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財布の記憶

土屋鞄製造所。

ここに来るのは2回目だ。初めて来たのは、娘のランドセルを買いに来た時。あの日ただただ可愛らしかったあの子は、いまなぜか土屋鞄で財布を買いたいという。

スマホで調べてあった品について店員さんに訊き、あっという間に希望の財布を手にした娘。待ってる間に素敵な鞄たちを眺める。欲しい品もあったけれど、簡単に手が出る価格ではない。なんせ前に来た時60,000円だったランドセルの値札には、84,000円と書かれていたのだ。

あの日一目惚れして買った茶色の長財布は、いくらだっただろうか。帰ってからしまい込んであった茶色の財布を開いてみても、答えは見つからない。

代わりにローソンのレシートが出てきた。
2020年9月、とある。彼がいなくなった夏の日を思い出して鼓動が早くなる。

今の財布を鞄から取り出して眺めてみる。
2020年7月のあの日からネットを彷徨い、三浦春馬さんが愛用していたHIROKO HAYASHIの財布を買った。ひとつでも多く彼を感じられるものを、そばに置いておきたかった。まったく同じものではないにしても、お金をここから出すたび、カードを探すたび、彼を感じていたかったのだ。

古い財布から出てきた1枚のレシートが、曇り空のあの日の痛みをまた連れてくる。

こころが痛まなくなる日は、いつか来るのだろうか。

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