見出し画像

糀屋さんで無給で働いた10日間がお金に代えがたいほど贅沢だった話

2月の頭から10日間ほど、愛知県西尾市にあるみやもと糀店さんで、糀作りのお手伝いをしてきました。

「麹(糀)」とは、米などの穀物に麹菌を繁殖させたもので、味噌や醤油、酒、みりんなど、あらゆる日本の発酵調味料を作るのに欠かせない存在です。「麹」という表記が一般的ですが、「糀」も同じ意味です。お米にお花が咲いたかのような麹の風貌がストレートに表現された、素敵な漢字ですよね。

画像7

麹屋さんといえば、100年以上の老舗が殆どなのですが、みやもと糀店さんは新規参入の「麹ベンチャー」。元々は農業からスタートしたのち、麹に魅了されてこの世界に参入されました。宮本さんの人生はあまりにも濃すぎてここには書ききれないので、こちらのインタビュー記事をご参照ください…!!

なぜ糀屋さんで働くことになったのか

私と宮本さんの出会いは、私の師匠である料理家の岩木みさきさん主催の発酵イベント「醸すパーティー」。宮本さんはゲストとして、私はスタッフとして参加していました。

この時はあまりお話できなかったのですが、その後SNSでゆるく繋がっており、宮本さんがツイッターにアップされていた「ランチパック麹」に感動し、気になる存在としてウォッチしていました。これ、一見ふざけてるように見えますが、実は大真面目な遊びなんですよ。

そんな宮本さんは、冬場の繁忙期に「スタッフ」や「従業員」という形ではなく、「ウーフ(WWOOF)」というシステムに似た形態で、独自にお手伝いさんを受け入れています。
(注:WWOOFジャパンを通さずに独自に募集をかけているため、正式にはWWOOFではないのですが、WWOOFというシステムを知っていただきたいため、ここではWWOOFという言葉を使っていきます。)

ウーフ(WWOOF)とは、World Wide Opportunities on Organic Farmsの頭文字からきており、WWOOFの参加者をWWOOFer(ウーファー)と呼びます。農場で無給で働き、「労働力」を提供する代わりに「食事・宿泊場所」「知識・経験」を提供してもらうボランティアシステムことです。
シドニー留学センターHPより

私はFacebookでこの募集を見かけ、以前より気になっていたものの、10日以上連続でお手伝いすることが条件な上、お給料が発生しないので、「いやいや無理でしょ」と思っていました。
フリーランスは自分が動かないとお金が発生しないので、何に時間を使うかは結構シビアに選択していく必要があるのです。

しかし、最近は「貨幣経済から少し離れてみること」を意識的に実践しており、同時に「もっと現場を経験したい」と思っていたことから、思い切って申し込んでみました。もちろん純粋に糀のことをもっと知りたかったし、宮本さんの生き方に興味があったのも大きな理由です。

ちなみに、みやもと糀店のお手伝いの様子については、こちらのつよぽんぶろぐでとても分かりやすくユーモラスに書かれていますので、こちらも是非読んでみてください。

つよぽんさん(宮本さん曰く「歩くSDGsのような男」)は3月からお手伝いに来られるそうで、私はタイミングが合わず残念でした。いつかお会いしたいなぁ。

ということで、初めてのWWOOF体験スタート!!

糀屋さんでの住み込みWWOOF生活

京都から新幹線で名古屋に向かい、電車を乗り継いで1時間半ほど。名鉄蒲郡線「西幡豆駅」から徒歩5分の場所に、みやもと糀店はあります。

画像1

到着するなり、工房から漂う良い香りにうっとり。
大豆を蒸しているようです。

画像2

みやもと糀店は民家2軒で構成されており、1軒は工房&みんなの食事場所&宮本さんの寝床。もう1軒はシェアハウス&味噌仕込みWS会場&糀の枯らし場所(糀を乾かす場所)。

この、分断社会に物申すかのような、仕事場と居住スペースの垣根が無いかんじ、なんかいいですよね(もちろん、製造現場と居住スペースはきちんと仕切られており、衛生的に麹が製造されています)。

しかも、なんと2軒とも「貰った家」だそうです。衝撃…!!
宮本さんはあらゆるものを貰い物や手作りでまかなっており、この蒸し器もお友達との合作だそうです。
財力だけが力じゃない。これも立派な人間力ですよね。

私自身も今回はシェアハウスの一室に住まわせていただきました。
部屋に荷物を置いて、早速お手伝い開始!

