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#82 世界中のワインのエコラベルを集めてみたら

#農産物認 #事例 #論文まとめ

Inventory of environmental certifications throughout the world

2019年に発表された世界中のワインのエコラベルを調査した研究論文(フランス語)を紹介します。論文はこちら↓

V. Lempereur, M. Balazard et C. Herbin(2019)
Inventory of environmental certifications throughout the world
42nd World Congress of Vine and Wine

Bioワインや、フランスのAOCワイン、イタリアのDOCGワインなどワイン好きなら一度は目にしたことがあるラベルから、その地域でしか見られないラベルまで…世界中にはワインに特化したラベルが数え切れないほどあります。今回紹介する研究論文は、その中でも特に“エコラベル”に着目し、その実態を把握しようと試みたものです。

今回の記事の構成は以下の通りとなっています。
・研究背景(ワインブドウ栽培の工業化とエコラベルの登場)
・調査から得られた世界のワインのエコラベル一覧
・持続可能なブドウ栽培とは(省略:次回の記事にまとめることにしました)
・欧州のエコラベル以外のワインラベルについて
・関連用語(フランス語)まとめ

・・・・・・

農業の工業化に対するワイン業界の対応としてのエコラベル(環境認証)

pp.1–2*論文中の該当ページ
科学技術の発展によって工業的な農業慣行が普及した。ワイン栽培も例外ではない。工業化された農業により農地は簡素化し、生物多様性や生態系の質、景観に影響を与えた。それに対しワイン業界では、持続可能なワインづくりを推進するための認証制度を作るなど、環境レベルでの動きがみられたという。

論文では、22か国、54の環境認証(うち33認証はブドウ栽培に特化)について、以下4つの要素によってカテゴライズしまとめている。

⑴ スケール;local, national, international
⑵ 適応エリア;vine, vine and wine, multi agricultural sector
⑶ 扱われる主題;environment, economic, social
⑷認証形態* ;voluntary, compulsory, individual or collective(自主的か義務か、個人か共同か)
*the dynamic of the approach

調査結果はアフリカ、北米、南米、欧州、フランス、オセアニアごとにまとめられているが、アクセスできる情報に制限があり全てを網羅しているとは言えないとのことだ。

画像1

調査結果(論文より引用)環境認証(エコラベル)が確認された国

画像2

大陸ごとの環境認証の数

画像3

結果の例(論文より引用);北米の環境認証

Figure 4.は北米の環境認証の概要をまとめたものである。このラベルはカナダ・ブリティッシュコロンビア州のラベルでる。環境と社会に関する持続可能なワイン生産のための基準が設けられている。

論文中では、このように大陸ごと(アジアを除く)に表にまとめられている。
以下に表の読み方について簡単に解説する。

・・・・・・

・左列;Pays=国
()内、Etendue=スケールを意味しラベル使われている地域の範囲を表す。
Etendue régionale+○○=リージョナル・スケール(ある地域、州、県名)
or
Etendue nationale=ナショナル・スケール(国内)

・中央列;Certification=認証認証名とラベル。
*Application:filière vins=適応:ワイン業界

・右列;Champs d’action=行動分野
その認証が、Environnement(環境)・Economie(経済)・Social(社会)のどの側面での持続可能な行動を求めているのか、またその概要の説明。つまり、認証基準で求められている栽培法や農地の管理法が書かれている。

エコラベル一覧

pp.3–6
論文中で表にまとめられているエコラベルについて、国ごとに、スケール名称、Champs d’action、リージョナル・スケールの場合の該当地域をまとめた。*可能な限り画像に公式サイトまたはエコラベルサイトのリンクをつけている。

◆南アフリカ

ナショナル・スケール

①Integrated Production of Wine (IPW)
Champs d’action:環境

概要を説明している非k公式サイト↓

②Conservation Champion
Champs d’action:環境
サイト見当たらず

◆カナダ

ナショナル・スケール
①Sustainable Winegrowing British Columbia
Champs d’action:環境、社会

◆アメリカ

リージョナル・スケール
①Certified Green LODI Rules
Champs d’action:環境、経済、社会
地域:Lodi,カリフォルニア州

②California Sustainable Winegrowing
Champs d’action:環境、経済、社会
地域:カリフォルニア州

③SIP
Champs d’action:環境、社会
地域:カリフォルニア州とミシガン州

④Napa Green
Champs d’action:環境、社会
地域:Napa Valley,カリフォルニア州

⑤Long Island Sustainable Winegrowing
Champs d’action:環境、経済、社会
地域:Long Island,ニューヨーク州

