スマブラのプレイヤーランキングシステムと考え方の変遷

これは スマブラ Advent Calendar 2019の4日目の記事です。

はじめに

2019年になり、私が初めてスマブラ4のプレイヤーランキングを作ってから3年が経ちました。そして現在も最新作のスマブラSPのプレイヤーランキングを作り続けています。スマブラ界隈の事情に明るくない方々のために説明すると、スマブラの世界では公式のプレイヤーランキングが存在せず、ランキングはコミュニティによって作られます。例えば、世界ランキングはPanda Globalという(任天堂等のパブリッシャーとは関係がない)espotsチームによって作られているPanda Global Rankingsというランキングが主流です。その他にも地域や州ごとに独自のランキングが勝手に作られていて、日本のランキングは私個人が作るものが事実上の標準として受け入れられているという何とも不思議な世界です。過去に私が作ったランキングはこちらのページで見られます。

初めてランキングを作ったのがおよそ3年前でした。当時の私は、ほとんどの人がそうであるようにランキングなど作ったことが無かったので、まさに手探りの状況でした。色々と考えた結果、テニスのランキングのように、期間内に出場した大会の順位によってポイントが得られ、そのポイントの合計値でランキングが決まる、といったシステムにしています。

こう書くと、ランキング作りは単に大会結果を集計する無機質な作業に見えますが、実際にはスマブラ界隈特有の事情や、大会の回数や規模感、はたまた空気感などを感じ取りながらランキングシステムの微調整が必要な作業です。例えば、チェスなどで用いられているレーティングシステムをそのまま適用すると、多くの人の直感とはかけ離れたランキングが出来上がったりします。

(ちなみにランキングシステムの調整は、おおよそどんなランキングシステムにも必要なものです。例えばサッカー男子のFIFAランキングは2018年のW杯が終わったタイミングで大幅なシステム変更がありました。)

さて、3年前と今とではスマブラ界隈の大きく変化しました。それに伴いランキングシステムも私個人の考え方も変化しました。テニスのランキングをベースとしている部分は変わりませんが、地域ごとのポイント配分等、さまざまな微調整をしてきました。この記事では私が何を考えどういう調整をしているかを少しだけ紹介します。

大会に多く出場する人がより有利になった

まず大前提として、今も昔も「大会に出場すればするほどランキングは上がりやすい仕組み」なのは変わりませんし、これは他の個人競技のランキングでも同様です。理由は「期間中のすべての結果の中から良い順にn個選んで、その合計値」というシステムは変わっていないからです。このnは、スマブラ4時代は6回(集計期間が1年)、最新のスマブラSPのランキングでは4回(集計期間が半年)としています。当然ながら試行回数が増えればいい結果を残す可能性も上がりますし、悪い結果は単に無視されるだけなので多く出場するほうが有利なのは変わりません。その有利度合いが、現在のほうがより高くなりました。

今と昔で違う点は、大会出場回数が規定回数未満のプレイヤーへの"救済措置"の有無です。例えば、スマブラ4のランキングでは1年に5回しか出場しなかったプレイヤーはポイントを6/5倍していましたが、最新のランキングではそのような処理はしていません。

なぜ当時は救済措置が存在し、今はないのか。これは私個人のランキングというものに対する考え方の変化によるものです。

2016年当時の私は、ランキングを単なる「強さの指標」とだけ考えていました。そのため、「強いけどあんまり大会に出ない人」は、何らかの形でポイントを上乗せする必要があると考えていたので、ポイントの補正を行っていました。

最近の私は、ランキングを強さの指標だけでなく、プレイヤーへの報酬とも考えています。何に対する報酬かと言うと「スマブラ界隈を盛り上げたこと」に対する報酬で、大会に多く出場することが「スマブラ界隈を盛り上げること」です。そこで、より多く出場した人(=盛り上げてくれた人)に対してより高いランキング(=報酬)が得られるような調整の一環として、救済措置を無くしました。これは、プライベートの事情で大会に出られない人に対しては酷な仕組みですが、より"本気"で取り組んでいるプレイヤーに報われてほしいという気持ちからこうなっています(もちろん、ランキングなど気にせず目の前の大会結果に集中するという考え方も尊重されるべきですし、そもそもはそうあるべきだと思います)。