画像3

この日は味噌仕込みWSがあったため、そのお手伝いをしながら、合間に糀作りのお手伝いをしました。
みやもと糀店では米麹・豆麹・麦麹の3種類を製造販売されています。複数の穀物で麹を作られている麹屋さんて、案外珍しいんですよ。

そうそう。麹作りと言えば、昼夜問わずつきっきりで麹を見守り、お世話をするものだというイメージがありますよね。正直、ここには徹夜覚悟で来ました。だって、「繁忙期のお手伝い」ですもの。めちゃくちゃ忙しいだろうと思うじゃないですか。

画像4

しかし、なんということでしょう。
初日の仕事は夕方17:30頃に終了し、その後はみんなでワイワイ夜ご飯を作り、日本酒をちびちび嗜みながらゆっくり食事をしてお喋りを楽しんだ後、21時頃に解散。順番にお風呂に入って23時には就寝しました。

ご飯は基本的にみんなで作るスタイルなのですが、今回は完全に私が炊事担当。この日はたまたま肉や魚が無かったため、大根のステーキ、にんじんのオイル蒸し、大根とカブの柚子マリネというベジタリアン仕様。限られた食材で美味しいご飯を作るのって燃えますよね。こういう時こそ「料理の仕事をしていて良かった〜」と思います。

画像5

よくよく聞いてみると、宮本さんは人間らしい生活ができる麹作りのプロセスを独自に確立されており、一般的な麹作りのメソッドから外れた時間配分や工程を経ている箇所が多々あります。それでも、きちんと良い糀を作れるよう、創意工夫が凝らされているのです。

繁忙期といえども、きちんと自分達でご飯を作り、みんなで一緒に食卓を囲み、しっかり睡眠時間が確保できるような仕事のルーティンを作り上げられたのですね。これってすごく大事なことだと思います。
先日バズったツイートと重ね合わせて、じっくり考察したいです。

しかし、考察を挟むと大幅に脱線して長くなりそうなので、ひとまず今回のWWOOF体験のレポートを書いていきたいと思います。

さて、ここでの主な仕事内容は、メインの糀作りのお手伝いと、冬季限定の味噌仕込みWSのお手伝いです。

麹屋さんを開業する前から開催しているという味噌仕込みWSは、かれこれ15年以上も続けているという大人気イベント。毎年ご参加されるリピーターさんが多く、皆さん、ここで家族1年分の味噌を仕込んでいくのだとか。

そう。みやもと糀店の味噌仕込みWSはスケールが大きいのです。

みやもと糀店の味噌仕込みが大容量なのはワケがある

画像6

この縁側がポカポカして気持ちいいんですよね。
みんなでワイワイ味噌を仕込む光景は、平和そのものです。

みやもと糀店での味噌仕込み量は、8kgか12kgで選べます。
一般的な味噌仕込み会の仕込み量は大体2kg〜3kg、多くても4kgが相場なので、かなり大容量なんですよね。

実は、これにもきちんと理由があり、「これくらいの量だと、ちょうどいい手仕事感があるんだよね」と、宮本さんは語ります。

このあたりも話すと長くなるのですが、ちょうどハッピー太郎さんがこの話と重なる素晴らしい記事を書かれていたので、是非ともこちらをご覧いただきたいです。

特に印象的だった文章を抜粋させていただきます。

「すぐに食べられるもの」をお金を出して買ってもらうことは、2次〜3次加工を引き受けた生産者にとっては、利益を生むことです。でもね、これって、功罪があるんだな。
一度、(味噌を)4kg仕込んでみてください。この大量の大豆、どうやって炊いたのかなとか、大豆を潰すのって大変だーとか、糀と塩と大豆を混ぜるの力がいるよね、とかが、自分の身体でわかる。それは、頭で想像するのとは別次元の理解なんだ。

