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-たとえ時代は変われども。食事の味を引き立てる「極上の辛口」を一途に醸す-三千盛 訪問レポート

個性豊かな味わいが増え、まさに日本酒は百花繚乱の時代。
日本酒の味を表現する言葉は無数にあり、「辛口ちょうだい」という言葉が失われつつある中、今なお究極の"辛口のうまい酒"を追求し続ける酒蔵があります。

創業230余年、ブレない「極上の辛口」を醸す三千盛

安永年間創業。岐阜県多治見市の地で酒を醸す三千盛さんに伺いました。
日本酒『三千盛』の特徴は、何と言っても"食事の味を引き立てる辛口の酒"です。

突然ですが、みなさんは「辛口の日本酒」と聞いて、どんな印象を抱きますか?

・ピリっと舌に刺激が来るようなパンチのある酒
・どっしり重くて旨味が強い酒
・ドライな味わいで軽快な酒
・甘みが少なく、キレ味のある酒
・日本酒度が高い酒

などなど、様々な印象を抱くかと思います。
それもそのはず、日本酒には唐辛子のような「辛味」があるわけではないため、それぞれの抱く「辛口」のイメージは大きく異なる場合が多いのです。

一般的には、糖が多いと「甘口」、少ないと「辛口」と言われますが、アルコール度数が高かったり、酸度が高かったりすると甘みを感じにくくなるため、辛口の感じ方には様々な要素が複合的に関係しています。

そのため、最近は日本酒の味を表現する際に「辛口」という言葉を避ける傾向があるのですが、今回は敢えて「辛口」という言葉を使わせていただきます。
なぜなら、三千盛を語る上で「辛口」という言葉は欠かせないからです

最高の材料と最上の技術で、理想の酒を追い求める

岐阜県南部に位置し、美濃焼の産地として知られる多治見市。三千盛が蔵を構える笠原町は、川の清流と渡り鳥のさえずりが響き合う、穏やかな場所です。

ご案内いただいたのは、六代目蔵元の水野鉄治社長(写真右)、水野岳専務(写真中央)、社長のご子息の水野鉄盛さん(写真左)。
今回は、水野社長から酒造りのこだわりについてお話を伺いました。

東京農業大学醸造学科出身で、在学中は酵素の研究をされていた水野社長。
大変に研究熱心な方で、いわゆる「経験と勘による酒造り」というよりも、「科学的裏付けに基づいた技術」によって、理想の酒を追い求めています。

…そう言ってしまうと少し難しそうに思えますが、とにかく水野社長が目指すのは、一にも二にも、食事の美味しさを引き立たせる酒
日本酒単体で飲んでインパクトのある酒は、時として食事の味にまさってしまうことがありますが、三千盛は料理の味を引き立てる名脇役です。

料理の味を邪魔しない辛口であり、美味しさを下支えするうま味もある。繊細な料理なら余韻を引き延ばし、油っこい料理なら洗い流す、絶妙なキレ味。料理の香りを邪魔しないよう、吟醸香(華やかな香り)は控えめです。

そんな"三千盛の辛口"を実現しているのが、科学に裏付けされた多彩な技術なのです。

こだわりの自社精米

外部に精米を委託する酒蔵も多い中、三千盛は全量自社精米

精米は、のちの酒造りに大きく影響する大事な工程で、なるべく水分を飛ばさず、形状が揃い、米が砕けないよう、細心の注意を払う必要があります。
また、精米は酒造り(醸造)とは異なる独立した技術のため、精米専門の担当者までいらっしゃるそうです。

三千盛は、雑味の無い酒にするべく、高精白(たくさん磨いた米)の酒の割合が高いため、精米は長時間になります。なおさら精米には一層こだわる必要があるのですね。

そしてもちろん、醸造面にもただならぬこだわりがあります。

発酵をコントロールし、"辛口だけどうま味のある酒"を醸す

ものすごく簡単に言うと、日本酒は、お米のデンプンを麹の酵素(アミラーゼ)によってブドウ糖に分解し、そのブドウ糖を栄養源に酵母が増殖することで、アルコールが生まれます。

そのため、酵母が活発に発酵することで、糖があまり残らない辛口の酒に仕上がるため、三千盛では発酵の速度を高めるために様々な叡智を結集させているそうです。

まずは、酵素の力の強い麹を作り、お米をどんどん分解する必要があるため、麹作りが肝心要。これはまさに、酵素を研究されてきた水野社長の経験が最大に発揮されている部分ですね!