とは言え、ランキングはそもそも強さの指標なので、「(そんなに強くなくても)大会に出まくればランキングが上がる」ようになってはいけません。大会に多く出場する人が有利になるべきですが有利になりすぎると強さの指標としての意味が薄くなっていきます。これは、期間中の大会結果の良い方から何個の大会結果を集計対象とするかで調整できます。この個数が多ければ多いほど、多く出場した人が有利になっていきます。もしこれが無制限なら、出れば出るほどどんどんポイントが積み重なっていくので、極端な例で言えば「1回だけすごい結果を残した人」よりも「微妙な結果を100回積み重ねた人」のランキングが高くなってしまい、強さの指標としてはイマイチになります。

(ちなみに、男子テニスの世界ランキングにもこの制限がありますが、1年間で18個までと非常に多いです。これはテニスという競技がスマブラと比べて比べ物にならないくらい多くのお金が動いているからできることだと思います)

関東、関西、中部のポイント比率が高くなった

これは現役のスマブラSP上位プレイヤーであれば肌で感じているかと思いますが、昔に比べるとよりランキングに上記の3地域のプレイヤーが多くランクインするようになり、逆にそうでない地域のプレイヤーの比率は下がりました。これには2つの要因があります。1つはシンプルに大会規模が大きくなったこと、もう1つはかなり主観的ではありますが、大会規模の差以上に地域間での"熱量"の差が大きくなったと考え、私が3地域(特に中部)のポイント比率が高くなるように計算式を調整したことです。

大会規模に関しては客観的なデータがあるのでわかりやすいです。2016年頃は関東大会のウメブラシリーズ、関西大会のスマバトシリーズともに参加人数が200人前後でしたが、現在では関西のスマバトが320人、関東のウメブラは2019年前半は512人で、最近では768人となっています。一方で他地域でこれほどの伸びがある地域はありません。参加人数が多い大会ほどポイントが得られる高くなる仕組みになっているので、結果として関東、関西のプレイヤーの比率が高くなりました(大会で得られるポイントは参加人数だけではなくランカーの人数によっても変わります)。しかし、中部大会のカリスマシリーズはそこまでの伸びはないので、これだけでは説明できません。これを説明するのが"熱量"という謎の指標です。

熱量とは私が勝手に感じているその地域の盛り上がり具合のことです。単純に考えると、盛り上がり度合いは大会の参加人数で測れると思われがちですが、必ずしもそうはなりません。なぜなら大会に使える会場に制限があるからです。

オフラインの大会を開くには当然ながら会場が必要です。そして、必ずしもその地域の盛り上がりに応えられる会場が使えるとは限りません。例えば、300人の参加人数が見込める地域の大会でも、会場が見つからないため定員150人で大会を開く、という場合があります(多くの大会は公立の施設を使用しないと大赤字になるため、探すのが難しいです)。というよりも、今はほとんど地域も満員御礼で、参加申込み開始から数分で参加枠が埋まってしまうことがほとんどです。そのため、大会の参加人数が必ずしもその地域の盛り上がりを示す指標にはなっておらず、実際には盛り上がりだけでなく「どれだけ大きい箱が、どのくらいの頻度で使えるか」に大きく依存します。つまり、実際の参加人数では私が知りたい"熱量"が測れないのです。

この熱量が、参加人数がそこまで伸びていない中部の大会のポイント比率も高くなっている理由です。つまり、私が勝手に「中部の大会は参加人数は伸びてないけど熱量は大きく伸びてるな」と思ったので、中部の大会のポイント比率を上げた、ということになります。「そんなテキトーな理由でええんか?」と思われるでしょう。私も同感です。ただ、先程の理由から、大会の参加人数(とランカーの人数)だけでは大会のレベルは測れないと判断したため、このような主観的な判断を泣く泣くしています。この判断が正しいかは測りようがないです。ただ、スマブラ4時代の「"熱量"を考慮に入れないランキングシステム」では、カリスマはポイントが稼ぐには効率が悪い大会とされていました。なので、おそらくですが、今の方が「みんなの直感」により近いポイント比率になってると思います(これも測れませんが…)。

