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迷い、行き詰っているときに読む本―星野博美『島へ免許を取りに行く』

 この状況を打開したい、そのための「目標」-自動車の運転免許を取ること。著者の星野博美さんは長崎県五島列島、福江島にある「ごとう自動車学校」の合宿に行くことにするのだ。それが『島へ免許を取りに行く』(集英社)の内容だ。馬も犬もいる、目の前は海の自動車学校。そこで1か月近く奮闘した記録と、免許を取ってからの日々を書いている。
 合宿または通いでの運転免許取得そのものは、多くの人が経験すると思う。でもやっぱり星野さんだから面白い!「返還前」での香港の日々を書いた『転がる香港に苔は生えない』の著者だもの。今いる場所で考えて、疑問を追究するところは運転でも発揮されるのだ。学科教習でも実技でも質問しまくり、練習し、島の地図もばっちり覚えていく。かなり運転に苦労したことが書かれているのだが、免許を取ると決めたら徹底している。そもそも、なぜ長崎なのか、「ごとう自動車学校」なのか。その決め方からしてすごいのだ(これはぜひ本で読んでほしい)。これから運転免許を取ろうという人にも励みになるかもしれないが、既に取った人が読むと楽しいのではないかと思う。特に運転が下手で苦労して取った人は、なんでこうなるんだ!という驚きや、できないことができるようになっていくワクワク、運転を覚えたことで景色が変わっていくさまがわかると思う。もちろん、馬と犬がいる珍しい自動車学校とそこにくる人々と星野さんの交流も面白い。これを読んでごとう自動車学校に行きたくなった。でも自分が行っても同じ体験はできないだろう。こんなに誰かと関係を作っていくことも、冷静に自分を見れることもなく、珍しい経験としてブログに書くくらいにしかならないと思う。
 免許取得の体験記でありつつ、行き詰った状況をどう打開するか?進んでいくか?という星野さんの考え方がとても勉強になる。本に書かれているとおり、後悔しても何ら状況を変えることにはならないのだ。常に悔やんでいる私は奮い立つ気持ちがした。

ほんとうは、この本はまさに1年前、自動車学校に行くか悩んでいたときに背中を押してほしくて「はじめに」の試し読みだけしたのだった。晴れて免許を取れた今、最後まで読んでみた。

「何かができるって、こんなに楽しいんだ!」
あの喜びが忘れられないのである。

星野博美『島へ免許を取りに行く』304ページ

この気持ちを私も味わった。何かを始めるのに悩んでいるときに読みたい本だ。

『島へ免許を取りに行く』
星野博美
集英社文庫 2016年

 

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