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ドキュメンタリー映画『教育と愛国』

ドキュメンタリー映画『教育と愛国』を観た。道徳の教科書や歴史教科書への政府の介入を追ったドキュメンタリーだ。

第一に抱く感想は、この映画に出てくる「慰安婦問題」や戦争加害を否定したい人たち、読んでないな!ということである。一番印象に残ったことが、「慰安婦」問題や日本の戦争加害を否定する、議員や論客、研究者の発言だった。ある人は「慰安婦」問題等を取り上げている教科書を読んですらいないのに、採用した学校に脅迫とも取れるハガキを送っている。ああ、「この人たち」は読まないんだな、と思った。他に、「慰安婦」問題を取り上げた教師や研究者をツイッターで非難する政治家も出てきたが、彼や彼女も恐らく内容をきちんと調べてはいないだろう。「事実」を確かめようとすら思っていない。彼女ら、彼らの「理想の日本」があり、そのために生きているように思えた。この「事実は別に知らないんで。だって反日的な内容なんでしょ?読まなくても分かるよ」という態度はSNSと親和性が高い。

『教育と愛国』を観ようと思った理由はいくつかある。一つは永田浩三『NHKと政治権力』を読んだことだ。女性国際戦犯法廷を追ったNHKのドキュメンタリー番組が、放送直前になって政治圧力により内容を変更したという事件について、番組の担当ディレクターだった著書が書いた本だ。「慰安婦問題」についてもっと知りたいと思った。それで、新宿にある「女たちの戦争と平和資料館」に行った。教科書問題を取り上げた展示をやっており、「慰安婦」問題を含め戦争加害が徐々に教科書から削除されていく過程をまとめていた。この資料館には、「慰安婦」にされたという被害を訴えた各国の女性の証言と一人ひとりの顔写真が展示されている。それを見て読んだとき、これを「なかったこと」として扱うのは一体どういうことなのだろうと思った。そうしたことから、『教育と愛国』を観たいと思った。

あとは、映画の内容とは関係ないが、仕事を頑張ろうと思った。映画を通して、研究者の牟田和恵さんや、教師の平井美津子さんの活動と研究を知り、何より監督の斉加尚代さんの思いに動かされた。私はテレビ局で働くわけではなく、研究者でも教師でもなく、教科書に直接関わることも今のところない。けれど、全ての仕事や自分がすることはどれも何らかの形で社会に関わり、影響を与えるはずだ。小さなことはどこかで繋がっていて、自分だけ別世界にいることなんてありえない。だから仕事頑張らないとな、と思った。同時に、政治圧力やバッシングが激しくなるなか、私はちゃんと発言できるだろうか?匿名でなくても言うべきことを言えるだろうか?とも思う。「考えなければならない」と言うけれど、日々の生活から自分のことでいっぱいいっぱいになる毎日で、「考え続ける」ことができるのだろうか。

戦争加害をなかったことにしたい政治家や研究者の発言が、ドキュメンタリーとして映し出されることである種「滑稽」に見えるところーその発言の異様さが際立つところーはミキ・デザキ監督の『主戦場』とも通じるところがあった。会場内では失笑が起きていたが、この映画に映されている人たちが権威・権力を持っていると思うと笑えない。

『教育と愛国』
監督:斉加尚代  毎日放送 配給:きろくびと 2022年

永田浩三『NHKと政治権力 ー番組改編事件当事者の証言』岩波書店 2014年

アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館


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