超余談 ランク・サイズルールとスマブラ大会
ランク・サイズルールというものがあります。簡単に言うと、都市の人口、会社の規模について、2位は1位の半分、3位は1位の1/3、4位は1位の1/4… となりがちという経験則です。これが、日本のスマブラ大会についても結構当てはまるなぁと感じたので紹介します。

1位 ウメブラ 768人
2位 スマバト 320人
3位 マエスマTOP (2020年からの新シリーズ) 256人
4~8位 クロブラ、カリスマ、HST、TSCなど 192〜96人

4位以降はそこまでバッチリと当てはまりませんでしたが、3位まではかなりいい感じです(2位と3位は会場が同じ大会なのでズルっぽいですが)。
ただ、先程も言ったように大会規模は使える会場に大きさに大きく依存するので、こうなったのは単にある偶然でしょう。余談なので、別に意味はありません。ただ単に、経験則と実際の値が一致していて「おっ」となったので紹介してみました(?)。

終わりに スマブラ界隈全体の熱量の増大

「はじめに」で私が言った「ランキング作りは単なる無機質な作業ではない」と言った理由がおわかりいただけたと思います。スマブラ界隈はまだまだ未成熟で、参加人数等の表面的なデータだけでは実情に反映したランキングが作れない、というのが私の結論です。そこで、時には恣意的な判断もせざるを得なく、その結果"熱量"なんていう主観的な指標まで持ち出しました。スマブラ世界ランキングも有識者の意見が反映されるランキングになっているので、まだまだ主観と切り離すランキングを作るのは難しいということになっています。

実を言うと、前半で説明した「大会に多く出場する人がより有利にする」という話も、熱量の問題です。ただしこれは地域の熱量ではなくプレイヤー個人個人の熱量の話です。

数年前に比べて、より"本気"で取り組むプレイヤーが増えたと思います。スマブラのために仕事を辞める人、大学を休学する人、都市部に引っ越しする人、このような"本気"の人たちが、数年前と比べると圧倒的に増えました。ゲーミングチームに所属するプレイヤーも珍しくなくなりましたね(それに伴いトラブルも…)。

最も象徴的なのが配信者の増加です。私が初めてランキングを作った2016年では、上位勢の中で定期的に配信をしてるプレイヤーはごく少数でした(私のぼんやりとした記憶では、にえとの、あばだんごの2人くらいじゃなかったでしょうか)。それが今では、上位勢の中で配信してない人の方が珍しいくらいになりましたし、上位勢の配信の視聴者も数年前と比べて2桁くらい増えました。数年前に個人の配信で1000人以上の視聴者を集めるなんて日本のスマブラ界隈では考えられませんでしたが、今ではそこまで驚くことでもなくなりました。とても大きな変化です。

そして、他地域に遠征するプレイヤーも以前よりも増えました。特に遠征する動機に関して、以前のような"腕試し”から、"ランキングを上げる"という明確な目的で遠征する人が増えたと思います(ランキングはシードにも関わってくるので、こちらの動機も大きいですね)。私個人の気持ちとしては、より"本気"のプレイヤーが報われるべきだと思うし、そうあるほうが全体のためになるという信念のようなものがあります。そのため、以前よりも、大会出場回数が多い人(≒遠征する人)を少しづつ有利にしてきました(何度も言いますが、遠征する人は以前から有利ですし、今でも遠征せずにランクインしてる人も多いです)。

長ーくなりましたが、こんなことを考えながらランキングシステムを考えています。実を言うとまだまだ書き足りないくらいですが、そろそろ6000文字を突破してしまうのでここまでにしておきます。

2019年も12月になり、下半期のランキングもそろそろ発表かなという季節になりました。発表時期も発表方法も未定ですが(大丈夫?)、来年のEVO Japan2020までに何らかの形で発表される予定です。お楽しみに。

そしてこのスマブラ Advent Calendar 2019という企画を立ち上げた寝椅子さん、本当にありがとうございました💤💺

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