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『この世にたやすい仕事はない』

津村記久子『この世にたやすい仕事はない』を読んだ。『ミュージック・ブレス・ユー!!』を読んでから津村記久子の小説が大好きだ。『君は永遠にそいつらより若い』『まともな家の子どもはいない』.....。いつもタイトルが最高。

『この世に~』は仕事をやめた「私」が5つの仕事を転々とするストーリーで、各章がそれぞれの仕事内容になっている。「監視のしごと」に始まり、「バスのアナウンス」「おかきの袋の裏」「張り替え」「森の小屋でのかんたんなしごと」。具体的な職業名がなくパッとは思いつかないけど、誰かが作っているはずのものだったり、何かを守るためだったりする仕事たちだ。前職のことがあり仕事や職場の人間関係に踏み込めない「私」が語るから、読者の私も少し離れたところから仕事を覗く気分になる。ぜったいに仕事に就かなきゃ!就いたらやめられない!といったプレッシャーが、「私」にも私に仕事を紹介する正門さんにもないところが良い。

そしてどの職場にも、ちょっと気になる「謎」が出てくる。その謎の背景は少し切なく、すっきりとは解決しない。でも、実際日常で遭遇する事件てこんなものかなという感じもした。その謎にはもちろん人間関係が絡んでいるのだが、出てくる人たちがお互いちょうど良い距離感を保っているから嫌な感じがしなかった。『ミュージック・ブレス・ユー!!』ともに、出てくる人たちのべたべたしないところが好きだ。『動物のお医者さん』のキャラクター同士の距離感も好きだけれど、それと似ている気がする。

この本は、なんと大学の就職課に置いてあった。「面接」「エントリーシート」「キャリアプラン」等の本に圧倒されるなか、この本だけが唯一の小説でぽつんと置いてあり、ほっとした。

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