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「男性の身体は雑に扱っていい」という感じ:青弓社『「テレビは見ない」というけれど』

 青弓社編『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』を読んだ。お笑い番組、バラエティー、ドラマ、ワイドショーをジェンダーやセクシュアリティの視点から考察した本。ライターの西森路代さんや武田砂鉄さんが寄稿している。

岩根彰子「画面の向こうとこちらをつなぐ”シスターフッド”」が特に面白かった。こんなに「シスターフッド」ドラマが日本にあったんだ!と思ってわくわくした。私はバラエティーの「ブスいじり」が嫌でテレビを見るのをやめてから、どうせ面白いテレビ番組なんてないでしょ、と映画やアメリカのドラマに傾倒していった。この本は、私みたいに「(特に日本の)テレビは見ない」と言う人に向けたものかも、と思った。

その「シスターフッド」ということばも批判的に考察する鈴木みのり「わたしのためではない物語に親しむ」や、「バラエティーってああいう感じでしょ」に向き合う武田砂鉄「なぜワイドショーはずっとああいう感じなのか」も鋭く、目が開かれた。特に鈴木みのりさんの文は、なぜトランスジェンダーの役にトランスの俳優を起用すべきなのかや、トランス俳優が排除されている構造についてとても丁寧に細かく書かれていた。

男性の身体

 この本を読んでいて私が思いあたったのは、テレビで「男性の体が雑に扱われる感じ」だ。それというのも最近、ドラマ『花ざかりの君たちへ』がTverで配信されているからだ。男子校に女子生徒が「男子」として編入してくるというこのドラマを、もう3回くらい観ている。高校生同士の友情と主人公の恋がメインなものの、同性愛嫌悪的な表現やブラックフェイスなど問題が沢山ある。「今ならできない」と言われるだろうが、Tverで配信するにしろ注釈が必要だと思う。

 そうした表現を別にしても、今回見直していて気になったのが、「男性なら雑に扱ってもいい」という「感じ」だった。相手の身体を無理やり触る、「男かどうかチェックする」といった行動が「男子校のノリ」として出てくる。女性相手にやったら即「問題」となりそうな行動が、「男子」なら良いのだろうか?(「男装した女子」もそれに巻き込まれているのだが)
 この「男子校/男子高校生のノリ」は現実と地続きなのを実感として知っている。私がいた高校の文化祭では、クラスごとのパフォーマンスがあり、ダンスや寸劇を発表していた。男子生徒がほぼ裸でダンスをしたり、女装したりといった「パフォーマンス」は当たり前になっていた。それが「笑い」になっていた。率先して裸になっていたクラスメイトもいたけれど、実は嫌だと思っていた人が何人いたのだろう。そして私自身は、女子生徒がやらされていれば怒っただろうが、男子生徒のことは気にしていなった。それは私のなかに「男子なのだから多少雑に扱われてもいいだろう」という考えがあったからだと思う。
 この「雑に扱っていい」「傷つけていい」という感じを、『花ざかりの君たちへ』を見ていると思い出す。『「テレビは見ない」というけれど』で清田隆之さんが指摘していたように、バラエティーでも似た表現があると思う。女性の身体が晒されることはタブーだが、男性なら「多少」下ネタをぶつけてもいいというような。私は暴力表現・性表現が一律にダメだとは思わない。「エロ」のノリ(?)は互いに同意があればいいと思う。表現する側が無理やりやらされていないか、暴力が単純に「そういうものだから」と肯定されていないかが気になる。それに、「テレビ」は多くの人が見ることを前提としたものであるはずだ。自分の身体を勝手に触られたり、晒されたり、からかわれたりすることは暴力だと思う。女性へのそれは注目が集まっているものの(それでもスカートめくりが「ネタ」にされてるけど!怒)、男性なら......という「緩さ」は、男性がセクシュアルハラスメントに嫌だと言い難い構造を作ってしまうのではないか。そうした表現を見た男の子に、男なら良いのだと内面化してほしくない。私の高校での体験と「テレビ」の感覚は繋がっていると思う。

「テレビは見ない」というけれど

 私はずっと「テレビは見ない」と言っていた。どうせジェンダー差別しているんだろう、くだらないことを言っているんだろうと思っていたからだ。今年のオリンピック中も開催式を始め一切何も見なかった。でもそのせいで、良い作品も変えて欲しい部分も「スルー」してきてしまったのかもしれない。冷笑的な態度は嫌いなのに。今は、時間がある時にもっとテレビ見てみようかなと思っている。多くの章で勧められていた『問題のあるレストラン』を見てみたい。

青弓社編集部編『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』2021年
著者:西森路代、清田隆之、松岡宗嗣、武田砂鉄、前川直哉、佐藤結、岩根彰子、鈴木みのり


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