【あつ森】World's End Happy Birthday 【原作版 第1章①ドーナツとコーヒー】
プロローグ
第1章① ドーナツとコーヒー
兄の雪が工房を訪れていたのと丁度同じ頃、
双子の弟の僕ー灯火は、董子と並んで博物館前広場のベンチに座っていた。
僕たちはドーナツ屋さんで買ったドーナツに、博物館のカフェのコーヒーをテイクアウトして、おやつにするところだった。
董子はいちごドーナツと、ミルクとお砂糖たっぷりのコーヒー、僕はチョコドーナツとブラックコーヒーを選んだ。
あたたかな春の日だまりの中で、ドーナツの甘い香りとコーヒーのほろ苦い香りが混ざり合って心地良い。
董子は僕の隣でドーナツを口にしていた。
桜色に潤んだくちびるが、きらっと光る。
あれ…?何か塗ってる?
学校で会う時そんなのしてたっけ…。
ささやかないつもとの違いにどきどきしてしまう。
「灯火?たべないの?」
董子がまんまるな澄んだ瞳で、上目遣いにじっと僕を見つめてくる。
ゆるく編まれた三つ編みが、色白な小さな顔を包みこんで、ふわふわの白い子猫みたいだ。
「えっ、あっ。いただきます!」
かわいくて見とれていたなんて言えない…。
僕はあわててドーナツに齧り付く。
…甘い。口の中に幸せな味が広がっていく。
続けてコーヒーをひと口飲むと、深い苦味と甘味が舌の上でやさしく溶け合っていった。
「…美味しい。」
「ね!ドーナツにコーヒーって最高の組み合わせだよね!」
「うん。僕も好き。」
嬉しそうな董子に、僕も笑顔で答える。
僕がそう言うと、ふんわりと董子の頬が赤くなった気がした。
柔らかな春の日差しの中で、モンシロチョウがパンジーの花の上をひらひらと飛んでいた。
「この前まで寒かったのに、もうすっかり春だね。」
「ね〜!桜が咲くの楽しみだね!」
僕たちが博物館のオーロラの絵の前で出会ってから、もうすぐ1年。
ずっとこんな日々が続けばいいのに…。
…前世の「トーカ」も、こうやって「トーコ」と春の日を過ごしたかったのかな…。
そう思うと、好きな味のはずのコーヒーが、いつもより苦く感じた。
第1章① ドーナツとコーヒー おわり
第1章② 杖と前世 【原作版オリジナルパート】 へつづく。
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🌟共同制作 ゆりーなちゃん
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