マガジンのカバー画像

短編小説

19
NOTEに投稿した短編小説のまとめです。
運営しているクリエイター

2022年8月の記事一覧

短編小説:今は年に一度の山田さん

ご近所さんと挨拶をする話。約850字。 —————————————————  懐かしいバス停のベンチで、一年ぶりに山田さんに会った。 「こんばんは、橋本さん。お久しぶりですね」  山田さんは丸まった背を揺らし、去年と同じようにふがふがと笑う。  私もそれに笑って返した。 「こんばんは。今年も山田さんとお会いできて嬉しいです」 「橋本さんはお変わりありませんでしたか?」 「おかげさまで。山田さんもお変わりなさそうですね」  私たちは笑いながら、実のあるようなな

短篇小説:きみとキャンディを食べたいから

ケンカした友だちと謝り合うお話。約2300字。 「あたし、実は、三十年後から来たの」  放課後になり、校舎を出たところで私を待ち伏せていた菜々美は、仁王立ちになってそんなことを言いだした。  菜々美の顔は大まじめ。  けど、突っ込むだけでバカらしいし、そんな気分になれない。菜々美の横をすり抜け、私は校門目指して歩いていった。 「あー、もう、待ってってば! 無視しないで! せっかく三十年後から紗良ちゃんに会いに来たのに!」  演劇部らしく、菜々美の声は通り過ぎる。仕方な