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ある日、スポットライトが当たったら【KAN『エキストラ』INSPIRE】

KANさんにそっと捧げます。『エキストラ』の世界をお借りして。


今日、渡された台本がバックの中でかすかに揺れている。キャスティングの発表が終わって数時間経っても、全く実感が湧かない。今日はエイプリルフールじゃないわよね。だって冬のはじめだもの。ハロウィーンだって終わったわ。

舞台『はじめから』
主演:A.H(劇団○▲所属) H.M(演劇集団◎■所属)
友人….

勘違いでも見間違えでもなく、夢ではないようだ。

「現実なの?これ。だって私、役名さえないモブ歴15年よ…..嘘でしょう?」

見切れなら一流よ。バイト先で同じ所属の友人と笑ったのが一週間前。その一週間で、私には何が起こったというのだろう。
私の懊悩を置き去りにして、舞台稽古は顔合わせと本読みの段階に変わっていった。


「例え、このシーンが全面カットされてしまっても、私は構わない。この作品に命を掛けているのだから。全ては私の写し絵。全力を尽くすだけよ」

私が演じる主人公の恋人、ヒロインといっていいキャストの台詞を本読みで演じる。私の台詞が終われば、次の台詞を口にするのは、あの人だ。

「君の台詞を聞いていると、僕の演技に火が灯るようだ。その情熱を分けて欲しいよ」

憧れの人、役者を志すきっかけになった人の眼差しが、私だけに注がれる。仮初めであっても、今、この人の視線は私だけのものだ。




……駄目だわ、これじゃあ。

そう独りごちて、私はノートパソコンに打ち込んでいたプロットを消去した。今まで綴っていたのは「台本の真似事」。もし自分が脚本家になったとしたら、どんな台本を書くことができるだろうか。そう思って書いてみた。けれど、単なる願望を綴っただけ。私は明日もエキストラ、役名も台詞もなく、キャストとして名前が挙がることもない、名もない1人。それでいい、そこからはじめるしかない。明日もとあるシーンで喫茶店のセット、その一席に座り、他のエキストラと食事を採るシーンに臨む。台詞はなし、口パクで楽しそうに笑い合うだけ。

だけど、それだけじゃない。明後日あさってにはオーディションがある。端役だけれど役名も台詞もある。そんな役を獲得したくて、とある応募に臨み書類選考を通過した。台詞は何度も暗唱した。頭から零れ落ちそうなほど、貰った資料が破れそうなほど読み込んだ。
舞台経験が豊富な役者さんが私を見たら、きっと笑うだろう。そんな端役に必死になって滑稽だと。

でも、どんな役だとしても、私は最善を尽くしたい。憧れのあの人に恥じぬように、そっと見つめるだけの人、その役者魂に少しでも近づけるように。

スポットライトはあの人のためにある。あの人と並んでヒロインを演じる役者のためにある。その外側で、エキストラの私は。

明日、このドラマ撮影が中止になったとしても。
あの人を思い続ける。それだけ。


台本を受け取り笑顔を浮かべる女性の役者さんをイメージして。
いつか、この主人公にもスポットライトが当たることを祈って。
BingAI生成画像です。

 【fin】
総字数:1115字(原稿用紙三枚相当)

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