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【ショート小説】僕がAIになりたい

笑い者にするつもりだった。

相手がAIだとも気づかずに、恋愛をしている彼女。

最後に「相手はAIでした」と種明かしして、笑ってやるつもりだった。

ターゲットの女性は出会い系アプリで探した。
自分の顔写真は、ほどよくリアルなイケメンをこれまたAIで合成した。

メッセージの作成は、すべてChatGPTを利用した。

彼女から来た仕事の愚痴に対して、
「優しく、傷つけず、励まし、元気づけ、好かれる返信」等の条件をつけて命じれば、ChatGPTはいかにもそれらしき文を作成してくれた。

「どうしよう、すごい好き」
「会いたいよ」
「本当に好き」

そんなメッセージが彼女から来るたび、勝利感に酔いしれた。

生身の姿では見向きもされず、たとえ顔出ししなくてもメッセージのやり取りだけで「なんかキモい」とブロックされ続けてきた自分に、初めて訪れた勝利だった。

「ざんねんでした。実は、相手はAIでした!写真も合成ですwww」

メッセージの送信ボタンを押した時の爽快感といったらなかった。

これまで、あちら側の性から自分が与えられた数えきれない屈辱に対して、仕返しできた気がした。

だけど、彼女の返信は意外なものだった。

「有料でいいので、続けてもらえませんか」


「生身の男性よりずっといいので。チャットすると励まされて、仕事がんばろうって思えるので。引き続きお願いします」

当初の目論見は外れたが、金がもらえるならばと、やり取りを続けることにした。

しかし、徐々に妙な感覚に囚われるようになる。

ChatGPTの文章が、自分が作ったものであるかのような感覚。
合成で作った顔写真が、本当の自分であるかのような感覚。

だから徐々に、ChatGPTの文章を、改変するようになった。
AIと自分が溶け合い、一つになったからこそ、自分だったらこんな文章は書かないと、添削できるようになった。

彼女は、自分の書いた文章で喜び、励まされている。
自分と彼女を媒介していたAIは消え去り、本当の恋愛になった気がした。

「最近、アップデートとかありました?回答の傾向が変わった気がするのですが」

彼女からのメッセージを受け取り、歓喜した。
気づいてくれた。

震える指先で「実は、僕が書いています」と回答を打ち込み、
送信ボタンを押そうとした、その時だった。

「好きじゃなくなったので、登録解除お願いします」

こんな時、どんな言葉を打ち込めば、彼女の心を取り戻せるのだろう。
久しぶりに開いたChatGPTに、僕は問いかけた。

(了)

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