⑥LIVE Certified Sustainable
Champs d’action:環境、社会
地域:オレゴン州、ワシントン州、アイダホ州

◆アルゼンチン

ナショナル・スケール
①Certificado de sustentabilidad – Bodegas de Argentina
Champs d’action:環境、社会

◆チリ

ナショナル・スケール
① Código de Sustentabilidad – Vinos de Chile
Champs d’action:環境、経済、社会

◆オーストリア

ナショナル・スケール

Champs d’action:環境、経済、社会

◆スペイン

ナショナル・スケール
①For Climate Protection Wineries
Champs d’action:環境

リージョナル・スケール
②Programa de sostenibilitat do costers del Segre
Champs d’action:環境、経済、社会
地域:Costers del Segre

◆イタリア

ナショナル・スケール
①Equalitas
Champs d’action:環境、経済、社会

②CasaClima Wine
Champs d’action:環境

③V.I.V.A La sostenibilita del vino
Champs d’action:環境

リージョナル・スケール
④SOStain
Champs d’action:環境
地域:シチリア

⑤Valpolicella RRR
Champs d’action:環境
地域:Valpolicella

◆スイス

ナショナル・スケール
①Vinatura
Champs d’action:環境、経済、社会

◆フランス

ナショナル・スケール
①Haute Valeur Environnementale
Champs d’action:環境

②Terra Vitis
Champs d’action:環境、経済、社会

③Vignerons en Développement Durable
Champs d’action:環境、経済、社会

リージョナル・スケール

Champs d’action:環境
地域:Champagne

⑤ Viticulture Durable Cognac
Champs d’action:環境、社会
地域:Cognac

⑥Système de management environnemental du vin de Bordeaux
Champs d’action:環境、社会
地域:Bordeaux

◆オーストラリア

ナショナル・スケール
①Sustainable Australia Winegrowing
Champs d’action:環境、経済、社会

②Freshcare environmental viticulture
Champs d’action:環境

◆ニュージーランド

ナショナル・スケール
①Sustainable Winegrowing
Champs d’action:環境、経済、社会

なお、ワインと共に野菜などの農産物全般を扱う有機認証はここに含まれていない。アジアが項目に含まれないのはそのためである。

アジアで環境認証にカウントされている三つ

p.7

◆日本

有機JAS

◆中国

China national organic product standard GBT19630

◆韓国

KOR

*論文中の表記のまま書いているが、実態不明

持続可能なブドウ栽培とは?

pp.1–2
フランスぶどう・ワイン研究所(IFV)は、(INAO)と共同で「ブドウ栽培におけるアグロエコロジーのガイド*」を公表した。*un Guide de l’agroécologie en viticulture

このガイドでは、ワイン栽培における環境対策として以下の五つのテーマに沿って具体的な戦略を紹介しているそうだ。

・生物多様性の保全と発展・肥料のコントロール/削減
・殺虫剤と生物防除の使用低減・より良い水管理の研究
・より適切な植物材料に頼る(使用する)

読み込むには時間がかかりそうだが、読んだら記事にしたいと思う。

また、「農業における持続可能性」についても、次回の記事でまとめることにする。→Coming soon !

欧州のワインラベルについての補足

EUには、エコレベルとは別に地理的表示保護制度(EU規則)に基づいた品質保証ラベルが存在する。

◆Appellation d’Origine Protégée(AOP)=原産地呼称保護

要件【欧州議会・理事会規則(EU) No 1151/2012 第 5 条(1)】
(a)特定の場所、地域、まれに国を原産地としていること
(b)製品の品質や特性が、本質的または排他的に、自然的・人的要因を備えた固有の 自然・地理的環境によるところが大きいこと
(c)生産工程のすべてが一定の地理的領域で行われていること

ex:フランスワインではAOC、イタリアワインではDOCG,DOCに相当

◆Indication géographique protégée(IGP)=地理的表示保護

要件【欧州議会・理事会規則(EU) No 1151/2012 第 5 条(2)】
(a)特定の場所、地域、または国を原産地としていること
(b) 製品の品質、評判、その他の特性が、本質的に原産地に起因していること
(c)生産工程の一部が一定の地理的領域で行われていること

