【あつ森】World's End Happy Birthday【原作版第2章①料理と音色】
第2章① 料理と音色
1.雪と氷華
四季咲 氷華、魔法時代の前世は、冬の精霊。
僕の前世、スノウとともに、魔法時代の世界を冬に閉じ込めたのだった。
「約束通りこれを渡すわ。」
氷華さんは白い布で覆われた包みを僕に差し出した。
「私のとても大事なものだけど、貴方が夢で見た状況を解決するために、特別に貸してあげる。」
両手で受け取るとずっしりと重かった。
「これは貴方の因縁よ。
しっかりけじめをつけなさい。雪。」
2.双子の食卓
家に帰り着き、玄関のドアを開けると、炒め物の香ばしい香りが漂ってきた。
灯火がキッチンで夕ご飯を作っていた。
「雪、おかえり。ごはんできたところだよ。
父さんたち、今日も遅くなるって。」
僕たちの両親は弁護士で、1年前、引退する先生の跡を継いで、念願の共同事務所を開業したばかりだった。
僕たちが急に高2で転校することになったのも、そのためだ。
事務所経営が軌道に乗ってきて、帰宅が夜遅くなることも多く、この春休みは僕たちで夕ご飯を作って食べていた。
僕はあんまりやる気がないから、作るのは主に料理好きな灯火だけど…。
今日の夕飯はガパオライスだった。
香りが爽やかで、彩りが鮮やかで、灯火の好きな料理らしい。
辛いものが好きな僕にとっても、好みの料理だった。
「「いただきます。」」
あれ…食感が違う。
パプリカと玉ねぎを、いつもは綺麗に細かく刻んでいるのに、今日は切り方が粗かった。
上に乗っている目玉焼きも、少し焦げついて固まっている…。
なんだろう、心なしか味も薄くてぼんやりしていた。何か調味料を入れ忘れたのかな。
「ごめん…。今日…ちょっと失敗しちゃったかも。」
灯火が申し訳なさそうに言った。
「いいよ…。作ってくれてありがとう。」
しょんぼりした顔からも、料理の味からも、氷華さんに言われたことを気にしているようで弟が気の毒だ…。
夕ご飯を終えて部屋に戻ると、僕は氷華さんから渡された包みを開けた。
中から現れたのは、冷気を纏った大昔の魔法の杖。
先端に氷の結晶が彫刻され、静かに青く輝いている。
とても貴重なものなので、慎重にケースに保管することにした。
冬の精霊の氷の杖…。
これで、きっと…。
3.灯火の音色
それから数日後の昼間のこと。
流石に疲れた…。僕は自室の椅子に座ったままうとうとしていた。
微睡みの中で、低く響く音色に目を覚ます。
灯火が自分の部屋でチェロを弾いているようだ。
僕はヴァイオリン、灯火はチェロが弾ける。
どちらも弦楽器好きな祖父から譲り受けたもので、時々2人で合わせたりもする。
春休みの前は、厳かな音色の無伴奏チェロ組曲をひたすら弾き続ける音が聴こえていた。
穏やかな灯火には似合わない、不安定で走った音色だった。
そのせいか弦を切ってしまい、張り替える羽目になったのだった。
だけど今は、優しく明るい音がしていた。
移弦がなめらかで、音色がやわらかくクレッシェンドしていく。
高音で響かせるビブラートも伸びやかで、とても綺麗だ。
エルガー『愛の挨拶』…か。恋する灯火らしい。
ピアノが上手な董子と、今度一緒に弾いたらいいのに。
…「今度」があればの話だけれど。
灯火…ごめん。
贈り物作り、あんなに頑張っているのに。
これから自分がすること、起こりうることを思うと、胸が痛んだ。
第2章①料理と音色 おわり。
灯火視点の物語、
第2章② 想いをかたちに へつづく。
🌟読んでくださり、ありがとうございます🥰
灯火の料理と、お部屋にも置いてあるチェロのお話でした✨
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🌟共同制作 ゆりーなちゃん
🌟撮影&舞台協力 ちゅーぺっ島、fumikaちゃん
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