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巻貝日記 2023.7月

 日記をつけるっていいな、と思っている。何か大きな出来事や感情が揺さぶられたことを記すのもいい。けれども、特になんにもなかったような、自分にとってはいたって普通の日常、その断片を書き留めておくことに魅力を感じている。
 
 また、過去の日記を読み返すことにより、俯瞰的に自分を見つめることができることもいいな、と思う。自分では思っていなかったような自分が、その中に見えたりする。解っているようで実はわかっていない自分への理解を深めることができる。  自分を知ることは、自分の良い悪いをジャッジするためではなく、毎日を生きやすくするためのひとつの方法だと思っている。


7月2日(日) 京都

うつらうつら眠っては目覚める。
その合間にメール返信などをする。後で読み返すと誤字が多い。
恥ずかしく思うけれど、またうつらうつらする。
鼻の具合がいまいちな割にいろんな香りやニオイを受け取る。
小さな頃からなので、対処方法は心得ているけれど、体調が悪いとやっぱり辛くてしんどい。


7月3日(月) 京都

ちょっとだけ久しぶりに病院に行くと、医局が総入れ替えになっていた。
人が少なく、全員がとても怖い。
日々、注意して、気を付けて、鼻が面倒なことにならないように過ごしてきた。
それでも、先生に診てもらいたいほどの時がある。それが今だ。
「三年前から耳鼻科に来たはりませんけど、何ですか?」と言われ、驚く。


7月4日(火) 京都

手が塞がるのと、混み合う通りで広げると幅をとるので、差す気がまったくなかった日傘。
それが、日傘に守られたいと思い始める。
帽子と違って、身体をも覆ってくれるものだと気が付いた。
ああ、こんなに暑くなる前に買っておけばよかった。
大丸までの道のりが、今や暑さで怖くて億劫。
それでも明日こそ、いざ大丸へ。


7月5日(水) 京都

ほうじ茶と梅干しは揺るぎない美味しい組み合わせ。
湿度高く、特有の暑さがある夏の京都では、朝ごはんに特に有効だ。
白いご飯に赤い梅干しをのせて、ほうじ茶を回しかけ、さらさらと食べる。
暑さで疲れた時にも、無理なく食べられて、身体がすっきりする。
ここに、すぐき漬けが加わると、美味しさはさらに増し増しになる。


7月6日(木) 京都

毎食前、毎食後、寝る前に、せっせと飲む鼻薬。
これらを飲むのに、毎日とても忙しい。
しかし、未だ鼻の鬱陶しさは解消されず。
後三日間飲めば、効果が実感できるのだろうか。
病院に次の予約をいれるか迷い中。


7月7日(金) 京都

朝から予定が乱れ、昼にずれ込み、夕方までかかった。
すべてが終わったのは、夜だった。
こんな日もある。


7月8日(土) 京都

ミネラルウォーターを買いに行こうと外に出たら、人も車もほとんどいない。
びっくりした。
こんなに静かなのは、どれくらいぶりのことかと思う。
通りのまんなかで大の字になって寝られるくらい、がらがら。
すばらしく快適。
後数日で、祇園祭の鉾建てが始まります。


7月9日(日) 京都

うれしかったこと。注文していた本が、予定より早くポストに届いていた。
まとめてどさっとやってきた。
嬉しくて、全部並べて表紙を愛でて、手に取ってぱらぱらと本文を見たり、紙の感触を楽しんでみたり。
半日くらい、こんな感じ。
それから、一冊目を取り上げて、読み始める。
次に出るという、新作が今からとっても楽しみ。


7月10日(月) 京都

鉾建てが始まった。
予定では、二拠点生活の安曇野にいるはずなのだけれど、実はまだ京都。
期せずして、鉾建てを見られてうれしい。
独特の暑さはあるけれど、やっぱり夏の京都がいちばん好き。
この時期は、京都にいたい。


7月11日(火) 京都

いつもながら、函谷鉾の真木(しんぎ)がいちばんに立つ。
次は、月鉾、長刀鉾、菊水鉾、鶏鉾が四条通り、室町通りにと立ち並んでいく。
釘などの打ち込むものは一切使わず、すべて縄で巻き、結び留めていく職人技。
それも、それぞれの鉾で巻き方が違う。
鉾建てを見る醍醐味はこれ。懸装品が掛けられると、見えなくなるから。


7月12日(水) 移動日 京都→安曇野

朝から建ちあがった鉾を見て回った。
月鉾の鉾頭は、しゅっとした細い三日月。
朝日にきらりと光るこの三日月の空には、白く儚げな細い三日月が浮かんでいた。
真木が立つ鉾を見ると、わけもなく誇らしい気持ちになる。
そんな想いを持って、京都駅へ向かう。行先は、安曇野。
残念ながら、巡行はテレビで。


7月13日(木) 安曇野

ゲラ校正中。なかなか終わらない。
祇園祭の誘惑がない、安曇野に移動してきたのに進まない。


7月14日(金) 安曇野

「まりも」を見つけた。売っていた。そして買った。
ずっと探していた「まりも」だ。
まるくて深い緑色を見ていると、心が落ち着く。
丸くてふんわりして可愛い。
鷹揚な雰囲気も好きなところ。
育つのが楽しみ。名前は付けない。


7月15日(土) 安曇野

わかめと蛸ときゅうりの酢の物。
少しの生姜を入れると、爽やかに美味しい。
いつでも美味しいに変わりはないけれど、夏は特に。


7月16日(日) 安曇野

昼過ぎに二階に上がると三十度超え。
何処にいても、暑い。
冷蔵庫で出番を待っていた、西瓜が美味しい。
冷たくて、生き返る。
決して、歯にまとわりつかない、しゃくしゃくとした歯応えも、暑さを遠くへ追い払ってくれる。
夏だ、夏。


