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#113 東京暮らし、たどりついた食材選びと調理法

#毎日の風景をつくるごはん

新連載、はじめました。

マガジン「食と農と風景」は、”研究と日々の暮らしのあいだに”がテーマのマガジンです。にもかかわらず、実践につながるような記事が少ないという課題がありました。そこで、「写真ベースで手軽に見れて、マネしやすい」に特化した連載、「毎日の風景をつくるごはん」をはじめることにしました。

この記事は、連載を始めようと思ったきっかけ、食材選びのマイルール・調理の基本とその背景にある考えについてまとめたものです。

1.きっかけ、Instagramでの思いがけない反応

昨年の3月頃からInstagramのストーリーで、自炊したごはんやその調理過程、食材をアップしはじめた。きっかけは京都亀岡の直売所めぐりと、坂ノ途中の旬のお野菜の定期便をはじめたこと
ちょうど緊急事態宣言が出る少し前の自粛生活が始まったばかりの頃だった。大学や研究室活動がほとんどオンラインに切り替わったこともあり、毎日ごはんを作ってはストーリーに投稿していた。
それから一年が経とうとしている。

以下の写真はInstagram上げていたストーリー。

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調理の過程や直売所の風景、買った野菜で作ったごはんを載せてみたり、

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普段は捨ててしまう、ほうれん草の根っこの美味しさへの驚きや、

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紫大根の色の美しさなど、その日その日の小さな発見や驚き、感動を載せている。

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こんな感じで約一年間投稿続けていたら、ありがたいことに友人から思いもよらない反応があった。

・投稿見て坂ノ途中のこと調べてみた。すてき!
・わたしも定期宅配始めたよ!野菜美味しいね。
・こういうシンプルなごはんのレシピが知りたい!
・実はいつもおいしそうだなと思ってみてた。
・おすすめの玄米どこで買えるか教えて!
・この食材こうやって食べたよ~
など…

そのおかげで、
・思った以上に投稿を見てくれている人がいるし、食に興味を持っている
・最近はたくさんのレシピ動画が出ている割には、素材を活かしたシンプルなレシピは少ないし、知りたい人がいる

という気づきがあった。そこで、毎日のごはんをInstagramのリアルな友人だけでなくて、もっとたくさんの人が見られるnoteで公開してみよう!と思った。
そうすれば、もっとたくさんの人が食べることに喜びや幸せを感じられるかもしれない。生産地や生産者のことを想像したり、農業と環境の問題に関心を持つきっかけになるかもしれない、と。

2.「毎日の風景をつくるごはん」では結局何を書くの?

Instagramでは簡単な料理名(食材+焼くとか蒸すとかの調理法)や心の声を載せているだけなので、noteではもう少し具体的に、実践しやすいような情報を載せていこうと思う。

◆内容と形式①季節毎のごはんの写真に、食材名、簡単なレシピ、その他コメント
普段の投稿ではテキストノートの機能を使っているが、写真がメインのイメージノートを使う。
②料理に関するコラム
文章主体の記事で、これまでと同じテキストノート機能を使う。

◆投稿頻度
①は月に2回(二十四節気ごと)で続けていきたい!
②は不定期更新

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このような形式で、長い文章を読まなくても、写真ですぐに分かって、マネしやすいようにしたいのだが、やっぱりその背景にある考え方も知ってもらいたい。
ということで、私が毎日のごはんづくりで考えていることやその考え方が持つ意味をここに書き留めておく。

3.食材選び

先ず、ルール以前に大事にしているのは、旬と鮮度。旬のものは手ごろな値段であることが多いし、おいしく楽しく食べるために鮮度は重要な要素だからだ。もう一つ、大事にしていることは、正当な対価を払いたいということだ。正当であるとはどういうことなのか、どんな基準で選んだらよいのかは迷うことが多い。そこで、私は「風景をつくるごはん」という概念を参考に、都市部に住む自分でも実践可能なマイルールを決めているのだが、マイルールの紹介の前に、「風景をつくるごはん」について紹介しよう。

3-1.「風景をつくるごはん」の意味とルール

「風景をつくるごはん」は、農村景観や石積みの研究をしている真田先生(現・東工大)が徳島大学にいたころに考えた、農村風景を守っていくための食材選びや食べ方のことを言う。

農村や漁村の美しい風景は、そこに住む人たちの生活の姿であり、農業や漁業に携わる人々がいなければ失われてしまう風景でもある。厳しい状況に立たされている生産者の人々や、地域を応援することで、これから先もこの風景を楽しめるようにしよう、という思いでこのプロジェクトが始まったそうだ。
ちなみに「風景をつくるごはん」という名前は、自分のごはんが、まわりまわって田舎の風景をつくっている、という意味を込めて名付けられた。(参考*1:風景をつくるごはん~はじめに~

