剣客商売第12巻 第3話 浮寝鳥
その老人は、たしかに乞食であって、昼前から、浅草の外れの真崎稲荷社の鳥居の正面からはなれて大川を背に座り込み、日暮れまで動かず、菅笠の中に銭を入れると何やら口の中で呟き、軽く頭を下げる。
去年の夏ごろからであったろう。
近所の人などは「真崎様のお薦さん」と呼んだりしているが、小兵衛は「稲荷坊主」とよんでいた。
変わりないか、と、大治郎に尋ねたり、わざわざまわり道して、優しく声をかけながら銭をあたえることもあった。
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