7月17日(月) 安曇野

祇園祭前祭りの山鉾巡行が終了した。
安曇野からテレビで拝見。
この巡行が終わると、毎年そろそろ梅雨明けなんだけれど、
今年はどうなのだろう。
どちらにしても、暑いに変わりなし。


7月18日(火) 移動日 安曇野→京都

いつものことなんだけれど、
穂高の高いところから京都の低いところへ戻ると、
仕事や用事がとても捗る。面白いくらいに、ものすごく捗る。
あまりにも調子よく、どんどん片付いていくので、小躍りしてしまいそう。
高地トレーニングって、やっぱり効果ありです。


7月19日(水) 京都

健康であるって素晴らしいことですね!
と、今更ながら思った。
当たり前なことなんて、何ひとつなくて、
そしてひとは、限られた時間をその有限の果てに向かって進んでいるのだ、と感じたいちにちだった。
そう思うと、自分に必要で大切なものが何なのか、鮮明に表れてきた。


7月20日(木) 京都

烏丸御池駅から歩いて帰る。
暑い暑い、と言っても、夜は暑さも和らぐ。
祇園祭後祭りに建つ山鉾や屏風を見ながら、
室町通り、三条通り、新町通りを歩く。
この祭りが神事であることを忘れてしまいそうなくらい、
がさがさと賑やかな前祭りとは違って、
後祭りは静かに粛々と進み、厳かな雰囲気。お囃子も神妙に響く。


7月21日(金) 京都

到来物の土佐の野草茶を、朝からぐつぐつ煮出す。
「山々を生かすため守るため自然のままに作られ」ている、高知県津野町産。
くせが強くて、好みが分かれる味だと話されていたので、覚悟をして飲んでみる。
確かにくせはあるけれど、まったく気にならないくらい、それはそれは優しい味だった。


7月22日(土) 京都

祇園祭後祭りのため、三日間ほど宅配便がストップする。
郵便局と宅配便センターを回り、荷物を受け取る。
ひともまだまだ少なくて、ほんの少しだけ涼しさを感じる朝早くに、山鉾を見ながらの回収。
歩いて持って帰ることができる重さで良かった。


7月23日(日) 京都

がーん。冷蔵庫にバターがなかった。
祇園祭で大勢のひとが歩いている間をすり抜けて、いつもの店に買いに出かける。
がーん。店にバターがない。
日ごろ使っているものがない。三周くるくると店内を探したけれど、やっぱりなかった。
違うバターにしようかと考えたけれど、あまりにもショックで買わずに帰宅した。


7月24日(月) 京都

朝に出れば山鉾と出合い、夕に出れば神輿に遭遇。
そして、押し寄せる波のようなひとの多さ。
楽しいのと、うんざりするのとが混ざった微妙な日々もいよいよ終わる。
ああ、穏やかな日常が戻ってくる。


7月25日(火) 京都

処方してもらった薬を飲むのに忙しい。
朝昼夕の食後三回。毎日、毎食、同じ時間に規則正しく飲まないと、
効き目がいまいちなんだろうな、と思っている。
韓ドラ「ホ・ジュン」をテレビで観ていて、ますますその思いは強くなった。
一日二食だったので、三食の生活は予想以上に忙しなく、一日があっという間に終わってゆく。


7月26日(水) 京都

気温が四十度に迫るかと思いながら過ごした、酷暑日の京都。
夕方ころには、雷が鳴り始め、まさかの雹らしきものが空から降ってきた。
これが雨に変わり、あがった後は、湿度高く、蒸し暑いけれど、これが京都の暑さよ!と妙に誇らしく思った。
夜は、びっくりするくらい涼しくて快適だった。
やっぱり「夏は夜」。


7月27日(木) 京都

出逢ってから十年。お互いに歳を取ったなあ、と感慨深い。
もう十年と思う気持ちと、まだ十年と思う気持ちが混ざり合う。
しょっちゅう顔を合わせるわけではないけれど、
良くも悪くも、そのまんまの自分を出せて、それを受け止めてくれるひとと出逢えたことは、何よりの幸福だと思っている。


7月28日(金) 京都

夏の土用入りした頃から、陽射しが少しずつ秋に移行し始めた。
あと十日ほどで、立秋だ。
季節は何があっても違わずに訪れる。
そうは言っても、まだまだ暑い。蝉は早朝から大合唱。
せっかく生まれてきたのだから、短い命を悔いなく、せいいっぱい、
しゃーしゃーと鳴いておくれ、と京都のなだらかな山を見ながら思っている。


7月29日(土) 京都

祇園祭の寄付のおさがりが、お町内から届く。
恐る恐る、いただいた紙袋の中を覗く。
缶ビール六本セットとボトルアイスコーヒー一本が入っていた。
良かった!ほっとした。
昨年は、日本酒一升瓶が一本届いた。ひとり暮らしに、これはきつい。
使っても使っても、なくならない酒に迷惑気分満載になってしまった、罰当たりな昨夏のわたし。


7月30日(日) 京都

間もなく、七月が終わる。
祇園祭のためか、暑いからか、よく分からないけれど、
長く感じた七月だった。
ずっとずっと以前から、わたしにとって一年の始まり的な八月。
自分のリズムを知ることは、大切。


7月31日(月) 京都

果物を買いにスーパーへ。
たくさんの桃が、棚一面に並んでいた。
無花果も、いろんな種類の葡萄も、西瓜も、メロンも、誇らしげ。
パイナップル、キウイ、バナナ、リンゴのいつものメンバーいた。
これらのほんの少しの小さな隙間に、梨と柿がいた。
初物ですね。こんにちは。
秋の足音が近付いてきた。


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