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ラジオは聴いている人も作っている人も面白いー『深夜のラジオっ子』

 去年、初めて自分からラジオを聞いた。『菅田将暉のオールナイトニッポン』が始まりである。それから『七海ひろきの七つの海の大航海』(終わってしまった......)『週末ノオト』『アフター6ジャンクション』『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』と立て続けに聞き出した。聞いていくうちに、「ラジオ用語」も覚え始めた。ずっと伝統工芸だと思っていた「ハガキ職人」はラジオに投稿している人だということ、ラジオ番組には「構成作家」がいること。ラジオを聞いていると、こんなに面白いことを思いつく人がたくさんいるのだと驚く。みんな、本当に私と同じただのリスナー?お笑い芸人とか作家なのではなくて?
ハガキ職人から構成作家になるひともいると知り、なるほどと思った。

 村上謙三久『深夜のラジオっ子 リスナー・ハガキ職人・構成作家』は構成作家にインタビューをし、彼/彼女がラジオを聞き始めてから仕事として関わるまでをまとめた一冊。藤井青銅さん、田家秀樹さん、と計10人の話が載っている。私はラジオ自体を聞き始めたばかりなので知らないことが多かったけれど、ファンにとっては面白い裏話がたくさんあるのだと思う。そしてラジオ局で働きたい人はもちろん、そうでない人にも「自分でどう道を開いていくか?」という点でとても勉強になる。大学を卒業し、いわゆる「就活」を経て働き出した人はいなかった!もちろん働いている人のなかには就活でラジオ局に内定を得て、という人もいるだろうけれど、この本に出てくる人の背景はバラバラ。人生って何がどう繋がるか分からないんだなと面白かった。とくに強烈なエピソードを持つのが長田宏さんと辻村明日香さん。長田さんはテレビの制作会社で働いていた頃から理由をつけてはラジオ局に顔を出し、自分を売り込んでいたという。それから社長に「ラジオの仕事がしたい」と話し、「2か月で仕事を取る」という約束で入る(本文はもっと恐ろしい言い方......)。

「(中略)テレビのAD時代から出入りして、いろんな人を見ていたので、この人にはこうすればいいとか、こうやればある程度仕事を取れるというのを把握していたので、二カ月で何本か仕事を取ったんですよ。コーナーのアイディアやお題を持っていって、スケッチブックに全部書いて、オチまで付けてプレゼンするとか」(pp.207-8)

辻村明日香さんは専門学校に進学し、入学後2か月のうちにサブ作家オーディションに合格。それから名刺を持ってゲストに渡し、学校に来た講師にも売り込み。「私の中では、ラジオをやりたいという人が同じ学年に三〇人いるけど、この全員がラジオ業界に入れるわけがないと考えていたんですよ。「この三〇人の中でトップにならなかったら、仕事にならないなあ、就職できないだろうなあ」と思ってて......一九歳で(笑)」......って凄い(p.270)。フードエッセイストの平野紗季子さんも常にカバンにプレゼン用のノートを入れていたというし、活躍する人はこうしてどんどん仕事を取っていくのだなと思った。ラジオ局に限らず、どの仕事でも同じなのではないだろうか。就活している人にも良い本かもしれない(私のことー)。若い頃に働き始めた人ばかりでもなく、10人それぞれがラジオ業界に入った年齢もきっかけも全く違うところも面白かった。

「逃す」と一番悔しいメディアがラジオな気がする。映画は古いものでも再上映されることはあるし、本は読むタイミングなんて常にある。テレビも生放送でなければ録画やTver。でもラジオは、その時聞かないとだめな気がする。Radikoのタイムフリーとポッドキャスト配信もあるけれど、そのタイミングを共有できた人にはかなわないように思うからだ。オールナイトニッポンを聴いている時のワクワク感、CMが終わってリアクションを聴く面白さは翌朝タイムフリーで聞くと味わえない。番組が面白いことに変わりはないけれど。この本を読んでいても、私もその時聞いていたかったな、と羨ましく思う部分がたくさんあった。私はリアルタイムで『菅田将暉のオールナイトニッポン』を聴いていたことを後の世代に自慢するぞ。

最近もラジオで、中学生の時からずっとその番組を聞き続けているという人の投稿を聴いた。少し羨ましかった。

『深夜のラジオっ子 リスナー・ハガキ職人・構成作家』
村上謙三久 筑摩書房 2018.

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明日は金曜日なので『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』聴きます。

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