ex:フランス・イタリアワインではIGPに相当

◆Spécialité traditionnelle garantie(STG)=伝統的特産品保証

要件【欧州議会・理事会規則(EU) No 1151/2012 第 18 条(1)】(
a)伝統的な慣行に沿った生産、加工方法または組成から生じる産品・食品であること
(b) 伝統的に使用されてきた原料または成分から生産された産品・食品であること
【欧州議会・理事会規則(EU) No 1151/2012 第 18 条(2)】
(a) 名称が伝統的にその特定製品を指すのに使用されてきたものであること または
(b) 伝統的特性ないし製品の特定の特徴を識別できる名称であること
 ※「伝統的」とは 30 年以上を指す【同規則第 3 条(3)】

*引用;参考文献3:EUの地理的表示(GI)保護制度

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地理的表示保護制度に基づく品質保証ラベルは、エコラベルのような“持続可能なブドウ栽培”を目的としたものではないが、地域固有の自然・地理的環境、伝統と密接にかかわっていることから工業的な栽培ではなく、持続可能な栽培により近いものだと考えられる(これについては検証する意義がありそうだ)。

余談

論文を読んでみて、一年間農産物のエコラベルを研究していた私でも、見たことのないラベルがありました…。集めただけ?と思われるかもしれません。しかし、エコラベルの詳細を調べるには様々な壁があるのです。Google翻訳では意味が分からないもの、公式サイトだけでは実態を把握しきれないもの…なのでこれだけ網羅的に基本情報を集めたことに、この論文の意義があるように思います。

結果を見てみると、イタリアとフランスのラベルの種類が多い…!またフランスでは、論文だけでなくニュース等のメディアでもワインと環境に関する様々な情報が発信されています(おそらくイタリアも?)。そのことからもフランスではワインと環境はセットで考えられていること、また関心度が日本よりも高いことがうかがえます。(いつかLe Mondeの関連記事を紹介予定 )

フランス人にとってのワインは日本人にとっての何でしょうか?お茶?日本酒?ビール?ワイン好きの友人やフランス歴の長い友人に聞いてみましたが、やはり答えるのは難しいみたいです。ただ、食も文化もその地域さえも支える大事な存在であるとはいえそうです。

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世界中のワインのエコラベルを集めてみたら…

論文を読んで個人的に感じたことは、ワイン業界にはこだわりをもった人が多いのだろうということです。
一つの農産物について、世界中で同時多発的に認証がつくられた例は他に見たことがありません。試行錯誤しながらワインづくりを続けていこう、という生産者が多く存在することが結果に表れたともいえるるでしょう。

ワインについて知るほど、飲むときにも色んな楽しみ方ができるなあと思います。早く飲みに行きたい!

★関連用語(仏→日)

参考文献1はアブストラクトは英語、本文はフランス語となっているため、頻出用語について補足します。論文は単語とワイン栽培の基礎知識があれば、A2~B1レベルでも辞書を片手に結構読めます。

la vigne:ブドウの木、ブドウ園

le raisin:ブドウ(果実)

la viticulture:ブドウ栽培

le vin:ワイン

Institut Français de la Vigne et du Vin(IFV):フランスぶどう・ワイン研究所

Institut National des Appellations d’Origine(INAO):国立原産地名称研究所

Les pratiques d’agriculture intensive:集約農業慣行

Augmentation de la productivité:生産性の向上

la biodiversité:生物多様性

la qualité des écosystèmes:生態系の質

les paysages:景観

la filière viticole:ワインセクター(産業部門)

le développement durable :持続可能な開発

gestion de ~ :~管理
ex; gestion des intrants:投入物管理, gestion des ressources:資源管理, gestion de l’eau:水管理 etc.

参考文献

1)V. Lempereur, M. Balazard et C. Herbin(2019):Inventory of environmental certifications throughout the world:42nd World Congress of Vine and Wine

2)Zahm, F., Alonso Ugaglia, A. Boureau, H.,(2015): Agriculture et exploitation agricoledurables: état de l’art et proposition de définitions revisitées à l’aune des valeurs, despropriétés et des frontières de la durabilité en agriculture: Innovations Agronomiques,第 46 巻, pp. 105–125.

3)ジェトロブリュッセル事務所(2015):EU の地理的表示(GI)保護制度

おまけ:日本でエコラベル付きワインは買えるのか?


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