箱庭、はちみつトースト

 箱庭が欲しい、私だけの、特別な箱庭。

この喫茶店は私の行きつけなのだが、箱庭があって、今、その側の席に着いている。

目の前の彼は、ブロンズの髪をした、異国の少年のような男だ。

髪、自分で染めたんだ、えへへ、と笑う顔に浮かぶ笑窪。それを眺めて、こんなにまで無邪気な男はいないのではなかろうかと思った。

 ウィンナーコーヒーの要領で、生クリームが乗せられたミルクティーが、二つ、テーブルにカチャリ。

二人して、啜る。

この男が好きだ、そう思った。

それから、はちみつトーストが運ばれて来た。

どうして、はちみつトーストかって?それは…

まぁ、どうでもいいだろう。

サクリ、と一口齧ると、じわりとはちみつがパンに染みてくる。

私の味方の、甘さを最も感じる箇所が、溶けていくような感覚に陥る。

 それにしても、私は箱庭が欲しい、私だけの、特別な箱庭。

そこから、彼を眺めるのだ、こうして、はちみつトーストを味わいながら。

彼は、入ってはいけない、私だけの箱庭。

これは、愛の足りない恋愛なのかもしれない。

ただ、恋をしているだけで、愛と呼ぶには拙すぎる。

憧れ以上、愛情未満。

そんな彼をまるごと愛せるほど大人になるまで、私だけの箱庭にいさせて。

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