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30年

行き慣れた地の、行き慣れない場所。
知っているようで知らない風景は、ちょっとした違和感をわたしに連れてくる。

集まって来たのは、明らかに知っている懐かしい顔と、ぜんぜん知らない顔と、変わりすぎてて誰だか分からない顔と。いやいや、思い出せなかった皆さん本当にごめん!だがこちとら30年前の記憶しかないのだ。少々わからなくても、お互いさまというものだろう。

みんな平等に歳を重ねたはずなのに、集まると会場の空気があの時に戻る。話の内容は30年前に想像もつかなかったことばかりだ。仕事の話、恋人の話、配偶者の話、子どもの話。話す内容と声のトーンの差にまた、ちょっとした違和感を抱く。

子どもの話をしている真っ最中に、はるまふじの好きだった人は来てる?と友人に訊かれた。思わず飲み物を吹き出しそうになる。よく覚えてるね?とツッコミながら、「来てるよ」と嘘をついた。

なぜそんな、会場を見渡せばすぐ分かる嘘をついたのか、わたしにだって分かりはしない。

顔が見られたら嬉しかったし、あいさつぐらいは交わしたかったと思う。友人の好きだった人は居たので、うらやましかったのかもしれない。

年相応の落ち着きが加わった、数年前の「明らかに知っている懐かしい顔」を脳裏に思い浮かべる。あの時、どんな話をしただろうか。家族のこと、仕事のこと。いまみんなとも交わしている、たわいない話ばかり思い出す。

写真はあっただろうか。

「こいつバツ2なんだって!」の声で我にかえる。「え?マジ?」ととりあえず乗っかっておく。

あとで写真を探してみることにしよう。

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