結婚

好きな人が結婚した

私の好きな人が結婚したのは、
私が派遣を切られる2日前のことだった。

派遣を切られた日にはちょっといいお酒を買って
また来月から違う現場で頑張って家賃を稼ごうと
そう思って残りの2日を迎えるはずだった。

たったさっきまでは

好きな人と言っても、推しである。
会ったことも話したこともなく、
なんなら画面越しにしか知らないのだから
向こうが私のことを知るはずもない。
大勢いるファンのうちの一人くらいには思っているかもしれないが、少なくとも名前も顔も知らない人なのだ。

かと言って私も好きな人のパーソナルなことは
何一つ知らないのである。
画面を通して音を通してしか知らない
つまりカメラもマイクも向けられていない状態は
わからないのだ。

好きな人が結婚した。

アイドルと結婚できると思っていたわけではない。
ただ、誰かの家族に扶養する家族がいることに
しんどさを感じてしまうのだ。
今までの応援の仕方とは変わってくるだろう。
もうなんというか、
大切な誰かを守り守られる立場になった好きな人に、
私は愛を叫ぶことができなくなってしまった。

明日からの仕事はきっと使い物にならないだろう。
好きな人に似た名前や単語どんなものにだって結びつけて
勝手に落ち込み、喜べない自分に腹が立ち
いつかは飲み込めると思いつつ生きるのだろう。

どうか幸せであってほしい私の未来が。
彼が私の視界に入らなくなる頃にはきっと、
きっとそんな日は来ないのだろうけど
いつか私が絶対に幸せになる日まで
私は家賃を稼いでいこう。


金曜日は酔えるお酒を買って帰ろう。
好きだった真っ直ぐに追いかけた頃の自分に献杯する為に

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