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エッセイ集 『月とクレープ。』を読む

エヴェレストより高い山を、YAMATOさんは登っている。

新作『月とクレープ。』を読んだ。
食にまつわるエッセイ集に綴られる珠玉のレストランの一つは、標高5500mの高みにある。食べることを通じて描かれる登山隊メンバーとの関係には、絆と言うほどの湿度はない。だがたしかに体温が感じられる。

自身のがんばりで登山隊の中に居場所を見つけたYAMATOさんは、エヴェレストを越える高みへと登っていく。

故郷を飛び出し新宿に居を構えた彼の登頂先は、物書きという山だった。道行きは険しい。ときどき至高の味を体験しにレストランやバーを訪れ、自分への喝を入れる。アタック中の山はあまりに高い。どれだけ登ったら頂上にたどり着けるのか、見当もつかない。

けれども彼は登るのだ。自分にエールを送りながら、あきらめずに1歩ずつ歩みを進めるYAMATOさんは、とてもすがすがしい。

ちょうど向田邦子さんの名作エッセイ集を読み終わったところで、『月とクレープ。』との出会いがやってきた。向田邦子さんも大変な食いしん坊だが、エッセイに登場するのはほぼお家ごはん。食に対する切り口が、まったく違っていて面白い。

YAMATOさんは、いま物書き山のどのあたりに居るのだろう。少なくとも麓ではなさそうだが、山頂でもない。まだまだ、すごみを増していく予感がする。

次はぜひ、日常を食で切り取ってみていただきたい。


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