失恋

朝、いつものようにホームに降りると、そこには見覚えのある横顔があった。眩しい日差しがスポットライトのように彼女を照らしている。私は
「奏」
と呼びかけた。少し間が空いて、
「綺花」 
と私の名前を呼びかえす奏にドキッとする。少し会っていないうちに大人っぽくなったようだ。切り揃えてある髪が美しい。
「久しぶり、元気だった?」
「うん、綺花は?」
「もち、元気」
「よかった」
何を話したらいいか分からなくて、沈黙が流れる。
「綺花、高校どう」
「普通かな。奏は?」
「楽しい」
奏はそう言うと本当に楽しそうな表情をする。
私がいなくても、奏には関係ないという事実が私を少しだけ悲しくさせる。私は奏がいないと寂しいのに。
その時、綺花と呼ぶ低い声が聞こえてきた。
「おはよ」 
「おはよ、巧」
2人はやけに親しげだった。
「あ、奏、はじめましてだよね。この人は巧っていって、私の彼氏」
「へぇー」
私の彼氏。
その7文字の音声を理解するのに時間がかかった。
そっか。
そうだよね。
奏は美人だし、性格いいし、そりゃ彼氏の1人くらいできるよね。
だけど…。
急に熱いものが込み上げてくる。私はそれをコントロールすることができない。綺花の前では冷静を装いたいのに。
「綺花、どうかした?」
「ごめん、目にゴミが入ったみたい…。ちょっとトイレで洗ってくる」
私は2人から逃げるように駆け出した。
奏は私の知らないところで、私の知らない顔を私の知らない人の前で見せているんだ。それが悲しかった。私は男になれないから、どこまでいっても奏の恋愛対象にはなれない。
私の奏への思いが報われることはない。
でも、私は親友の幸せを願わなくちゃ。
奏が幸せでいてくれればそれでいいー。
それは、私の初恋の終焉だった。

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