「冒険の書」(著:孫泰蔵)を読んで

起業家である著者孫泰蔵氏が、現在の教育のあり方について様々な時代の思想家・学者との対話という形式で問題提起している本作。

読みはじめから読みおわりまで難しい言葉が使われずに、比較的スルスルと読み進めることができた。専門的な用語については易しい言葉で解釈説明を入れてくれるので、とてもわかりやすかった。

人類は産業革命から、機械化・効率化を第一に考えるようになり、めざましい技術の発展の反面、人間を育てる教育までも機械化してしまったことで、学習に対して主体的ではない人間が生まれ、自信が持てなくなってしまうようになった。

また最も興味深かったのは、「自立」という考え方の話。

「自立する」というのが独り立ちして誰からの扶けも受けずに生活できるようになること、という一般的な見解を著者は誤りだと指摘している。誰かになにか助けを求めることがないように、そのような「自立」を社会全体で行った結果生まれた「しがらみのない自由な世界」、いわゆる「グローバル資本主義」。その中で生きる人々は、誰にも頼ることができないので漠然とした不安を抱えながら生活し、結果自分がしたいことは何か、何のために生きているのかわからなくなるのである。

著者は、「自立する」ということはすなわち依存先を増やすことであると述べている。「無償の愛」という言葉があるように、自分の豊かさを他人に分け与えることで、自分の中に生きる理由を作り出すこと、それを社会全体で行うことで、世界が上手く回っていくようになるのではないか、という。

自分のように自分に自信のない人間が、やりたいことが見つからない、何がしたいのかわからないなどと言ってしまうことに、しっかりとした因果関係をキレイに示されてしまった。それが受けてきた教育に原因があるかは置いておいて、自分に自信がないから他人に対して施しをしようという考えに至らず、その結果誰からも頼られない+誰にも頼れない状況を自分の中に作り出し、自分の存在価値を見失っていく。

自分に自信を持つことは難しいが、自信を失うことは迷信によるものだとも指摘する。何か行動を起こして、それが例えば悪い結果になったとして、その環境で低い評価を受け、自分の能力や才能を卑下してしまい自信を失くす。しかし「能力」「才能」とは結果論であり、著者はそんなものは存在しない、迷信であると断言している。

何か行動を起こすことがたとえ悪い結果として出てきたとしても、本来それが自分の努力を否定するものにはなりようがない。行動を起こすことに本来ならばデメリットは存在していないはずで、「能力」「才能」といったものへの信仰を失くすことが自分に自信をつけることの第一歩であると述べている。

本書を通して、自分で行動を起こして自分に自信をつけることと、周囲の他人と頼り頼られる関係性の社会を築き上げることが大事であると学ぶことができた。
この本の全体のテーマは「教育」だが、自分の中の常識に一石を投じてくれるような話題をたくさん提示してくれるので、誰が読んでも何かしら納得できる、もしくは刺さるところはあるのではないかと感じたので、ぜひ読んで見てほしい。


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