そうなんです。ジップロックで簡単に少量仕込める手前味噌も良いけれど、それなりの量の味噌を仕込むからこそ体感する、実感できるものがあるんですよね。もちろん、どんなことを感じるかは、その人次第です。

私も今後、味噌仕込み会を定期的にやっていきたいと考えているので、とても大事な視点を頂きました。

音楽三昧な日々

そして、特筆すべきは音楽のことでしょう。
滞在期間中、連日のようにギターを弾いたりパーカッションを叩いたり、セッションしたりして遊んでいました。

宮本さんはパーカッション奏者でもあり、世界中の珍しいパーカッションを沢山持っています。私は特にこのウドゥという楽器が気に入りました。

そして、シェアハウスにはブルースギターの達人が住んでおり、毎日のようにギターを教えてもらい、最終的には三味線でブルースを弾いていました。三味線の型を無視してスリーコードを弾く背徳感、たまらないですね。

2ヶ月間がっつり働きに来ている鈴木君も、めちゃくちゃ音楽が詳しくて、たくさんお話ができて楽しかったです。ギターもとても上手で、お洒落なコード進行を教えてもらいました。いつか上達したら、くるりの上海蟹を一緒に歌いたいです。

画像8

みやもと糀店には、味のある人たちが集まる。

類は友を呼ぶのでしょうか。
みやもと糀店には、なんだか味のある人たちが集まります。

clubhouseをきっかけに知り合った農系YouTuberのほっしーさんからは、なぜか麹を作っている現場で包丁を買いました。

ほっしーさんは大工仕事が得意で、この日は麹蓋大工の打ち合わせでいらしていました。仕事と趣味を兼ねて、包丁を仕入れて販売されているらしいです。ちなみに、宮本さんの蒸し器を作ったお友達とは、ほっしーさんのことです。ああ、もう情報量が多過ぎますね。

なんかね、みんな味があるんですよ。
例のブルースギターの達人も、味でしかない。
最高にかっちょいいお酒の飲み方を教わったのですよ。

こんなの、絶対インスタ映えしないでしょ??それが良いんです。哀愁のある感じ。人目を気にせずにパック酒を自信満々に堂々と楽しんでいる感じ。
「俺は日本一白たまりを飲んでいる男だ」と豪語する感じ。

最高ですよね。

画像9

達人は、すぐ近くの畑で自然農(無農薬・無肥料の農法)をされています。
元々は「旅する農家」として全国で畑をしたり、自然農の技術指導者や酒蔵の蔵人など、様々な仕事をされてきたそうです。あれです。フーテンです。
しかし、色々あって現在はトラック運転手をしながら週末に仲間と一緒に畑をされているそう。海が見える畑、素敵ですよね。

私が京都へ帰る日、自家採取したカボチャの種をくださいました。めちゃくちゃ優しい笑顔で種を袋に詰めてくれていたなあ。

ちなみに達人は、自然農をやっているくせにタバコ吸うし、野菜はあんまり食べないし、添加物バリバリの食事をするので、「歩く農薬」と言われています(もちろん冗談ですよ)。自然農やってるのに自然派じゃない感じ、味があるなあ…。

宮本さんから学んだ「軽やかな生き方」

おっと、ついつい話がそれてしまいましたね。

しかし、毎朝ラジオ体操をして、体を動かしながら仕事をして、みんなで食卓を囲み、ギターを弾いて、味のある人たちと触れ合っていたら、なんだかすごく気持ちが軽くなってきたのです。

画像10

コロナ以降、「食」や「仕事」、「生きること」について深く考えるようになり、特に先月は例のバズったツイートへの皆さんの反応を見て、悶々と考えていました。これは、深く思考する大切な時間だったと思います。

しかし、そのことについてnoteにじっくり書こうとしていたのですが、宮本さんの軽やかな生き方に触れていたら、「なんか、もっとシンプルでいいや〜!!」と吹っ切れてしまい、書き途中のnoteの難しい文章をバッサリ削ぎ落としてしまいました。

ある日、身近にあるものでDIYしながら麹作りをする宮本さんに、「まるでレヴィ=ストロースの言うところのブリコラージュですね!」と言ったら、「ブリコラージュ??何それ??普通に“創意工夫”で良いんじゃない??」と返されて、ハッとしました。

