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浦井健治さんが三たびチャーリィ・ゴードンに挑む ミュージカル『アルジャーノンに花束を』

ダニエル・キイスの小説『アルジャーノンに花束を』。
SF小説の名作として有名な本作は、世界中で映画化され、日本ではテレビドラマ化されること2回、舞台でもたびたび上演されている。

この作品を貪るように読んだのは、いったいどのくらい前のことだっただろう。泣きながら読み終えた時、頭に浮かんだアルジャーノンのお墓と花束と、チャーリィの優しさに胸が締め付けられたことを覚えている。

2023年版ミュージカル『アルジャーノンに花束を』を4月29日に観に行った。上演すると聞いたのは、昨年の夏。チャーリィ・ゴードン役は3度目となる浦井健治さん。

浦井健治さんは2006年の初演と2014年の再演時にチャーリィ・ゴードンを演じている。その後2017年・2020年の上演は浦井さんではなくなっていたので、二度と浦井さんのチャーリィ・ゴードンは観られないと思っていた。どういうめぐり合わせか、観ることが出来ると知って素直に嬉しくなった。

あらすじをざっくり言うと、

重度の知的障害を持つチャーリィ・ゴードンは脳の手術を受けた結果高い知能を手に入れるも、急激な知的レベルの上昇が浮き彫りにするひと同士の関係に苦しむ。手術の反動で元の知的障害者に戻っていくさなか、チャーリィの胸に去来するものは・・・

という感じ。アルジャーノンとはチャーリィと同じ手術を事前に受けたネズミの名前で、アルジャーノンはチャーリィを写す鏡でもあり、行く末を暗示する存在でもある。

本作では「にんげん」の暗い部分があぶりだされ、ヒリヒリと痛みをもって迫ってくる。観るのがとても辛い。まるで内臓に鉄の塊を放り込まれたような重苦しさを感じる。もともと作品を覆っている重い空気は、生身の人間が舞台の上で演じることで、何倍にも増して心にのしかかる。

チャーリィを演じる浦井健治さんが、とにかく素晴らしい。歌やお芝居の技術的な話は言うに及ばず、こちらに見せる表情が多彩だ。特に知能が徐々に後退していくさまは、じっと見つめていると息が出来なくなる。

聞けばこの作品は、2006年当時まだミュージカルスターになる前の浦井健治さんの初主演作だという。こんな難しい役を?こんな難しい曲を?いったい何をとち狂ってそうなったのかは分からないが、初演時の彼の芝居は評価され菊田一夫演劇賞を受賞している。当時まだ20代前半だった浦井健治さんにとって、ひとつの大きな転機になった作品なのは間違いなさそうだ。

それから17年。圧巻の円熟した芝居を見せてくれた浦井健治さんに、心からの感謝を送りたい。本当にありがとうございました。

東京公演は5月7日まで、日本青年館ホールにて開催中。
機会あればぜひ劇場へ。とんでもないものが観られます。


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