「風景をつくるごはん」のルール
1.基本は徳島県内産の食材
2.選べるときはなるべく過疎地のもの
3.出来るだけ産直市で購入
4.調味料など難しい場合は四国内
5.旅行先で買ったものはOK(むしろ積極的に)
6.それ以外は、無農薬、有機栽培のもの(地力を落とさない)

「風景をつくるごはん」のルールは徳島では実践できても、大都市東京でそのまま実践するのは難しい。なので、次にこのルールを自分用(東京都在住)にアレンジした「食材の選びのマイルール」を紹介する。マイルールと言ってもそんなに厳しいものではないので気軽に。

3-2.食材選びのマイルール

1.近隣の直売所やスーパーの地元野菜コーナーで購入

東京郊外や世田谷、練馬辺りなら比較的実践可。本当に都心部の千代田、中央、港区とかは難しいかもしれない。

2.地元の原材料や、伝統製法で作られた調味料(塩、しょうゆ、みそなど)をオーガニックスーパー・自然食品店で購入

近いかどうかはあまり気にしない(気にすると揃えられない)。マクロビオティックの食材店は国産の調味料を豊富にそろえていることが多い。

3.旅行先でその土地の食材・調味料を購入

その地域の農産物を買うことで地域にお金を落とす意味がある。

4.無農薬、有機栽培のものを買う場合は、共感・信頼できる宅配を利用

私は環境負荷の低い農産物を扱う坂ノ途中の定期宅配を利用している。

解釈のポイント
・「過疎地のものを選ぶ」を外した理由
東京で生活していると、どこが過疎地かを考えて購入するのは難しい。例えば徳島だったら、地元のスーパー「キョーエイ」に行けば、細かい産地がパッケージに書いてあって、「この辺は過疎ってるだろうなー」と多少は想像できるが、都内のスーパーで都道府県以下の産地が書いてある野菜はあまり見かけないし、もし書いてあったとしても過疎地かどうかの判断が難しく、いつまでたっても買い物が終わらない。なので気にしないことにした。

・有機野菜の購入に宅配を使う理由
最近オーガニックスーパー巡りをして分かったのは、都内のオーガニックスーパーの野菜は値段が高すぎて日常的に買えないし、鮮度も当たりはずれがあるということ。なので私はオーガニックやそれに準じる食材を扱う宅配を利用している。野菜の宅配は色んな会社があるので、自分のライフスタイルや好みに合わせて選ぶのが良いと思う。(坂ノ途中をはじめたきっかけ:今日、何食べる? 食材から料理を決めよう

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3-3.個人的に付け加えたマイルール

①輸入食材は「EUの認証マーク」付きのものをなるべく選ぶ

5. EU共通・各国の食材(チーズやオイルなど)の原産地呼称マーク
6. EU共通・各国の酒類の認証マーク(オーガニックやビーガンなど)

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(写真:普段使っているオリーブオイルとバルサミコ酢)

ヨーロッパ留学中に各国のおいしいごはんのつくり方を知ったのだが、やっぱり日本の食材では代用できないものもある。たまの楽しみで作るときは認証マークのあるものを選ぶようにしている。

②食材のカーボンフットプリントを少し気にしておく
牛肉は食べないけど、バターとか使ってしまいがち。一応頭の隅に入れている。

4.調理の基本

◆道具の基本
包丁、まな板、小さめのフライパンと厚手の鍋
ひとり、ふたりなら15㎝か20㎝のフライパン一つで事足りる。あとは、オイル蒸しや茹でるのに使う厚手の鍋(私は鋳物ホーロー鍋を使っている)が一つがあれば十分!

キッチンに余裕があるなら、もう少し用途に合わせて、雪平鍋などを揃えてもいいだろう。

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(写真:毎日使っている雪平鍋、フライパン、鋳物ホーロー鍋)

◆調味料の基本
・塩
その他に、しょう油、みそ、だし、酒、みりん、酢、各種スパイスなども使う。

(ほとんど使わない調味料)
・砂糖
ジャムなど保存食を作るとき以外は使わないようにしている。代替品としてみりん、蜂蜜、メープルシュガーを使っている。

・合わせ調味料やドレッシング
基本的にはある材料を混ぜて作る。例えばドレッシングは、塩コショウをサラダにかけて、オリーブオイルとバルサミコ酢を書けるだけで十分おいしい。気になる合わせ調味料(鍋の素やソースなど)があったら、パッケージ表示から何が入っているのかを見て再現してみることもある。

◆油の基本
・ごま油、オリーブオイル
本当は国産のものにしたいけれど、手に入りやすさと値段から今のところこの2種類。
バターも使う。フランス・ベルギーに住んでいた頃にバターの美味しさに気づいてしまって…たまに食べたくなる。

