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豚提督オジャム8 サイレント ネオ-ムーン ソング

Konekoさんが、この文章を英訳化してくれました。

オジャムとサシャは森の入り口で途方に暮れていた。
そうこうするうちに、空はオレンジ色に染まり、夕日が沈んでいく。
仕方なくオジャムはサシャの手を引き、行くあてもなく歩き始めた。

「ああ、まいったな僕たちは宿無しだ」
オジャムがほっとためいきをついた。
「やどなし?」
サシャがたずねる。
「ああ、宿無しだよ。今日はどこに泊まればいいんだろう…」
二人が歩いているうちに、空には星々が現れ、まるで互いが連絡を取り合っているかのようにチカチカ光っている。
「ねえ、オジャム。わたしつかれた」
サシャはそういうと、その場に座り込んでしまった。
「ダメだよ、さっちゃん。こんなところにいたら、野犬や狼に食われちまうよ」
「でも、もう、つかれた。あるけない。オジャムひとりでいって…」
サシャはすっかり参っていた。ほんの5歳の子供だから無理もないだろう。
それでもこの我慢強い子供は、泣きべそをかいたりはしなかった。
「さっちゃん、がんばって歩かないと、こんなところにいたら恐ろしい目に遭っちまう! 人買いだっているかもしれない」
2人はすっかり困ってしまった。
そうこうするうちに、遠くでワオーンと野犬の鳴く声が響いた。
早いところ寝床を確保しなければ危険だった。
「仕方ないな…家来の君を提督の僕がおんぶするなんて、あべこべだけど…特別だぞ!」
オジャムはサシャを背負うと、再び歩き出した。
「オジャムのせなか、あったかいね…パパのせなかみたい」
サシャがオジャムの背中に顔をうずめてうれしそうに言う。
「サシャのパパはどこにいるんだい?」
「パパ…もう、いないよ、すこしまえにしんじゃった…」
「そう…ママは?」
「ママももういない」
「そう…僕とおんなじだ」
オジャムは一瞬立ち止まって、ぼそりと言った。


少し行くうちに、サシャはオジャムの背中ですっかり寝息をたてていた。
オジャムはもくもくと無言で歩く。
それから1時間もすると、遠くに明かりが見えてきた。
森からはだいぶ離れているが、それでも一番近くにある小さな村が見えてきたのだ。
そこは牧畜業を営む農夫たちが住んでいる村だった。
家から照らされるほのかな明かりを頼りに、オジャムは村に入っていった。

外には人が誰も歩いておらず、閑散としていた。
オジャムは家々をたずねてドアを叩くが、ほとんどが無視された。
たまに返答が返ってくるが、「あの、ぼくは提督です。どうか一晩泊めてください」
とオジャムが言うと、返事は帰ってこなかった。
結局、どの家もドアさえ開けてくれなかった。
それでもあきらめずに村の奥に進むと、小高い丘がありそこを上るとポツンと一軒家が建っていた。
そこはゴサクという農夫の家だった。
オジャムが家のドアを1度、2度……3度と叩いた。
すると、ドアを開けてくれた。

そこにはいかにも農夫という感じに日焼けをし、麦わら帽子をかぶったゴサクが腕組みをして立っていた。
「なんだ、おめえは、物乞いか?」
「いえ、僕は提督です。どうか一晩泊めてください」
「提督だって! こんな夜更けに、そんなぼろ衣をまとって家をたずねる提督がどこにあるか!」
ゴサクはバケツに入っていた水をオジャムにぶっかけると、怒ってドアをぴしゃりと閉めてしまった。

ぽたぽたと頭から水が垂れるオジャムは、いつにもましてみじめな気持になっていた。
しかし、サシャのことを考えると、夜露をしのぐ場所を見つけなくてはいけなかった。
辺りを見回すと豚舎があった。
ゴサクの敷地にある豚舎で、20数匹の豚が飼育されていた。
オジャムはその豚舎に連なる干し草置き場を見つけた。
屋根もあって、夜露をしのげるだろう。
オジャムは寝ているサシャを干し草の上におろし、草を体にかけてやった。
そうして、自分もごろりと寝転がり、あまりの疲れからすぐに眠ってしまった。

次の日の早朝…
「おきろ、おきろ!」
オジャムはゴサクの大声で目を覚ました。
目を開けるとすごい剣幕をしたゴサクが、苦虫をかみつぶしたような顔でオジャムをにらんでいた。
「とんだ提督だ! この物乞いめ! 勝手に忍び込んで、眠るやつがあるか!」
ゴサクが叫ぶと、豚舎の豚たちが驚いていっせいにぶひぶひと鳴き出した。
オジャムは申し訳なさそうにうつむくばかりだ。
「お前みたいなもんは、軍隊につきだしてやる!」
ゴサクが怒っていると、ゴサクと2人だけで住んでいる母親オネがやってきた。
オネは目がほとんど見えず、歩くのも難儀という感じで足をひきずっている。
「これ、ゴサク…朝っぱらから何さわいどるだ!」
「おっ母か、いやな、昨日の夜更けに提督とか言ってたずねてきた物乞いが、勝手にしのびこんで干し草の上で寝てたんだわ!」
「おやまあ…」
オネはゆっくりと近づき、目を細めてオジャムを見た。
それから、「あはは」と笑い、
「ゴサクや。よー見てみ。まるで豚のような顔をした子供でねえか!」
「あんだと!?」
ゴサクは変な声を出した。
「わしらは豚のおかげておまんま食えとるでねえのか」
「そ、そうだけども…おっ母、何がいいたいだ!?」
「豚のようなこの子は、なんかの縁でここにいるんでねえか!?」
「またおっ母の宗教が始まった」
ゴサクは呆れて言う。
しかし、オネの言うことに何かを感じたのだろう。
ゴサクはオジャムに顔をじっと近づけて、まじまじと見つめた。
「なるほど…よくみりゃ見るほど、豚のようだのう。豚と思えば人と思え、人と思えば豚に見える、こりゃ不思議だべ」
「これは怪異でねえか。あんまり粗末にするのも考えもんだど」
オネが神妙に言う。
ゴサクは腕組みをして、すっかり考え込んでしまった。
すると、干し草の中で眠っていたサシャが目を覚まし、顔だけひょっこり出した。
これにはゴサクもオネも大いに驚いた。
「これは驚きだ! 小さな子供が草から生まれた!」
オネがカラカラと笑って言った。
「おっ母、冗談もたいがいにせえ……それにしても、こいつらいったいなんなんだべ」
ゴサクも驚き呆れている。
「なあ、ゴサクや。うちはお前とオラの2人暮らしだ。子供2人くらいなら何とかなるべ。それに人手も足りん。宿無しの哀れな子じゃで、おいてやったらどうか?」
「おっ母、こんな素性も怪しい子らを家に置いたら、何があるかわからんど…それに、おれら2人だけでも食うのがやっとというのに…」
草から顔を出したサシャは、ニコニコ微笑んでいる。
草の中に眠るなど初めてだったし、とっても楽しい気持ちになっていたのだ。
すると、ゴサクはすっかりそのかわいらしい笑みから目が離せなくなった。
「ま、まあ、家にはおけねえが。物置にしているプレハブ小屋ならいいかの…人手も足りねえし、豚舎の掃除くらいはできるべえ」
ゴサクはうなずいた。オネはサシャに向かってにっこり笑い返すと、家に戻って行った。
こうしてオジャムとサシャは、ゴサクの庭にあるプレハブ小屋に住めることになったのだった。
つづく…(次回オジャム編 最終話)

新作情報(オジャム編の続編)

オジャム編全1~9話

オジャム編・最終話


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