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下北沢でカレーではなくベトナム料理を食べる

下北沢を訪れたのは、大学生の時以来だ。

実に20数年ぶりに、本多劇場へ足を運んだ。お目当てはKERA・MAPの公演『しびれ雲』。ここ最近は、圧倒的に日比谷界隈への出没率が高かったわたしにとって、久々の下北沢はちょっと懐かしい。かといって、目の前には記憶の中にある下北沢とずいぶん光景。

早めに着いたし、軽く夕食でも食べようか。どうやら最近、下北沢はカレーで有名らしい。ではカレーの店を探して…とスマホがおすすめしてきた店へ向かおうとした時、目の前にベトナム料理の店が。

ふいに、大学生の自分がよみがえる。

ごちゃごちゃと、まるで統一感のない街並みのあちこちにある劇場。マルシェ下北沢をなんとなくひやかして、お目当ての劇場に向かう。小さくて座り心地最悪の劇場に、ひしめくわたしたち。わけがわからないほど高揚したのも、金返せと怒りたくなったのも、熱をもって観に行ったからこそ。街のあちこちで、演者も観客もエネルギーを間欠泉のように噴き上げていたころ。

なぜかつい、ふらふらとベトナム料理店に入ってしまった。

なんか、こんなの。

コロナ禍でなかなか外食もままならない中で、久しぶりにお店で食べた料理は、とても美味しかった。ボリュームたっぷりの鶏肉は柔らかくて、たくさんあったのにあっという間になくなった。一息ついて周りを見てみると、店内はカップルばかり。

なんだかお尻がムズムズし始めたので、さっさと食べて店を出た。

カレーを食べようと思っていたはずなのに、どうしてこうなったんだろう。屋台っぽい店が並ぶ通りを歩きながら劇場へ向かいかけた時、またわたしの頭の中に、昔の下北沢が浮かぶ。

「マルシェ下北沢」の文字が目に飛び込んできて、ふと気づいた。

20数年前の下北沢が放った熱と猥雑さが、わたしにエネルギッシュなアジアの街を思いださせたのかもしれない、と。


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