◆調理法の基本
・焼く、茹でる、蒸す、漬ける

「焼く」と言っても、ライパンで食材を動かさずに焦げ目をつけるソテー、蒸し焼きやグリル焼きなど色々ある。焼き方を変えることでレパートリーはぐっと増える。

「茹でる」はシンプルだけど、塩加減や茹で加減に気をつかうと野菜がおいしく食べられる。

「蒸す」はめんどくさそうと思うかもしれない。確かにせいろで蒸すのは面倒。なので鍋に多めの油をひいて、野菜を入れ、蓋をして数分ほおっておくだけのオイル蒸しをすることが多い。

「漬ける」は、生野菜を塩もみしたり、ピクルスにしたりする。加熱したものとは食感や舌ざわり、風味が違って楽しい。何より手軽。

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こんなたくさん書くと、ストイックだと思われるかもしれないが、結局は美味しくて、手軽で、健康的でいられるように食べていたら自然とこの形で落ち着いただけだ。
そしてこれはあくまでも”マイルール”なので、それぞれが楽しく実践できるちょうどいい加減に調整したり、おいしいと思う定番味付けを探してみるのもまた楽しみだと思う。時間の余裕がなければ毎回作らなくたっていい(私は朝昼一緒で1日2食+おやつが定番スタイル)。

5.この連載の背景にある考え・期待すること

ここまで、具体的な実践方法について書いてきた。そこからも背景の考えが読み取れたと思う。で、最後にわざわざ何を書くのかというと、私が”個人的に”この連載に期待することである。

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はじめにも書いたが「食と農と風景」は、”研究と日々の暮らしのあいだに”がテーマのマガジンで、以下の興味関心に基づいて、事例や書籍、実践の記録を発信してきた。

・持続可能な農業はどのようにして実現できるのか?
・新しい技術の登場、農業と環境問題への関心が高まってきている今、いかにして農業を続けていく事ができるのか?農村景観を守れるのか?
・自分も含め、農業従事者でない都市に暮らす人ができることは何か?

細々とマガジンを更新する中で、説明することで興味をもってもらう、分かってもらうことの限界を感じていた。曖昧で複雑なことを一つの記事として切り取り、まとめることの難しさもあった(単に文章力不足というのもある)。

でも、私が食べることを通じて得たものは計り知れす、それをどうにかして伝えられたらという気持ちもあった。私にとって食べることは、世界を広げることであり、日々の楽しみであり、友人とのコミュニケーションのきっかけでもある。そして心身ともに健康であることにも関係しているから。

何かに思い悩んでいるとき、少し時間を取ってごはん作りに集中し、よく噛んで味わって食べる。
言葉で伝えるのが難しくても、おいしいものと一緒にささやかな楽しみの時間をプレゼントする。

というような、ちょっとした工夫と物事の受け取り方を変えれば、日常にある小さなことを楽しめるし、身近な人にもその楽しみをおすそ分けすることができる。こんな簡単に日々が豊かになるなら、すすめない理由はない。

ただ、「こうすべき」とか「○○した方が良い」というような伝え方はしたくなかった。この記事で書いたことは、あくまでも私のスタイルであり、皆がこうしたことを自分で工夫して、自分のスタイルで実践するための役に立てればと思っているからだ。

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以前から思っていたことではあるが、より強く思うようになったきっかけとして「暇と退屈の倫理学」という本がある。著者の國分功一郎は、”楽しむことは思考することにつながる”(p.365)と述べている。また、楽しみ、思考することができる人は、おそらく、自分に関わる問いだけでなく、他人に関わる事柄を思考することができるようになるそうだ。

この本を読んだときに、毎日のごはんには、食の楽しみという自分の利己的な関心から、生産者を取巻く課題や環境負荷といった利他的な方向へと思考を広げていくヒントがあるように思った。

「利他的な」とか「自分事としてとらえる」が重要だけど一番難しいと感じている。環境保全意識の高い欧州とは価値観の異なる日本で、どんなやり方で進めていくのが良いのだろう?この連載がそれを考える場になること、そして一緒に考えてくれる人が少しでも増えることを、こっそり期待している。

参考文献

1.風景をつくるごはん~はじめに~

2.國分功一郎(2015):暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator):太田出版

終わりに

今回は長い文章を書いてしまったけれど、これからは写真投稿が中心なので、気軽にみてもらえたら嬉しいです!次回のコラムでは、「毎日のたべものと気候変動」に関する話題が活発に話されていそうなフランスについて書いてみようかと思っています。

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おまけ:Notionログ

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「毎日の風景をつくるごはん」とは別に、Notionでもたべものの記録をしています。こちらには、友人と行ったカフェで飲んだコーヒーから家でのおやつに至るまで、とにかく食べたもの全てが載っています。納得度を5段階で評価していたり、どこのお店で買った・食べたかもわかるようになっていてプライベートダダ漏れなので、知り合いで見てみたい!という方がもしいれば、個人的に連絡ください。URL教えます。


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