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忘れられない一言のこと


私は一時、ホテル内の結婚式場で仕事をしていたことがある。
業務は数え切れないほど沢山あるが、ざっくり言えば披露宴でお料理を出したりするスタッフだ。
その頃言われた忘れられない一言がある。

お日柄の良い土日の式場の裏側は戦場だ。
大小5つほどの式場が全て2回転という事もザラで、刻々と変わる状況に対応する為に常に人員配置を変えながらとにかくバックヤードをヒールでスタスタ歩く。シルバー(ナイフやフォーク)磨きをしていても、あっちの会場に移動!と指示が出れば作業が途中でもすぐに向かう。外の穏やかで丁寧な雰囲気とは裏腹に、中はスーパー体育会系である。

披露宴2回転の間の、その転換のことを「どんでん」と呼んでいた。どんでん返しのどんでんなんだろうが、そんな事をのうのうと聞けるような余裕は一切ない。1つ目の披露宴の最後の参列者の方を見送り会場のドアが閉められると、一斉に中のスタッフが片付けへと走り出す1分1秒を争う現場であった。

そしてその「どんでん」戦争の真っ最中にその一言は放たれたのだった。
大きな会場の披露宴が押してどんでんが間に合わない!と指示を受け他の会場から駆け付けた私は、初めての霧吹き担当を任される。霧吹き担当とは何かというと、食器やグラスを全て下げてクロスを張り替えるのだが、テーブルに新しいクロスを引いたあと、クロスの畳みジワの部分に霧吹きを満遍なくかけて綺麗に伸ばすのだ。しかしこの霧吹きの加減が難しい。繁忙日のどんでんの時間は極めて短い。次の披露宴が始まる時に霧吹きの水でクロスの色が変わっていてはだめなので、シワは伸ばすが次の開場までに乾く量でやらなきゃいけないんである。

ここでリーダーから声が飛ぶ。
「このテーブルの霧吹きやったの誰だ!」

私である。


タナカ「はい!!私です!!」
返事も大きくだ。

リーダー「どう見ても乾かないだろ!!もっと頭使ってやれよ!!」

タナカ「(ヒー!!)かしこまりました!!」


リーダー「かしこまってないで仕事しろよ!!」


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> かしこまってないで仕事しろよ!!<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


怒鳴り声にびっくりしてその瞬間は縮み上がったのだけど、冷静になってよくよく考えれば確かにそうである。

「かしこまってクオリティが落ちるぐらいなら、かしこまってないでちゃんと仕事しろよ。」

この言葉は当時の私には衝撃だった。
そうか、だからかと妙に腑に落ちて、自分の生活や音楽の事も含めて、思い当たる色んな事がひとつに繋がった瞬間であった。
この出来事以降私はお客様以外に「かしこまりました」という言葉を使うのを封印した。
かしこまりは私の場合自分の自信の無さだったりする。ガチガチの神経質&スーパーセンシティブの豆腐メンタルにかこつけてかしこまりで自分を包みまくってあらゆるクオリティに関しても恐らくそこに混同して甘えていた私は、この一言を音楽を続ける中で折に触れて何度も思い出し、実感する事になるのである。
失礼であってはならないけれど、自分でやると決めた事にかしこまってる場合ではないのだ。
今も現場に向かう時などはこの言葉を思い出す。とにかく出来ることは最大限やって、自分に誇りを持てと、腹にグッと力を入れるのである。

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その頃の私。
この写真で履歴書出した。

2020.11.28

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