が笑っていれば、それでいい。
どれだけ多くの人々が、無意識のうちに世界の終わりを選択していたとしても。
僕は、僕の未来を自分自身で創りあげる。
僕が望む未来を想像して、彼女と一緒にいる未来を創造する。
きみは戻ってくる。僕のところへ。最高の笑顔で。いつもとなにも変わらずに。
それが、僕の選択だ。
あなたの風景
あなたは、ここまで物語を読み進み、ページをめくったとたんに違和感を覚えているかも知れない。
物語のクライマックスに、突然現れた白紙のページ。つづきは、どうなっていくのだろうかと想いを巡らしながら、あなたがその白いページと出逢ってくれたなら、作者としてこれ以上幸せなことはない。
あなたは、今驚いているかもしれない。突然に、作者に語りかけられ、自分自身が「惑星のかけら」の登場人物になってしまったことに。
けれど、わたしは容赦なく、あなたに言おう。わたしが創りあげたこの物語の中では、わたしこそが世界の創造主なのだから。
あなたは「惑星のかけら」の登場人物だが、脇役ではない。
あなたは「惑星のかけら」の主人公なのだ。
そのことを、あなたがまったく認めようとしてこなかったことに、わたしはいらだちを感じつつも筆を進めてきた。あなたは、いつになったら、それを認めるのだろうか?
この世界には、偶然はなにひとつとしてない。あなたが、今、この物語を、そのタイミングで読んでいることも。
あなたはこの物語を読むことを選択し、作者であるわたしは、あなたに呼びかけることを、選択した。
互いの選択の上に、わたしたちは今、出逢う。本という媒体を得て。
作家は、想像の中で物語を創りあげる。
それと同じようにひとは、宇宙を想像と創造で創りあげている。
あなたには、世界を動かす力がある。
それを望むなら、この世界を塗り替えてゆくことの出来る力が、あなたにはある。
想い出して。世界を創造するために、この地上に降りてきたことを。
ひとりの創造主として、この惑星の「今」を創造する責任を果たしてください。
いのちの数だけの宇宙があり、その重なりあう宇宙の中、わたしたちはくり返してゆく奇跡の連続の中で出逢いを重ねてゆく。
この物語を手に取った人の数だけ、それぞれの結末が生まれる。
一〇〇〇人が読めば、一〇〇〇通りの、
一〇〇〇〇人が読めば、一〇〇〇〇通りの、
一〇〇〇〇〇人が読めば、一〇〇〇〇〇通りの、
いや、結末など存在しない。
物語は、終わらない。
それは、つながり、途切れ、ふたたびつながりゆく。
たとえ、いのちが果てても、それはつづいてゆく。
永遠の中の一瞬に、わたしたちは生きている。
明滅するいのちのきらめきの中に。
この物語のカギを握っているのは、ひかりでも、芳明でも、おばあでも、作者でもない。
つづきをくのは、あなた。
このつづきを、想像してください。
そして、創造してください。
あなたが思うままの世界を。
あなたには、世界を変える力があります。
この本を閉じたなら、現実社会へ戻っていってください。
そして、生きるのです。
その、こころの思うままに。
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