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『ほんとうのリーダーのみつけかた』に綴られた若者への想い

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梨木香歩『ほんとうのリーダーのみつけかた』2020 岩波書店

『ほんとうのリーダーのみつけかた』は、梨木香歩さんの著書『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の文庫化を記念した講演がもとになっています。
2006年の末に教育基本法の改変があり、その内容に少し違和感を感じていたという梨木さん。「若い方々に向けて書く機会が与えられるものとして」、翌2007年から出版社のサイトで始めた連載が『僕は、そして僕たちはどう生きるか』です。

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梨木 香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるか』岩波書店
(文庫になる前は理論社)

■ 梨木さん、なぜ今この本を出したのですか?

2015年に行われた書店イベントでの講演を、なぜ敢えて5年も経った2020年に出版したのでしょうか?

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』は、言うまでもなく吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』を意識して書かれた本です。梨木さんがずっと大切に読んできた吉野さんの問いかけへのアンサー本とも言えます。

梨木さんは『君たちはどう生きるか』の主人公コペル君とお母さんとの会話に触れながら、『ほんとうのリーダーのみつけかた』で、こんなことを記しています。

私たちは、本を読むことによって主人公の失敗を疑似体験することができます。もし、○○だったら、と考えることによって、同調圧力に負けない自分をイメージすることができます。実際には思うようにいかなかったとしても、たぶん、心の準備がまるでないときよりも、マシだと思うのです。そして、次の機会に備えることができる……(p.10より)


梨木さんは「同調圧力」「群れ」「言葉の形骸化」といったことを、丁寧に一つ一つ言葉を選びながら語ります。

日本の美しさ、素晴らしさは、日本語の美しさ、素晴らしさに負うところが大きい。どうか、一つひとつの言葉を蔑ろにせず、大切にしてください。(p.19より)


SNS上でやりとりされる軽い一言、相手の気持ちを想像せずに投げつけられる暴言、日常会話で起きるすれ違い。そんな言葉を発してしまう危うさや、そんな言葉によって傷ついた心、その両方に起きている危機を感じて、梨木さんは今、この本を出版したのではないでしょうか。

■ 梨木さん、自分の言葉に傷ついてしまうときは、どうしたらいいのですか?

私はこの本を読みながら、ふとこんなことを考えました。
言葉が軽んじられることで、人が傷つく。それは、言葉を受け取った人だけではなくて、言葉を発した当人も、傷つくことがあるのではないか。

相手の反応が知りたくて、わざと質問を投げかけてみたり、自分の本心とは別のことを言ってしまったり、そんなことをしては自分の言動に嫌気がさして、「もう関わりたくない」と咄嗟に思ってしまったことが私はあります。

「もう関わりたくない」
それは、自分自身になんですよね。
私は、私の言葉に傷ついていたんです。

こんな文がありました。

まず言えるのは、生きるってそういう葛藤の連続ってこと。(中略)まあしかたがないのです。でも、それはだれにもわからない。それがわかっているのは、あなたしかいません。あなたのなかで、自分を見ている目がある。いちばん大切にしないといけないのは、そしてある意味で、いちばん見栄を張らないといけないのは、いいかっこしないといけないのは、じつは、他人の目ではなく、この、自分の中の目です。(p.27より)

■「ほんとうのリーダー」は誰だと思いますか?

多分……「リーダーのみつけかた」という体裁をとらなくても、きっと梨木さんはこの本の内容を語ることはできたのだと思います。でも敢えてこの形をとったのは、きっと「一番届けたい人に届くように」という願いがあったからではないかと感じました。

”生きること“を手にすればするほど、若者は混乱する時期があるんだと思うのです。もしかしたらそれは、大人も。そして『君たちはどう生きるか』という問いが始まる。そんな大切な問いの燈火を、どうか心の中に持っているあいだに届きますように。梨木さんはそう願ったのかもしれません。
指南してくれる誰かが欲しい、そんなサブコンシャスに訴えかけるべく、敢えて「リーダー」というキーワードを使って……。

さて、梨木さんが教えてくれた「ほんとうのリーダー」は誰なのでしょうか?


梨木さんがていねいに紡いできた若者たちへの想いが、優しく、易しく綴られている一冊。それは読者が「読みとる」のではなく、著者からまっすぐ「届く」言葉ばかりです。

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