そして、醪(もろみ)の仕込みに使う汲み水の割合を多くすることで適度な糖濃度にしたり、仕込み水を加工して、麹のタンパク質分解酵素を抑えるようにしたりなど、様々な工夫がなされています。
(この辺りはかなり専門的な話になり、また三千盛独自の技術がふんだんに盛り込まれているため、割愛させていただきます…!)

総括すると、"辛口の酒を普通に作ると薄い酒になる"というジレンマを解消し、"辛口だけど味のある酒"を実現するのが、三千盛ならではの技術なのだと感じました。

多種多様な辛口が魅せる、様々な表情

続いては、お待ちかねの試飲タイム。酒造りのこだわりを伺った後に味わう日本酒の美味しさはひとしおです。

三千盛の最もベーシックな商品は、「三千盛 純米 純米大吟醸酒」(写真右から4番目)。精米歩合45%の純米大吟醸酒ながら、落ち着きのある米の旨みとコク、穏やかな吟醸香が特徴です。
このお酒をベースに飲み比べると、いずれも辛口ながら、それぞれに個性豊かな味わいがあることがわかります。

私が一番好きだったのは、春限定の「嶺萌 純米大吟醸酒 」(写真左から7番目)。
青々として爽やかで、心に風が吹き抜けるような美味しさ。柔らかな吟醸香は、野菜に合わせたくなります。残念ながら今の時期は販売されていないので、大人しく来年を待ちわびましょう…!

そして、今の時期にピッタリなのは、「れいじょうドライ 純米大吟醸酒」(写真中央のブルーのボトル)。三千盛では数少ない、やや香りが高いタイプで、使用している酵母が他と異なるそうです。やや低アルコールで、夏でもゴクゴク飲める軽やかさ。薬味をたっぷり使った料理や、カペッリーニなんかに合わせたくなります。

同じく夏限定の「アクティブスパークリング 純米大吟醸生酒」(写真右から6番目)は、発泡タイプのにごり酒。こちらも三千盛には珍しく、適度な甘みとフルーティーな香りがありますが、ピチピチ弾ける爽やかさとキレの良さがあるため、肉料理などのガッツリしたものにも相性抜群です!

そして面白かったのが、「三千盛 あぺりてぃふ」(写真一番右)。なんと、三千盛とは思えぬ超甘口酒です。食中酒ではなく、食前酒や食後酒を想定して造られたそうです。
個人的には、白の干しぶどうのような香りと、まるで貴醸酒のような凝縮した甘味を感じました。ブルーチーズに合わせて頂きたい。

…と、ほぼ全てが「食事の味を引き立てる辛口の酒」であるのに(あぺりてぃふは例外)、これほど多彩な味わいが創り出せることに驚きました。さすがは、創業220年余り、辛口一筋を貫いてきた三千盛です。これだけ多種多様な三千盛があれば、この世に合わない料理は無いのではないか?とさえ思ってしまいます。

「辛口の中で、より掘り下げていく」という水野社長の言葉を反芻します…。

深化、そして進化する、これからの三千盛

時流に流されず、創業以来の辛口を守り続ける三千盛。変わらない美味しさとブレない姿勢に、地元のファンに愛され続けている理由がよく分かりました。

そして、今や地元にとどまらず全国にファンが拡大し、さらに最近では水野専務がアジアやヨーロッパに足を運び、海外にも積極的にプロモーションをしているそうです。

三千盛は世界の料理とも相性が良いので、海外の方にも是非料理とともに楽しんでいただきたいですね!

さらに、最近蔵に戻られたというご子息の鉄盛さんが新しい風を吹かせる予感(勝手な妄想)。これからの三千盛が、ますます楽しみです!

一番大切なのは、毎日晩酌すること

酒造りの技術を語り始めたら止まらない水野社長ですが、最終的には毎日晩酌することを一番大切にされているそうです。

奥様の作る様々な料理とともに、何時間もかけてゆっくり晩酌しながら、飲み手目線で「三千盛はどんな酒であるべきか?」と自問自答することが、最終的には三千盛の味を形作っているのですね。
(ちなみに水野社長は毎日3〜4合ほど飲むそうです…!)

私自身、今までたくさんの蔵元さんのお話を伺ってきましたが、やはり飲むのも食べるのも大好きで、常日頃から晩酌を楽しんでいる蔵元さんの造る日本酒は、料理に寄り添うものが多いなあと感じています。

原材料や製法など、日本酒の味を形作る要素は沢山ありますが、実は造り手の食卓こそ、日本酒の味わいに直結しているのかもしれないですね。

三千盛さんに伺い、まだ知らなかった辛口の深い世界を垣間見ることができました。三千盛の皆様、ありがとうございました!

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