難しいことを、難しく書くことは簡単です。
悩ましいことを、悩ましく伝えることは簡単です。

でも、それってなんか楽しくないなあと。

画像11

(私にそそのかされて麹菌でテンペを試作する宮本さん。麹菌テンペは失敗に終わりました。)

正直、結構前から、私の中ではひとつの答えが見えている気がするんです。生きること。自分にとって大切なこと。この世の中と、これからの暮らし方。
でも、うまく言葉にまとまらないし、考えることが止まらない。まだまだこの先に答えがあるのではないかと。

そして、今回こうして宮本さんのところへWWOOFertとして働きに来たのは、答えを見つけるためじゃなく、答え合わせをしに来たのだなと、気付きました。これは、最近では「読書」にも重なるところです。

画像14

「軸足は地面につけて、片足と両手は踊っていたい。」

今回の滞在で、最も印象的だった宮本さんの言葉です。
最高じゃないですか??

宮本さん、実は政治にも間接的に片足突っ込んでるし、元ヒッピーだし、麹屋のふりして町づくりしてるし、腹の底では終末論を抱えているし、めちゃくちゃスピリチュアルな内面をお持ちです。でも、そんなことを感じさせないポップさ、軽やかさがあり、実際すっっっごく優しいです。今回の滞在期間中、怒っているところや不機嫌そうなところを一度も見ていません。(もちろん、そういう時もあるかもしれないし、あってもいいです。)

なんか、それがすごくカッコいいなあと。一緒にいて楽しいんです。

画像17

「なんでWWOOFという形でお手伝いを募っているんですか?」という野暮な質問はしませんでした。でも、なんとなく分かった気がします。やっぱり、みんなで仕事した方が楽しいんですよね。いろんな人が来ることで、流れが生まれる。お互いに、いろんなものを交換するんですよね。

そう、お金のやり取りがあることだけが経済ってわけではないんですよね。

昨日読み終わった、坂口恭平氏の『お金の学校』(晶文社)。痺れるほど最高の一冊だったのですが、なんだかこの本に書いてあることを身を持って実感した気がします。最近の読書は、本当に答え合わせをしているような感覚です。

自分にとっての「贅沢」とは何か

みやもと糀店での10日間は無給だったものの、とても贅沢な時間でした。こんなに贅沢して良いのか、というくらい。

まあ実際、食費や宿泊費はかからない上、モーニングやジェラート屋さんに連れて行ってもらったり、色々なことを学ばせていただいたりなど、労働時間に対しての見返りが多すぎるくらいなのですが…!!

画像16

お休みの日は、近くの酒蔵さんにもご案内いただきました!!

画像12

こうしてみると、やはり「贅沢」「お金」って関係ないものだと分かります。もちろん、お金があるから贅沢できることも多いですが、それはあくまで一つのパターンであり、お金=贅沢ではない。

私たちは、必要以上にお金を得るために、暮らしを犠牲にしていないでしょうか?あらゆることを効率化、合理化するあまり、生きている喜びを味わえていのではないでしょうか?

私にとって、夫と一緒に鴨川を散歩するのが、この上ない贅沢な時間です。
ただ、ぷらぷら歩いてくだらないことを喋っているだけで幸せなんです。誰にも奪われたくないし、お金を貰ってもあげません。

画像13

今を感じること。味わうこと。
それが一番の贅沢です。

それは、料理でもあるし、流れていく時間を味わうことでもあるし、人と喜びを分かち合うことでもあるし、いろんな形があります。

私はみやもと糀店で味のある人たちに出会い、たくさんの味を噛み締めました。思い出すだけで、まだまだスルメのように味が出てきます。なんて贅沢なんでしょう。しかも、いつもとは違う、「労働」「無給」ですることによって、改めて「本当の贅沢」を実感できたんです。なんだか不思議な話ですよね。

長くなりましたが、結論です。

糀屋さんで無給で働いた10日間は、とても味のある、贅沢な時間でした。

画像15

(京都へ帰る日、駅で見送ってくれたWWOOFer仲間とブルースギターの達人)


いいなと思ったら応援しよう!