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「噛まない猫ちゃんはどの子ですか」

ある日のこと。

ボランティアをしている保護猫カフェに親子連れが遊びに来ていた。

小学校3、4年生くらいの女の子が、お母さんの洋服をぎゅっと掴んでしゃがんでいた。
猫に触りたいけれど怖くて触ることができない様子。
おやつをあげたいけれど猫が近寄ってくると怖い。
猫とおもちゃで遊びたいけれど、素早く動き回ると怖い。
撫でてみたいけれど、伸ばした手に猫がふり返ると怖い。

「猫ちゃんが怖いのかな?」
たずねてみるとコクリと頷きながら、不安と好きな気持ちのまざった視線は猫から離さない。
「一緒に撫でてみますか?」
女の子はぱっと顔を上げた。
「撫でられる?」
「撫でられますよ、大丈夫」
嬉しそうな顔をしたあと、女の子に尋ねられた。

「噛まない猫ちゃんはどの子ですか?」


…噛まれたことがあるから怖いんだ。
でも、猫とのことはとても好きなんだね。

話を聞くと、祖父母の家にいる猫ちゃんと仲良くなりたいけれど触らせてくれる子ではなく、引っ掻かれたり、噛まれたりしてきたそうだ。

「どの子が噛まない?」

わたしはフロアを見渡して、1匹の茶トラを指差した。
人が好きで、遊ぶことも、撫でられることも、抱っこも大好き、天真爛漫で無邪気な1歳の男の子。
ちょうどまったりしていた彼は、女の子の膝にのせるとそのままウトウトし始めた。

「か…かわいい…!初めてお膝に猫ちゃん。初めてこんなに触ったの。かわいい…かわいい!!」
「良かったね、この子も気持ちよさそうだよ」
「かわいいなぁ。この子は噛まないもんね?」

ニコニコと話しかけてくる女の子に同意することもできたけれど、わたしはそうしなかった。
猫という生き物は、噛まないからかわいいのではないし、おとなしいからかわいいのではない。
猫たちにも性格や感情があって、噛んだりひっかいたりするのには理由があることを知って欲しかった。

「絶対に噛まない猫ちゃんはいないかも」
「えっ…」
凍りつく女の子。ごめんね。(苦笑)
「猫ちゃんたちにも、人間と同じように機嫌がいいときと悪いときがあります。
眠たいのに起こされたら嫌だし、ひとりでいたいのにかまわれるとイライラすることもあるかな。
怖いときや驚いたときにも引っ掻いたり噛んでしまうこともあるの。
猫ちゃんは人間と同じ言葉ではお話できないから、猫ちゃんの顔や様子をよく見て、こちらが猫ちゃんの気持ちに気づいてあげて、嫌がることをしないことが大切かな」

女の子は凍りつきながらもしっかりと話を聞いてくれて、自分の膝で気持ちよさそうに眠る猫の顔をじっと見つめていた。
自分のリズムで猫の背中を撫でていた手が、だんだん眠っているのを気遣うようにゆっくりと優しくなっていくのを見たとき、この女の子はこれからもっと猫と仲良くなれると思った。

お母さんも猫との暮らしに前向きで、いつか家族に迎えられたらと考えているとのこと。

いつか、そんな日が来て、猫との素晴らしい生活を体験してもらいたい。
猫との暮らしは、きっと家族に笑顔を会話と癒しと、そして愛を増やしてくれるから。


1匹でも多くの猫が幸せになりますように。

1人でも多くの人に猫との素晴らしい出逢いがありますように。


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