緊急事態宣言やっちゅうのに、乳がんと言われましてん。033 「しかたない」

本当だったら、前回書けなかった入院中のことの一部を書くつもりでしたが、今日退院後初の通院をして、いろいろと思うところがあり、予定を変えて書くことにしました。いつもは敬体で書いてますが、今回は常体です。その方が、今は率直に書けそうな気がするので。

今の自分自身が置かれている状態は、いくつかの「しかたない」でできている。

前回の手術で採取したがん組織についての検査結果が出た。
当初は2.9cmと言われていて、抗がん剤治療中の経過のエコー検査では1cmくらいに小さくなったと言われていたがん組織が、実は2.4cmも残っていた。抗がん剤の効果にはグレードが1~3まであって、3が完全にがんが消失した状態とされるので、数字が大きいほど効いていることになるのだが、私の場合グレード1bと言われ、「まあ、そこそこ効いた」という程度だった。抗がん剤治療が進むにつつれしこりが小さくなっていたのを実感して、治療中は気持ちが(手術前の何週間かを除き)前向きになっていただけに、この結果はかなり衝撃的だった。「そこそこ」レベルであれば、血液に乗って体のどこかに流れていったかもしれないがん細胞の欠片を掃除しきれていないのではないだろうか? そう思うと自分の体が呪わしく感じられるが、ひとつだけ良かったと思えたのは、当初80%だったKi67が1%未満になっていたこと。Ki67は悪性度であり、増殖能を示す数値だが、31%で高いとされるのに3倍近くも高かったのだから、それが1%を切ったことはささやかな安堵を与えてくれた。
しかし、しこりが分かったときにがんだという診断が出ていたら、抗がん剤治療にいく前に手術して取りきることができたかもしれないと思う一方で、しこりの急速な拡大により、最初のきっかけとなった定期健診で異変が見つかったときに言われた「次は4か月後に来てください」を前倒しして、結果的にはその「4か月後」の半分でがんだと分かったんだと捉えることもできる。それでも確定するまでにちょっと回り道してしまったために、治療は通常よりハードなものになってしまったが、それは「しかたない」。

今後の治療について説明を聞いた時、放射線治療をしなければならないと知り、先月に受けた手術が終わったら、あとは薬を飲むだけだと思っていたのもあって不意にため息が出た。受けた方には失礼なのを承知で言うと、私が一番受けたくないと思っていたのが、この放射線治療である。ほんの数分の照射のために平日は毎日通院し、しかも副作用もあるという。特に今のコロナ禍の中、少なくとも電車には乗らないと通えず、しかも待合はかなりの密になる今の病院に5週間ほど、毎日通わなければならないのは精神的に堪えられないし、実際の治療よりも行き帰りの方が時間がかかるため、在宅勤務の時間も短くなってしまう。ただでさえいわゆる「中間層」と言えるか微妙な立場の自分にとって、5週間も勤務時間を減らされるのは厳しいものがある。しかし、放射線治療は、温存手術を選んだ場合は必須なのだと言われた。思えば、祖母・母・自分と代々乳がんになったから、もし遺伝子に変異が認められたらがんのない左側も合わせて両乳房を全摘し、ずっと自分を縛る鎖だった巨乳から解放されたかったのに、検査結果は陰性。がんのできた右側だけ全摘することもできたのだが、そうすると、常々悩まされている肩こりのある左側の乳房は残ってしまうため、左右のバランスが崩れる結果肩こりが悪化してしまう。だから、QOLを悪化させないよう「しかたなく」温存を選んだ。

そして、放射線治療をするという話のついでに、ワクチンは今月の18日に打ちます、という話をしたが、早いうちに打ちなさいと釘を刺された。
実を言うと……私は、このワクチン接種について、本当は気が進まない。mRNAという新しい技術を使ったワクチンは、今までの予防接種ではなかった機序を体の中で起こす。副反応が多いと言われるのも、体にスパイクタンパクを作らせ、それを抗原として提示するというmRNAワクチンのしくみがかかわっているのではないか。mRNAワクチンのしくみを頭では理解していても、スパイクタンパクの作られ方に個人差があったりして、それが副反応の強弱に現れるのではないかとか、タイミング的に手術後でなければワクチンを受けられなかったのだが、抗がん剤治療を経て手術をし、大きなダメージを受けているはずの自分の体がそれに耐えることができるのかという不安があった。もし、組み換えタンパク方式のノババックスのワクチンがもっと早い段階から打てていれば悩むことはなかったのだが(アメリカはなぜ副反応が少なく安全性も高いとされるワクチンの認可を渋るのだろうか?)、いずれ職場に復帰することを考えると、ノババックスを待たずmRNAワクチンを打たざるを得ないだろう。それが、放射線治療をすることが決まったことにより若干だが予定が早まった(やはり、患者の多い病院に通うことは感染リスクがある。しかも毎日電車に乗ってだからなおさらだ)。病院から帰宅して、自治体の接種予約を1週間前倒しした。職場復帰だけでなく、がんの完治を目指すためなら、本当なら別のワクチンにしたいと思っていても、今の段階では選べないのだから「しかたない」。

「しかたない」、今のところ自覚しているだけで3つ。

ここからは蛇足です。

ワクチンに関してはいろいろな考え方があると思う。ただ、今回のがん治療において、多くの人がどんどんワクチンを打っていく中でデルタ株の大流行が起こった。日本は検査数が他国に比べ少なく、しかも無症状でも他者に感染させることができるコロナウイルスを誰が持っているか分からない街中に出るのは、治療スケジュールの都合上ワクチンが打てなかった私にとっては恐怖でもあった。もう、そのスケジュールには縛られずにワクチンは打てるようにはなったが、それでも、ワクチンが打てない体質の人もいる。事情があってワクチン接種を止められている人もいるだろう、ある一時の私のように。ワクチンを「打てない」、あるいは「5G体質になる」などといった荒唐無稽なものではない不安により打つのをためらう人を責めるようなことは、私はしたくない。「大切な人を守る」とは言うけれど、その「大切な人」を悲しませる結果にすることは、ワクチンを打つ打たないにかかわらず、避けたいと思うのが人情ではないか。それに、「大切な人」なんて言わず、正直に自分のために打つって言う人がいたっていいだろう。世間体を考えて「大切な人のため」という人よりよっぽど清々しいと、私は思う。

あくまでも、私の考えである。これをどう思うかは、自由だ。

コロナ禍の中、乳がんになって……一つひとつの命に優しい世界であってほしいと願います。貴重なサポートは、各種がん闘病に関わる団体や保護猫活動に充てさせていただきます。